企画・連載

絶滅から守りたい! 多様な生物の姿を写真で届ける 2026年6月18日

〈SDGs×SEIKYO〉 アメリカの写真家 ジョエル・サートレイさん

 地球上に存在する多様な生物の中には、絶滅の危機にある種も少なくありません。アメリカの写真家ジョエル・サートレイさんは、2006年に「ナショナルジオグラフィック・フォト・アーク」という、世界中の生き物を撮影するプロジェクトを立ち上げ、これまでに1万7000種以上を撮影してきました。「手遅れになる前に、救える命があることを伝えたい」と語るサートレイさんに、SDGsの目標15「陸の豊かさも守ろう」をテーマに話を聞きました。(取材=玉川直美)

 ――サートレイさんは、ナショナルジオグラフィック誌を中心に、写真家として活躍しています。多様な生き物を撮影する写真家になろうと思ったのは、なぜでしょうか。
  
 子どもの頃、「鳥」の写真図鑑で、絶滅した動物の存在を知りました。中でも印象に残っているのが、かつて何十億羽もいたにもかかわらず絶滅したリョコウバトです。
  
 なぜ、それほど多く存在した種が絶滅してしまったのか、当時の私には理解できませんでした。
  
 図鑑には、「マーサ」と名付けられた、世界で最後の一羽となったリョコウバトの写真が載っていました。その写真は、1914年にアメリカ・オハイオ州のシンシナティ動物園で亡くなる前に撮影されたものでしたが、残念ながら、モノクロで、粗くぼやけていました。
  
 写真を眺めながら、思ったのです。“絶滅してしまった種を伝えるために残されたものは、たったこれだけなのか”と。同時に、野生生物や、自然保護の課題について知りたいと思うようになりました。
  
 また、高校生の時に初めてカメラを手にして以来、写真にすっかり夢中になり、「写真を通して物語を伝えること」に興味を持ち始めました。大学でフォトジャーナリズムを学んだ後、報道機関などでの仕事を経て、ナショナルジオグラフィック誌の写真家になりました。

 ――現在、取り組んでいる「フォト・アーク」は「写真版ノアの箱舟」を意味します。どのような撮影プロジェクトなのか教えてください。
  
 フォト・アークは、世界各地の動物園、水族館、野生生物の保護施設等で飼育されている2万5000種以上の生き物を写真で撮影し、その姿を記録・発信するプロジェクトです。2006年に開始し、今年で20年になります。
  
 これまでに60カ国以上を訪れ、1万7000種以上を撮影してきました。その記録は今も更新を続けています。
  
 撮影している全ての生き物が絶滅の危機にあるわけではありませんが、写真を通して、多様な種の存在を伝え、保全への関心を広げることを目指しています。また、絶滅危惧種の保護や回復に挑む保全活動家の支援にも取り組んでいます。

「知ること」から

 ――フォト・アークを始めたきっかけは、何だったのでしょうか。
  
 2005年、妻が乳がんと診断されました。それまで世界各地を飛び回って撮影する日々を送っていた私は、仕事を離れ、自宅で家族と過ごす時間が増えました。幸い妻は今、元気に過ごしていますが、診断を告げられた瞬間は、まるで時間が止まったかのようでした。当たり前に続くと思っていた未来が、突然、確かなものではなくなったのです。
  
 先の見えない状況の中で、病と闘う妻の姿を間近で見ているうちに、私はふと、絶滅の危機に直面している生き物たちのことを思い起こしました。危機にあって生き延びようとする彼らの姿と、困難な状況の中でも前を向く妻の強さが、重なって見えたのです。
  
 絶滅危惧種は、いつまで地球上で存続できるか分かりません。そうした生き物を守るため、何かできないかと思い、翌06年にプロジェクトを始めました。
  

 ――どのような思いで撮影に臨んでいますか。
  
 それぞれの生き物が持つ美しさや魅力をとらえ、思わず見入ってしまうような写真を届けたいと思っています。
  
 写真の背景は白か黒で統一し、生き物以外のものは写しません。大きな動物も小さな生き物も、全ての被写体を同じぐらいの大きさに写しています。彼らに等しく生きる権利があることを表したいのです。
  
 また、撮影の際は、被写体の生き物と“目が合う瞬間”をとらえることを心がけています。目を見つめることで、声を持たない被写体の“声”を感じ取り、それを写真を通して見る人に届けられるのではないかと思うからです。

 これまで見たこともない、名前すら聞いたことがないような種と出合ってもらうことが、このプロジェクトの目的です。存在すら知らないものを守ることはできません。絶滅から生き物を守るための第一歩は、「知ること」です。フォト・アークは、やがて絶滅してしまうかもしれない種の姿を未来のために記録するためだけでなく、今、手遅れになる前に、救える命の存在を示すためのプロジェクトでもあるのです。
  
 フォト・アークの写真は、これまで写真集として出版したほか、オンライン上で公開したり、講演会などで発表したりして、多くの方に見ていただいています。それをご覧になった方から、決まって同じような質問を受けるのです。「生き物を守るために、私に何かできるでしょうか」と。
  
 実は、これがプロジェクトの狙いです。私は決まってこう答えます。「あなたにも、できることはありますよ」と。

 例えば、自宅の庭やベランダに花を植えるのもいいと思います。花の蜜や花粉がチョウやミツバチの餌になり、実をつける植物であれば、それが鳥の餌になります。
  
 自宅に庭がない人は、公園や学校、地域コミュニティーに花壇がないか探してみてください。そうした地域の花壇整備に住民が参加できる場合もあります。
  
 小さなことかもしれませんが、こうした活動が生態系を支えていくことにつながります。

 ――SDGsの目標15「陸の豊かさも守ろう」には、絶滅危惧種を保護し、生物多様性の損失を防ぐための緊急対策を講じることが掲げられています。国際自然保護連合(IUCN)がまとめた絶滅危惧種のレッドリストには現在、約4万8000種が登録されています。こうした状況の背景には、どのような要因があると考えますか。
  
 生息地の喪失が、絶滅を引き起こす最大の要因だと考えます。近年、山火事や暴風雨といった災害も各地で頻発しています。また、森林伐採や過度な開発などによって、野生生物の生息地は異常な速さで破壊されています。
  
 こうしたことの影響は、生き物たちの「すみか」を奪うだけでなく、「食料源」を奪い、結果的に生息の過密化や競争の激化をもたらし、絶滅のリスクを高めてしまうのです。

保全活動の支援も

 ――ここ数年、撮影プロジェクトだけでなく、絶滅危惧種の保全活動をしている専門家への支援にも力を入れています。
  
 私たちは、フォト・アークを通じて「ナショナルジオグラフィック・フォト・アーク生物種保護推進プロジェクト」を立ち上げました。写真で絶滅危惧種の存在を伝えながら、実際にその種の保全に取り組む専門家たちを支援する取り組みです。
  
 例えば、アメリカ・フロリダ州に生息する「マイアミタイガービートル」という甲虫がいます。
  
 米連邦政府が指定する絶滅危惧種で、南フロリダのパイン・ロックランズ(岩盤上のマツ林)にしか生息しない希少な種です。この甲虫の保護に取り組む専門家のジョージ・ガン氏を、私たちは支援してきました。
  
 彼の献身的な活動と、フォト・アークによる発信力によって、世間の関心が高まった結果、マイアミタイガービートルの生息地であるマツ林を開発から守る動きへとつながりました。

 ――生物多様性の喪失が人類に及ぼす影響については、さまざまな観点から指摘されており、文化的な側面もその一つです。
  
 絶滅危惧種の中には、その地域の文化にとって重要な役割を担っている種もあります。
  
 ハワイ・オアフ島の樹木に生息するカタツムリは、ハワイの文化では「森の声」として知られています。詩や歌の中にも数多く登場し、人々の心に深く根付いています。
  
 しかし、そのカタツムリは現在、絶滅危惧種となっています。フォト・アークでは、このカタツムリの保全に取り組むチームを支援しています。
  
 こうした生き物を絶滅から守ることは、生態系を守るだけでなく、地域固有の文化を未来へ伝えていく上でも重要な役割を持つのです。

 ――仏法では、人間と環境は不可分であり、相互に連関した存在であると考えます。創価学会は、こうした仏法の哲理に基づいて、環境保護の活動にも取り組んできました。西アフリカやブラジルのアマゾンでは、森林の再生にも尽力しています。
  
 自然と人類は深く結びついています。一つの種が失われても、人間には何の影響もないと考えるのは愚かなことです。一つの種を絶滅から救うことは、突き詰めれば私たち自身を救うことにもつながってくるのです。
  
 忘れてはならないのは、「絶滅は取り返しがつかない」ということです。一つの種が失われてしまえば、その種は永遠に姿を消してしまいます。だからこそ、私たちは今、絶滅の流れを止めなければなりません。できる方法で、一緒に行動を始めていく必要があるのです。
  
 世界には、絶滅から生き物を守る活動に献身的に取り組む人たちがいます。彼らの存在は、“私たちは変化を起こせるのだ”という希望を与えてくれます。
  
 とはいえ、全員が専門家になる必要はありません。一人一人の小さな行動も、皆で協力すれば、大きな力になっていきます。私は、一人一人が持つ多様な才能を組み合わせていけば、変化は生み出せると信じています。

 Joel Sartore 1962年、アメリカ生まれ。ナショナルジオグラフィック誌を中心に活躍する写真家、著述家、自然保護活動家。2006年に、世界中の動物園、水族館、野生生物の保護施設で飼育されている生物を写真で記録するプロジェクト「フォト・アーク」を立ち上げた。写真集に『PHOTO ARK BABIES 動物の子どもたち』『PHOTO ARK 生命の賛歌』『PHOTO ARK 消えゆく動物』『PHOTO ARK 動物の箱舟』など。

  
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●聖教電子版の「SDGs」特集ページが、以下のリンクから閲覧できます。
https://www.seikyoonline.com/summarize/sdgs_seikyo.html
  
●海外識者のインタビューの英語版が「創価学会グローバルサイト」に掲載されています。
https://www.sokaglobal.org/resources/expert-perspectives.html