企画・連載
〈SDGs×SEIKYO〉 事例編 着なくなった衣類の再利用を推進 2025年12月16日
父さん! こんなに服をたくさん袋に入れて……。まだ着れそうなのに、捨てちゃうの?
いやいや、ちーちゃん。捨てるんじゃなくて、誰かに使ってもらうために詰めているんだ。「日本リユースシステム株式会社」に古着を送れば、開発途上国で再販売したり、ワクチン支援につなげたりしてくれるよ。
へーっ! 着なくなった服が誰かのためになるって、すごいね。
そうだね。それじゃ、家にある古着がどう活用されるか、一緒に見てみよう!
「SDGs×SEIKYO」の事例編「ちーちゃんと訪ねる ミライの現場」。今回は東京・港区に本社を置く「日本リユースシステム株式会社」の取り組みを紹介します。同社の看板事業である「古着deワクチン」は、第3回「ジャパンSDGsアワード」で特別賞(SDGsパートナーシップ賞)を受賞しています。
2005年創業の日本リユースシステム株式会社は、独自のシステムで不要品を回収し、海外で再利用するリユース事業を展開してきた。ユニークなビジネスモデルを通じて、社会課題の解決も目指す同社の看板事業が、「古着deワクチン」だ。営業本部長の辻本真子さんは同事業について、こう説明する。
「弊社では、ご家庭で不要になった衣類や小物を簡単に手放せる“お片付けキット”を販売しています。1キットにつき、ラオスの赤ちゃん5人分のポリオワクチン寄付につながります」
一般的には古着を手放す際、売るか処分するかの方法に限られることが多い。しかし、思い出のある品を安値で扱われて傷ついたり、ゴミとして出すことに罪悪感を覚えたりする人も少なくない。
これに対して、「古着deワクチン」は、古着を手放す利用者が料金を支払って、開発途上国で再利用してもらい、しかもワクチン支援にも貢献できる点が特徴となっている。
注文すると、数日で専用の回収袋が自宅に到着。不要になった衣類を詰めて、指定のフォームで集荷を依頼するだけで完了する仕組みだ。障がいのあるアーティストの作品が回収袋のデザインに採用されており、販売数に応じて著作権料が支払われている。
そのほかにも、古着を仕分けるセンターで外国籍のスタッフを積極的に採用し、海外の直営店では現地の人々の雇用を生み出すなど、さまざまな人たちを“支える仕組み”が散りばめられている。
毎月の利用者は約3万人にのぼる。同社のウェブサイトに寄せられた1万5000件を超える口コミには、「誰かの役に立てるならうれしい」「お部屋も心もすっきりしました」など、温かな声が多い。
回収された衣類は、どのように海外に輸出されるのだろうか。記者は千葉県木更津市にある「古着deワクチンセンター」を訪れた。
同センターの入り口には、カラフルなSDGsのロゴやアイコンが描かれていた。センターに足を踏み入れると、明るく清潔な空間が広がり、生き生きと働くスタッフの姿が印象的だった。約30人のスタッフは全員、フィリピン出身の女性。日本では就労の機会を得にくかったが、この場所で仕事を見つけることができたという。
パンパンに詰まった回収袋を開けると、丁寧に畳まれた衣類がびっしり。海外法人の代表を務める竹内卓部長は、同センターを案内しながら、教えてくれた。
「ほとんどのお客さまが、“誰かに使ってもらうものだから”と、きれいに畳んで袋に入れてくれています。クリーニングをして送ってくださる方もいるんですよ」
衣類は仕分け台に置かれて、1枚ずつ目視で選別。汚れが目立つものはやむなく処分されるが、多くは再利用可能で清潔なものばかり。センター内は、整理整頓が徹底されていて、古着を山積みにして、放置するようなことは決してないという。
「ここでは、回収した衣類を絶対に床に置きません。大切にしていた衣類が雑に扱われていたら、お客さまはショックですよね」(竹内部長)
選別後の衣類は、圧縮機で約200キロの重さのブロック状に固められ、フォークリフトで発送準備へ。スタッフ全員が重機操作の免許を取得している。その一人のゴンダ・ジエラルビインさんは誇らしげに語った。
「免許取得には、日本語の筆記試験もあるし、大変だったけど、取れた時はうれしかったです。いろんなことができるようになるし、働くのがとても楽しいです!」
圧縮された衣類は、カンボジアの首都プノンペンにある同社の直営センターを中心に、海外に運ばれる。
同センターには約100人の従業員が在籍し、ポリオ後遺症で手足が不自由な人や、ストリートチルドレンだった若者らが働く。“障がいによる差別に苦しんでいたが、会社が私に敬意を払い、価値を認めてくれた”“障がいがあっても自立して、大学に通えるようになった”など、多くのドラマが生まれている。
同センターには、常時5万点の衣類が並び、「日本の古着は質がいい」と評価する来店者も多い。周辺国のバイヤーも集まり、再輸出拠点としての役割を果たしている。これまで再利用した衣類は6000万着以上、寄付したワクチンは900万人分を超える。
日本リユースシステムは「古着deワクチン」以外にも、さまざまな事業を通し、複数の社会問題の解決に取り組んできた。それら全てを、慈善活動ではなくビジネスとして成り立たせている。
大切にしてきたのは、“三方義し”の経営哲学。自らの利益のみならず、買い手や社会など、関わる全てが利益を得ることを目指している。
捨てられるはずだったものにスポットを当て、新たな価値を次々と生み出す――こうした好循環をつくる発想が、持続可能な社会を実現する大きな力となっている。
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●聖教電子版の「SDGs」特集ページが、以下のリンクから閲覧できます。
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