企画・連載
〈ブラジル教育リポート〉⑧ しゃべくり母ちゃんガイドツアーの続き 2025年10月19日
パラー州教育局に勤めるヴェラ・ロボさん(分圏婦人部長)の案内で、州都ベレンを歩くツアー。ここで来月、気候変動対策の国連会議「COP30」が行われます。「来世は関西女性部に!」が口ぐせのヴェラさんの発言は、関西弁でお届け。昨日付の㊤に続き、㊦を掲載します。(記事=大宮将之、写真=種村伸広)
※㊤の記事はこちら
ベレンにもある経済格差と教育格差。「どうせ自分なんて」と、学びを諦める生徒がいる。「勉強なんて必要ない」と、わが子を働かせる親もいる。
「けどな、『負けたらあかん!』って励まし続ける学校の先生がおるんや」とヴェラさんが紹介してくれたのが、州立アカッシオ・フェリシオ・ソブラル校の数学教師、パウロ・ホッシャさん(総合方面長)だった。
授業を取材。生徒は皆、「ホッシャ先生の教え方は、分かりやすくて面白いよ!」と口をそろえる。記者が日本人であることを引き合いに、ホッシャさんは「日本からここまで、飛行機で何時間くらいかかるかな?」と質問を投げかけた。
乗り継ぎも含めて約24時間。飛行距離は約1万7000キロ。その遠さが影響して「みんなが日常的に食べる果物のアサイーも、日本に輸出されると、少し高級品になってしまうんだ」。
だが遠い国にもかかわらず、アマゾンの森林破壊による気候変動は影響する――こうして身近な話題にまつわる数字から、地理や経済、さらに環境問題へとつなぎ、生徒の興味・関心を広げていくのである。
校長のヒカルド・バラタさんは、「どんな生徒のやる気も引き出す先生」と評価する。「教室だけではありません。経済的に困難を抱える家に何度も足を運び、勇気づけるんです」
何のために学ぶのか。それは自由になるため、幸福になるためだ。誠心誠意、語る中で、ホッシャさんのいる学校で学べることを、子どもも親も喜びとするようになっていく。行政と連携し、学校として食糧配布やメンタルヘルスのサポートも行うなど、支援体制も手厚い。
ホッシャさんは、受験に臨む生徒一人一人に「君ならできる」「自分を信じて」等のメッセージを添えたペンを贈る。それを手に勉強に励んだ多くの受験生が、「まさかが実現!」と周囲が驚く合格劇を果たしてきた。
卒業式。学校が地域から寄付を集め、卒業生の「正装」を用意するのが恒例だ。
司会はホッシャさん。誇らしげな教え子たちに呼びかける。「苦楽を共にした私たちは、家族だよ!」
取材の途次、立ち寄ったお店がある。自然食品や環境に優しい商品を扱う「Puro Natural」。ヴェラさんの妹エリアナ・ロボさん(支部副婦人部長)と、その3人娘のステファニさん(女子部部長)、レリアナさん(華陽リーダー)、シンチアさん(女子部員)が営んでいる。
2階はおしゃれなカフェになっていて、出されるコーヒーやお菓子のおいしいこと! 「体にもいいんですよ」と、ステファニさん。学校帰りの児童・生徒も安価で利用できるメニューあり、子育て世代も過ごしやすいスペースあり。子どもや親御さんたちが、ホッとできる居場所だ。
日本で学校に通う手段といえば、徒歩やバス、自転車や電車を思い浮かべるだろう。
ところが「アマゾン川の支流を、小舟で渡らなあかん学校があるんやで」と、ヴェラさんは教えてくれた。
ベレン近郊の湿地帯の島に立つ、公立ドミシアーノ・デ・ファリアス校。周辺の小島や川岸の集落から、約100人の児童・生徒が毎日、片道30~60分かけて登校しているという。
ここで教員を務めるのが、ケリー・ペナンテさん(総合方面副婦人部長)だ。
その朝は真剣な祈りから始まる。「一人も残らず無事故で来られるように。幸せに学べるように」――と。
送迎するのは、主に児童・生徒の家族である。熱帯特有の天候の急変で川が荒れ、登校を断念する日も少なくない。
それでも子どもたちは学校に行くのが楽しみで仕方がない。「ペナンテ先生に会って話をすると、元気になるから!」だ。
授業の副読本としている池田先生の『青春対話』『希望対話』等を通して、語らいを重ねる。
「個性」って何? 「自由」って何? 「平和」って、「幸せ」って……ペナンテさんが真心を尽くし、言葉を尽くして応えた分だけ、生徒たちは瞳を輝かせる。「もっと学びたい!」と。
ペナンテさんは笑顔でうなずく。
「自分が変われば、未来も環境も変わるから!」
ヴェラさんに連れられ、最後に訪れたのは、州内にある創価学会のパラー文化会館だった。
「ここに、私らが教育に尽くす“誓いの証し”があんねん」
ベレン市から池田先生に贈られた「名誉市民証」が飾られている。授与式が行われた1999年11月11日のその日その時、祝辞に立った元州教育局長が高らかに宣言した言葉があった。
「わが市には“アマゾンの心”があります。その同じ心を携えた池田大作博士を、名誉市民にお迎えできました」「私たちも池田博士の思想と行動の全てを学び、続きましょう!」
“アマゾンの心”とは、地球のために自分は何ができるかと問い、今いる場所で行動を起こすことだろう。「その先頭に立ち続けてくださったんが、イケダセンセイや」(ヴェラさん)
2012年にリオデジャネイロで行われた「国連持続可能な開発会議」には、先生が「環境提言」を寄せている。「持続可能な地球社会」の建設の最大の原動力こそ「教育」だと示し、こう訴えた。
「教育は、どんな場所でも、どんな集まりでも実践でき、あらゆる人々が主体的に関わることのできるものです。
そして、すぐには目に見えた結果が表れなくても、じっくり社会に根を張り、世代から世代へと受け継がれるたびに輝きを増していく――」
ベレンでの行程を終え、次の取材地に向かう空港までヴェラさんは見送りに来てくれた。
「体調、大丈夫か?」
「ご飯、ちゃんと食べなあかんで!」
「ほら、これ、ベレンのお菓子や!」
「飛行機、着いたら連絡してや!」
止まらない。別れ際には窒息するかと思うほどのハグ。ブラジルに“大阪のおかん”あり。来世は願った通り、関西女性部として生まれるに違いない。
この熱量、このぬくもりが、多くの青年や子どもたちの心を動かしてきたのだろう。
「教師こそ最大の教育環境」との池田先生の指針を巡って語り合った時に、「せやからな、教育者としての自分の人間革命が、まず大事やねん! そのための信心なんや!」と、何度も手をたたいていた姿が忘れられない。
いよいよ来月10日から、ベレンで「COP30」が開幕する。「良き教育環境を創り出す一人の変革から、より良き地球環境の未来も開かれる」――そのメッセージを、自らの実践で放つ創価の教育者たちがいる。
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