企画・連載
モノづくりでウガンダの貧困に立ち向かう! 2026年7月7日
世界で最も貧しい国の一つである、アフリカのウガンダ。この地でシングルマザーらを巻き込み、モノづくりで「貧困」に立ち向かう一人の女性がいます。社会起業家で「RICCI EVERYDAY」代表の仲本千津さんです。SDGsの目標1「貧困をなくそう」をテーマに話を聞きました。(取材=田川さくら、樹下智)
――ウガンダの貧困問題の解決を目指して活動する仲本さんですが、もともとは紛争問題に興味があったそうですね。きっかけは何だったのでしょうか。
小学5年生の時、当時2歳だった弟が、川遊び中に亡くなったんです。私も家族も、しばらく立ち直ることができなくて……。死というのは、こんなにも人を悲しませるのかと、幼心に命の重さを知りました。
だから、世界のどこかで今もなお、人の命を奪う紛争が起きていると知った時には、衝撃を受けました。それからは、少しおこがましいですけど、「紛争をなくせる人になりたい」と思うようになりました。
そんな私のロールモデルは、日本人で初めて国連難民高等弁務官になった緒方貞子さんです。ある時、学校の授業で、緒方さんのドキュメンタリー映像を見ました。紛争地帯の最前線で、罪なき人の命を守る。格好よかったですね。
大学では国際関係論、大学院ではアフリカの民族紛争を研究しました。紛争を経験した国がどうすれば平和を取り戻せるのか――学べば学ぶほど、問題の本質は「貧困」にあることを知りました。
実は当時、大学院の延長線上で、研究職に進もうかと考えていたんです。ですが、ある社会起業家に自身の課題意識を話したところ、痛烈な一言をもらいました。「君は貧困問題に対して、何かやってきたの? 頭でばかり考えていないで、一度、行動してみたら?」と。
自分なりに考えた末、まずは社会の構造を学ぼうと、銀行に就職しました。その後、アフリカ支援を行うNGOに転職し、ウガンダに駐在することになったんです。
――ウガンダは世界で最も貧しい国の一つです。特に、農村部出身のシングルマザーたちが置かれた状況は深刻です。
ええ。農村部では、男尊女卑の考えが強く、男性から女性への家庭内暴力が横行しています。また、一夫多妻制が認められていることで、家族問題が起こりやすく、シングルマザーとして生きることを選ぶ女性が多くいます。
一方、紛争やエイズで夫を亡くし、泣く泣くシングルマザーになる人もいます。どちらにせよ、日本と比べものにならないほど、シングルマザーの数が多いのが実情です。
彼女たちは仕事を求めて都市部に移るわけですが、ただでさえ産業が少ないウガンダで、そう簡単に仕事が見つかるはずもありません。結局、何かを作って路上で売るような、その日暮らしになります。
また、農村部とは違い、畑として使える土地が少ない都市部では、自給自足も難しい。お店で食材などを購入すれば、せっかく稼いだわずかなお金もすぐに消え、教育費や通院費などが工面できなくなるのです。
そうした最も大きな負担を強いられている女性たちの生活を、どうすれば変えられるのか。私の問題意識はそこにありました。
しかし、「支援」という形は取りたくありませんでした。なぜなら「頼る」ことが前提になると、いつまでも自立ができないからです。どうにか雇用を生み出せないかと模索しました。
――そんなある日、“運命的な出合い”があったそうですね。
市場をぶらぶらと歩いていた時です。何となく足を踏み入れたお店で圧倒されました。
床から天井まで、カラフルな布がいくつも積み重ねられている。アフリカンプリントと呼ばれる布を販売する布地屋でした。
日本では見たことがないような鮮やかな配色に、大胆な柄。早速、好みの布を買い、仕立屋に服やバッグを作ってもらいました。そして、その写真をSNSに投稿したところ、大好評。「かわいい!」「ほしい!」と日本の友だちからコメントが殺到したんです。
アフリカンプリントを使った服やバッグを、ウガンダのシングルマザーたちに作ってもらい、日本市場で売る――。ビジネスの種を見つけた瞬間でした。
すぐに、縫製を習っていた3人のシングルマザーたちと事業をスタート。材料費や給料は全てポケットマネーで支払いました。ためらいは、みじんもなかったですね。「現実を変えたい」との彼女たちの強い意志に触れ、「大丈夫だ」と思ったんです。
2015年に「RICCI EVERYDAY」を設立し、翌年、勤めていたNGOを退職しました。
――商品は飛ぶように売れたそうですね!
ありがたくも、さまざまなメディアで取り上げていただき、多くのお客さまが買いに来てくださいました。
しかし、「かわいそうな人たちが作るバッグだから買ってください」と売り出したことは一度もありません。ビジネスとして長く続けるためには、お客さまに「ほしい!」と思ってもらえる商品であることが大事だからです。
とはいっても、モノづくり大国である日本の消費者が求める品質を担保するのは簡単ではありません。デザイン、縫製、使いやすさ……。始めたばかりの頃は多くの課題がありました。
だからといって、スタッフを厳しく叱ったことはありません。私が求める基準は、あくまで日本人目線であり、彼女たちの技術はウガンダでは十分に通用するからです。価値観を押し付けてはいけないと思いました。
改善すべき点を伝える際は、相手を責めずに、問題に焦点を合わせる。なぜ課題と言えるのか、改めれば商品がどう良くなるのか、理由も丁寧に話しました。
また、ウガンダ人は文化的に、人前で注意されることに恥を感じる傾向があるため、ネガティブなフィードバックは必ず一対一で行いました。スタッフも、できないことは「できない」とはっきり言ってくれるので、対等な関係になれているのかなと思っています。
――仲本さんとスタッフの皆さんが強い信頼で結ばれていることを感じます。
それは「RICCI EVERYDAY」が、皆にとって“安全地帯”となっているからかもしれませんね。
ウガンダでは、社会保障制度が日本と比べて整備されていません。シングルマザーはそうした中で、一人で何人もの子どもを育てなければならないのです。
私たちは、現地平均の2倍以上の給与を保証し、彼女たちが本来必要とする額を労働の対価として支払っています。またスタッフとその家族の医療費は、年間の上限はありますが会社で負担しています。医療費以外で必要になったお金については、無利子で貸し出しています。
2020年、新型コロナウイルスのパンデミック(世界的大流行)が起こった時も、現地の多くの工場が人員削減を行う中、私たちは誰一人として解雇しませんでした。もちろん経営者の私としては不安もありましたが、それ以上に彼女たちの生活を守りたかったんです。皆、「本当にありがたかった」と言ってくれていましたね。
――スタッフの皆さんの生活は、かなり改善したのではないでしょうか。
あるスタッフは出会った当初、崩れかけの家に住み、一人で4人の子を育てていました。小学校も出ていない彼女は、鶏と豚を飼い、日々の食事をまかなっていた。
子豚が生まれれば、育てて売り、そのお金で子どもたちを学校に行かせていたんです。しかし、それでもお金が足りなかった。子どもたちは、通学していく学友を家の窓からじっと眺めていました。
しかし、今は違います。ボロボロだった家はコンクリートで補強され、家には冷蔵庫やテレビがある。子どもたちは皆、高校や大学に進学したのです。
あの頃の伏し目がちだった彼女は、もういません。今、彼女は毎日、誇りを持って仕事をしてくれています。そんな自信にあふれた彼女の姿が、私の何よりの喜びです。日本のお客さまから感謝の言葉が届くたび、うれしそうにしていますよ。
――SDGsの“一丁目一番地”である目標1は、「貧困をなくそう」です。近年、気候変動の影響や国際情勢の変化により停滞を余儀なくされています。貧困をなくすには、どうすればよいのでしょうか。
正直に申し上げると、自分の力ではどうすることもできないのではと、無力感でいっぱいになることもあります。でも結局は、今、自分にできることをするしかないんですよね。私の場合は、この仕事を続け、雇用を生み出し続けることだと信じています。
日本では物価高で生活費が上昇しているので、「商品を買ってください」と言うのも心苦しい時があります。しかし一方で、作り手の生活もかかっている。その両側面を知る私だからこそ、届けられる言葉があるのではと発信し続けています。
また現在、ウガンダには、紛争から逃れてきた多くの難民がいます。今の彼ら、彼女らの目には、未来が灰色に映っているかもしれない。でも、いつか私たちのスタッフのように笑顔になってほしい。「現実は変えられる」と自信を取り戻してほしい。次は難民たちも巻き込み、ビジネスを発展させていけたらと思っています。
――創価学会初代会長の牧口常三郎先生が訴えた、自他共の幸福と繁栄を目指す「人道的競争」に通じる部分があると感じます。
今、世界では自己中心主義や排外主義が蔓延しています。このまま進んでいけば、“第3次世界大戦”が起きかねないと危惧されています。
現代は、自分本位で利己主義な決断や行動があまりにも多い。しかし忘れてならないのは、そうした判断や対応によって、苦境に立たされる人が必ずいるということです。事実、世界では格差が広がっています。私は、そのことを常に想像できる自分でありたいと思っています。
その想像力は、どうすれば培われていくのか――。私は、普段の小さな行動の積み重ねが重要だと思っています。例えば、電車内で高齢者を見かけたら、席を譲る。困っている人がいれば、声をかけてみる。小さな思いやりでいいんです。自分のできる範囲で、“ちょっと行動を起こす”のが大切だと思います。
最近、SNSでは、デマや排外主義的な発信、誹謗中傷など、さまざまな言説が飛び交っています。大切なのは、そうした言葉と言葉の応酬だけが、自分の見える世界にならないよう、外国人も含め、いろんな人と交流し、自分の目で見て確かめていくことだと思います。
少しの声かけが、人の心を変え、社会を変革していく。私たちの日々の行動の連鎖で、世界を取り巻く負の風潮を跳ねのけていきたいですね。
なかもと・ちづ 静岡県出身。早稲田大学法学部を卒業後、一橋大学大学院で法学研究科修士課程を修了。その後、三菱東京UFJ銀行(当時)に入行し、2011年から国際NGO笹川アフリカ協会(当時)でアフリカの農業支援に従事した。15年、「RICCI EVERYDAY」を設立。「第16回日本イノベーター大賞」特別賞、「第5回グローバル大賞国際アントレプレナー賞」最優秀賞など、受賞多数。
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https://www.seikyoonline.com/intro/form/kansou-input-sdgs.html
●聖教電子版の「SDGs」特集ページが、以下のリンクから閲覧できます。
https://www.seikyoonline.com/summarize/sdgs_seikyo.html
●海外識者のインタビューの英語版が「創価学会グローバルサイト」に掲載されています。
https://www.sokaglobal.org/resources/expert-perspectives.html