企画・連載

〈ニューイヤートーク〉 人間とAIが共に開く新時代(後編) 2026年1月11日

創価学会・西方光雄青年部長×脳科学者・茂木健一郎

 1月9日の総県長会議で、池田先生の著作・指導検索サービス「SOKA D.I. SEARCH(ソウカ・ディー・アイ・サーチ)」が年内にリリースされることが発表されました。AI(人工知能)という新しい科学技術が浸透する今、科学と宗教のあるべき関係性とは何か。また、創価学会員は池田先生の指導を学び、どのように師弟観を深めていくべきか。新年号(1月1日付)に続き、西方光雄青年部長と脳科学者・茂木健一郎さんとのトークをお届けします。
  
 トークの前編はこちらから読めます。
  
  

永遠性という一致点

 〈茂木〉研究者の間で議論になるのが、AI(人工知能)の研究を進めた先に「意識」を生み出すことができるかどうかということです。「意識」は「生命」に付随する現象であると思いますが、仏法では、「生命」をどのように捉えていますか?
  
 〈西方〉仏法では、生命を感覚器官から心の深層まで、九つの層に立て分けて体系化しています(九識論)。五官に基づく認識作用である眼識・耳識・鼻識・舌識・身識。その五識による知覚を統括し、分別・判断したり、記憶したりする働きが第六識の意識です。
 そして、第七識の末那識、第八識の阿頼耶識と続き、第九識の阿摩羅識があります。「阿摩羅」とは「汚れがない」という意味です。生命の根底に存在する清らかな領域であり、宇宙の生命そのものです。
  
 〈茂木〉生命と宇宙はつながっているという考え方は、とても興味深い。諸説ありますが、科学の立場からも、生命と宇宙とは密接な関係にあります。現在の太陽系が誕生したきっかけは、「超新星爆発」と呼ばれる宇宙最大の爆発現象です。その時にばらまかれた元素が、私たちの生命の礎になったとされています。
  
 〈西方〉日蓮大聖人は「万法は己心に収まって一塵もかけず、九山八海も我が身に備わって日月・衆星も己心にあり」(新1947・全1473)と書かれています。宇宙からすると私たち人間は小さな存在ですが、仏法の視点では、その私たちの生命に広大な宇宙が収まっている。「我即宇宙」「宇宙即我」というダイナミックな関係性を説いています。
 また、生と死はそれぞれ生命に本源的に具わった現象であると考えます。ある時は、宇宙に冥伏して「死」の状態として潜在化し、またある時は「生」の状態として顕在化します。過去、現在、そして未来と、私たちの生命は生と死を繰り返していると考えています。
  

  
 〈茂木〉生命は“死んだら終わり”ではなく続いているということですね。私の専門分野である脳科学の分野からしても、そのような考えが有力ではないかと考えています。
 私たちの意識は、寝る前と寝た後で同一性が保たれています。一般的な感覚からいえば、当たり前のことなのですが、これには、「ニューロン」と呼ばれる細胞の働きが関係しています。
 ニューロンは脳の中に約1000億個あるとされ、それぞれが結び合ってネットワークをつくっています。ニューロンは電気信号を発生させ、次の細胞へ情報を伝えます(神経発火)。私たちの意識は、複雑に結びついたニューロンネットワークの「発火パターン」によって形成されるのです。
  
 〈西方〉私たちが寝ている間、ニューロンはどのような状態になるのですか?
  
 〈茂木〉深い睡眠状態に入ったとき、私たちは意識を持ちません。つまり、ニューロンの働きは休止しています。そして、人の意識が寝る前と寝た後で同一性が保たれているのは、ニューロンの発火パターンが一緒だからなんですね。
 例えば私が死んだとしても、宇宙のどこかで私のニューロンと全く同じ発火パターンが再現される可能性はゼロではありません。もしそうなれば、私の「人格」というのは、永久に失われることはないわけです。
 そう考えると、西方さんが言われた「生命は永遠」という仏法的な思想が、今後、科学的に証明される可能性があるとも考えられます。
  
  

「科学と宗教」の関係

 〈西方〉創価学会の戸田第2代会長は、“科学が発達すればするほど、仏法の偉大さが証明されていく”と指摘されました。AI時代の今、私たちは、改めて科学と宗教の関係性について考える必要があると思います。
 茂木さんとの往復書簡(「中央公論」2010年4月号に掲載)の中で池田先生は、科学と宗教の関係は「互恵的・共存的な関係を築くべき」とした上で、次のように述べています。「科学だけでは、『生命』また『心』という不可思議な次元の全体像はつかめません。また、『生老病死』という人間の根源的な苦悩の打開には、宗教の力こそが要請されます」
  
 〈茂木〉その通りだと思います。現代科学は多くの偉大な功績を残しました。その最たる例がAIでしょう。ただし、AIはあくまでもツールです。それを生かすためには、人間の脳の覚醒がカギであり、「生命とは何か」という探究が欠かせません。
  
 〈西方〉科学なき宗教は独善に陥り、社会から遊離してしまう。一方、宗教なき科学は人間の尊厳をおとしめてしまう。公害や核兵器の問題などがそうです。科学技術を正しくリードするには、生命尊厳の思想が不可欠ですし、そのような思想を社会に広めることが、宗教の担う重大な役割であると考えています。
  
  

個人と集団の学びから

 〈茂木〉学会員の皆さんは、難解とも言える仏法の思想を、どのように理解し、実生活に落とし込んでいるのですか?
  
 〈西方〉学会の三代会長なかんずく池田先生が、仏法思想を現代的な形に捉え直し、展開されました。学会員の多くは、池田先生の指導を学んで、現実社会の中で仏法を実践してきたのです。
 年内に、AIを活用した池田先生の著作・指導検索サービス「SOKA D.I. SEARCH」がリリースされます。前回の対談でも触れましたが、「自然言語処理」で、例えば、「仕事で悩んでいて、困っています」と入力すれば、AIがその悩みに関する池田先生の複数の指導を提示します。身近で使いやすく、先生の指導をそれぞれの興味・関心に即して学べるツールです。
  

  
 〈茂木〉AIで複数の指導を提示して、人間が選択する。良いですね。最近は、「ある人の著作を全てAIに読み込ませれば、その人の人格を再現できるのでは」という意見も聞きます。そのアプローチでは、似たようなものはつくれるのでしょうけど、その人の人格を完全に再現するのは不可能でしょう。「生命→意識」「生命→知性」という流れはあるが、パターンを計算していく「アルゴリズム」に基づく「知性→生命」という流れは成立しないと考えます。
 ところで、池田名誉会長は会員一人一人との出会いを大切にされてきたと思います。西方さんはじめ学会員の多くも、名誉会長との個別の思い出があるはずです。そういった部分は、人と人との対話で語り継いでいく必要があると思います。
  
 〈西方〉大切なご指摘、ありがとうございます。創価学会は、個人での研さんはもちろん、「集団での学び」も大切にしてきました。学会の「座談会」には、世代を超えてさまざまな人が集まります。その中で池田先生に直接お会いしたことのある先輩世代の方が、先生の人格に触れたエピソードを語ってくれることもあります。
 青年世代の多くは、先生と直接会ったことはありません。師弟の精神を後世に伝えるためにも、集団での学びの「場」がますます大切になってきます。これからリリースされる「SOKA D.I. SEARCH」も、個人での研さんだけでなく、集団での学びをサポートするツールとして活用していきたいと思います。
  
 〈茂木〉お話を伺い、『論語』が編纂された経緯を思い起こしました。『論語』は孔子が亡くなって数百年たってから、現在の私たちが知っているような形にまとまります。その間、弟子たちは「師匠が言いたかったことってこういう意味なんだ」と語り合い、その中で孔子の人格・思想が受け継がれて、熟成されていったわけです。
  
 〈西方〉創価学会においても同じことが言えるのかもしれません。師匠と弟子の関係とは、単に「教える側」と「教えられる側」という関係ではありません。弟子が、師匠の生き方・思想を範として、「師匠ならどうするか」と問いながら自らの生き方を探究するものです。師匠から「答え」を得ることが大切ではなく、師匠の指導をもとに、「師匠ならどうするか」と「問う」プロセスそのものに意味があるのだと思います。
  
 〈茂木〉脳科学の立場では、ある人のアフターライフ(死後の生)は、残された次の世代の方々が、その人を思い起こす中にあるとされています。例えば、私の祖父は歌舞伎が大好きで、お風呂で歌舞伎のセリフをよく言っていたなと今でも思い出します。祖父は亡くなっていますが、祖父のアフターライフは僕の心の中にあります。
  
 〈西方〉私たち創価学会員の多くも、池田先生の指導や励ましを思い起こしながら、今を生きています。師匠を求める弟子たちの心の中に、師匠は厳然といるのです。
 創価学会は2030年に創立100周年を迎えます。それまでの約5年間は「勝負の時」です。後継の青年部の真価が問われると覚悟しています。
 私たち弟子が、その胸中の師匠と対話しながら、世界平和のために全力を尽くしたいと思います。今回は大変にありがとうございました!
   

●プロフィル

 もぎ・けんいちろう 1962年、東京都生まれ。脳科学者・理学博士。東京大学理学部、法学部卒業後、同大大学院物理学専攻課程を修了。『AIで覚醒する脳』(実務教育出版)、『脳と仮想』(小林秀雄賞受賞)、『今、ここからすべての場所へ』(桑原武夫賞受賞)など著書多数。

 にしかた・みつお 1984年、大阪府生まれ。創価大学卒。創価学会の学生部長、男子部長等を歴任。本年リリース予定の、池田先生の著作・指導検索サービス「SOKA D.I. SEARCH」の開発推進の責任者として携わる。
  
  
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