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新企画〈キニナルを調べる〉 「居場所のない若者たち」がいること、知っていますか?

本紙では企画「ライフウオッチ」で、就職氷河期に光を当て、信仰体験を軸としたルポを掲載してきました。

 多くの反響を受け、今後は個人の体験にとどまらず、社会活動に取り組む団体や識者への取材も行い、社会課題の解決へ向け、何を学び、何ができるかを問い直します。

 初回のテーマは、「居場所のない若者たち(ヤング・プレースレス)」です。

 就職氷河期世代の困難は、子どもの世代にも影を落とし、貧困や孤立が連鎖しています。

 東京都豊島区で若者支援を行う特定非営利活動法人(NPO法人)サンカクシャの代表理事である荒井佑介さんに、現場で見えている実態について聞きました。(聞き手=中谷光昭、掛川俊明)

◇ほぼ毎日新規相談が届いています。

――サンカクシャにつながる若者はどのくらいの年齢層が多いですか。

 15歳から25歳くらいが中心です。

 貧困や家庭内暴力、家庭不和、ヤングケアラーなど、相談内容はさまざまですが、共通しているのは「安心できる居場所がない」ということです。

 サンカクシャでは、年間250人以上の若者を継続してサポートしていますが、ほぼ毎日、全国から困窮する若者の新規相談が寄せられています。

 SNSなどを通じて若者本人が相談してくれるケースは半数ほどで、行政や病院、警察、親からの問い合わせもあります。女性の相談者も多いですが、全国的に男性向けの居住支援が少ないことから、近年は男性相談者が増えています。

 若者支援団体は数が少なく、私たちも対応のキャパシティーを常に超え、逼迫しています。

 一方で、こうした課題に対する公的支援は、これまでほとんどありませんでした。日本では18歳を過ぎると「あとは自己責任」とされがちで、支援の手は急激に細くなります。

 「高齢者福祉」という言葉は聞いても、「若者福祉」という言葉はほとんど聞きません。政策のターゲットに、若者は十分に位置付けられてこなかったんです。

◇困窮する若者の実態調査を進めるべき。

――昨年実施されたサンカクシャにつながる若者へのアンケートでは、「保険証をもっていない」が26%、「家賃が払えなかったことがある」が42%など、深刻な実態が明らかになりました。「住む場所、食べるものがなくなったら?」との問いに、「自転車を盗んでわざと警察に捕まる」「出会い系アプリを使って、知らない人の家に泊まる」などの回答もあったと伺っています。

 私は日頃から若者たちと接しているので、アンケート結果を見て「そうだろうな」と感じました。ただ、周囲の反応は大きくて、「ここまで深刻とは知らなかった」という声が多く寄せられたんです。

 若者の課題への認知を広げていく上で、データを示すことの大切さを痛感しました。こうしたアンケートを全国に広げ、困窮する若者の実態調査を進めるべきだと感じています。

 私がサンカクシャを立ち上げた2019年当時、「若者を支援している」と言うと、「若者は働けるでしょ」「行政に相談すればいいのでは」といった反応が返ってきました。

 でも、虐待や暴力などにさらされてきた若者は、社会や他人へ不信感を抱いていることが多く、就労や相談にたどり着くこと自体が簡単ではありません。「働け」と突き放してしまうのではなく、伴走支援が必要です。

◇課題が「見えづらかった」のは……

――困窮する若者の課題の深刻さについて、どうして理解が広がらなかったのでしょうか。

 課題は、だいぶ前からありました。

 2007年には、ネットカフェ難民(住まいがなく、24時間営業のネットカフェなどを転々としながら生活する人々)の問題が報道されていました。それでも深刻視されなかったのは、課題が「見えづらかったから」ではないでしょうか。

 若者たちが路上で寝ているのであれば、問題は見えやすい。だけど、友達の家やネットカフェを転々としているような「見えないホームレス」の場合、人数が増えても分かりづらいんです。

 ただ最近は、「若者支援は必要だ」という理解が、少しずつ広がってきています。

 さまざまな政党の国会・地方議員の皆さんとも連携していますが、公明党の都議も早い段階で関心をもってくださいました。「若者支援の拡充」を東京都に働きかけ、若者施策の関係者を集めた意見交換会を開いてくれました。私たちの施設にも足しげく視察やヒアリングに来てくれています。

 サンカクシャでは昨年1月、経済同友会との共催で「若者の貧困解決に向けて」と題するパネルディスカッションを行い、その折、こども家庭庁に政策提言を提出しました。

 これらがきっかけとなって、超党派の議員連盟(ヤング・プレースレス)が立ち上がり、課題解決に向けた取り組みが動き始めています。

◇闇バイトと「トー横キッズ」が大きかった。

――「若者支援は必要」と潮目が変わったきっかけは何だったのでしょうか。

 闇バイトと、トー横キッズ(東京・新宿区歌舞伎町の新宿東宝ビル周辺に集まる10・20代の若者たち)の問題が大きかったと思います。

 若者たちが繁華街で路上生活をするようになって、ホームレスが見えるようになった。闇バイトの被害が拡大したことで、それまで若者たちの課題を他人事のように思っていた人たちも、自分事として考えるようになったのではないでしょうか。

 若者たちは、明日の携帯電話代と引き換えに、違法な高額報酬の闇バイトに手を染めてしまっています。

 本来であれば、適切な制度や支援者が手を差し伸べるべきなのに、犯罪組織の方が先につながってしまっている。福祉が負けてしまっているんです。支援の手が本当に足りていません。

◇就職氷河期から課題が連鎖している?

――こうした若者の親世代の多くは「就職氷河期世代」にあたりますが、氷河期世代の就労の不安定さや貧困などが連鎖していると考えられますか。

 それはあると思います。

 私たちは若者本人の支援に特化しているので親のことは分からないことも多いですが、「親も仕事が安定していなくて」とか、「家庭内の暴力が世代を超えて繰り返されている」といった相談はよく受けます。

 連鎖を断ち切るには、まず環境を変えることです。犯罪や暴力のない「安心できる住居や居場所」を提供することが最優先だと思います。

 ――日本の福祉制度は原則、「申請主義」になっていて、困っている人のもとへ支援の手が行き届きにくいという課題があるといわれています。その中で、サンカクシャでは、アウトリーチ(自ら援助にアクセスできない個人に対し、支援につながるよう積極的に働きかける取り組み)に力を入れていらっしゃると伺いました。

 SNSで情報発信していますが、「困ったら私たちに相談してください」と呼びかけても、若者たちには届きません。「相談したい」と思っている若者は少ないからです。

 「相談」を前面に出すのではなく、若者たちのニーズにかなう「具体的な支援の内容」を告知するようにしています。特にニーズが集まるのは、居住支援です。「住む場所を提供します」とSNSで発信すると、困窮する若者から連絡が寄せられやすいことが分かってきました。

 住まいに困っている若者にシェアハウスやシェルターを提供し、まず、床に座れる、自由に寝転べる、という空間を保障しています。その中で心身の回復を図りながら、生活を立て直し、就労へと移行できるよう伴走支援をしています。

 所持金がない。身分証も持っていない。頼れる人もいない。家賃や電気代などを滞納している。そうしたケースも少なくありません。

 必要に応じて、病院や行政と連携しながら支援につなげ、安全・安心が確保されたら少しずつ自立の道を探ります。働く自信のない若者には、仕事体験への同行や仕事探しのサポートもしています。

 サンカクシャでは、シェルター的な機能としての短期的な居住支援も、仕事を始めた後の中長期の住まい探しも、両方行っています。昨年からは、助成金を活用し、若者の家賃をサポートする取り組みも始めました。

◇仲間と一緒に働ける場を。

 若者にとって、サンカクシャは実家のような存在になっていると思います。自立した後も近況を報告してくれる若者が多いですし、ちょくちょく顔を見せに来てくれる若者もいます。

 もちろん、良い報告ばかりではありません。サンカクシャを出た後、再び居場所を失い、シェルターに戻ってくる若者もいます。そこで最近始めたのが、サンカクシャで出会った仲間と共に働く事業です。

 私たちの活動を支援してくださっている企業の協力を得て、現在はハウスクリーニングの仕事を受注しています。若者たちはプロの研修を受けながら、専門機材を使って清掃に汗を流しています。

 今後、清掃業以外にも職種を広げたいと思っています。信頼する仲間と一緒に働くことは、若者たちにとって社会参画への大きな一歩になるはずです。

 ――若者たちの安心できる居場所を、どのようにつくっているのでしょうか。

 若者が気軽に、楽しく過ごせる交流拠点(サンカクキチ)を開放しています。おしゃべりをしたり、本を読んだり、ゲームをしたり、自由にくつろげる場です。

 少しずつ元気が出てきた若者とは、一緒に外出して、キャンプやマラソンなど、さまざまな思い出もつくっています。スタッフが率先して寝転がったり、遊んだりすることで、若者たちも自然とリラックスしてくれていると思います。

 若者たちに「この人だったら話してもいいかな」「頼ってもいいかな」と思ってもらえる存在になることが大切です。

 若者たちは、相手が自分をどう見ているかを敏感に感じ取ります。「かわいそう」と思って接すれば、すぐに見抜かれます。フラットな目線で関わることが重要だと思います。

 以前、うちのシェアハウスを利用した若者の中に、ルームメイトを脅したり、すぐキレて暴れちゃったりする若者がいました。

 暴れる彼を全力で抑えつけたこともありましたし、言い合いになったことも何度もありました。

 でも、彼がすぐ力に訴えてしまうのは、ケンカが強くないと生きていけない環境で育ってきたからなんですよね。自分の力を誇示しなければ生きることができなかった。

 彼とどうやって仲良くなるか。どう信頼関係を築くか。試行錯誤の連続でしたが、そんな彼も今では一人暮らしをし、仕事に就いています。

 最近は、「いろんなノウハウを身につけたら、サンカクシャの中で事業を立ち上げて、若者の雇用づくりを手伝いたい」とまで言ってくれています。

 若者たちの表面の姿や行動だけで判断するのではなく、その背景を理解し、関わり続けていく。その中でしか、信頼は築けないと思っています。

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SEIKYO SHIMBUN