RELATIONSHIP

「AI時代、人間の最大の能力は、感情!?」 脳科学者・恩蔵絢子さんと対談(前編)

〈駒崎弘樹のAIと未来〉

 私たちは自分の感情で動いているようで、実はそうではないのかもしれません。「こうした方が良い」と、社会の型や価値観に無意識に合わせてしまってはいないでしょうか。

 連載「駒崎弘樹のAIと未来」は、「AIで人の孤独を減らせるのか?」という問いを軸に、自治体や学校と連携しながら実験を重ねてきた、つながりAI株式会社代表取締役の駒崎弘樹さんが、各分野の識者と対談する企画です。

 今回の対談相手は、人間の感情のメカニズムと自意識を専門に研究する脳科学者の恩蔵絢子さん。恩蔵さんは、「他者の見えない心を推し量り、理解し、適切に応じる能力こそが、これからの人間の最大の武器になる」と語ります。AIが進化する時代に、人間にしか持ちえない価値とは何か――。人間の根源にある「感情」の力を、あらためて見つめます。

■軽んじられてきた感情を、いま問い直す

駒崎 認知症のお母さまの介護を通して、恩蔵さんは「感情とは何か」という問いに、改めて向き合ったとうかがいました。

 恩蔵 母に対して、感情をどう使うのが一番よかったんだろうと思うような、難しい場面がたくさんありました。

 好きな人や大事な人だからこそ、難しくなってしまう問題っていっぱいあるんですよね。

 相手に対して自分の期待を押し付けてしまい、自分と相手をなかなか切り離せない。自分のことを反省するという意味でも、「感情」について考え直したんです。

 駒崎 僕もお恥ずかしながら、こうした対談の場では落ち着いて話すことができていますが、家庭では、ちょっとしたことでも、「その言い方何なの?」って、カチンときてしまうことがあります(笑)。関係が近いがゆえに、少しでも期待を裏切られるとガッカリしてしまうんですよね。

 恩蔵 おっしゃる通りで、感情って扱い方がとても難しいんです。だから厄介なものとして捉えられがちなんですけど、感情って、もっとも人間らしさの核にあるものだと思うんです。

 駒崎 僕の大好きな映画に「インサイド・ヘッド」があります。

 ライリーという少女の脳内に住む、5つの感情のキャラクターたちの物語なんです。この映画のメッセージは、「カナシミ」というネガティブな気持ちが、実は自分を守り、人生を豊かにするために必要不可欠だということなんです。

 悲しい気持ちは一見マイナスなものとして見られがちですが、実は悲しみがあるからこそ、人の痛みがわかったり、人とつながれたりする。感情には、いいも悪いもなくて、それぞれの感情に意味があると捉えていくことが大事だと思いました。

 恩蔵 その通りだと思います。

 SNSなどでは、「いいね」の数が多いものが良しとされて、そうではないものは価値のないもののように扱われてしまう。感情も同じで、「いい感情」だけじゃなく、「悪い感情」も排除することなく、感情をもっと広く見ていく必要があると思っています。

■人はなぜ「感じる」存在なのか

駒崎 そんなふうに「感情」を見ていくと、単なる気分や反応ではなく、人間らしさの土台にあるもののようにも感じます。

 そもそも生命の進化の過程で見ると、「感情」はどのように生まれてきたものなんでしょうか。

 恩蔵 実はそれ、すごく難しい問題なんです。

 自分の生存を脅かす外敵から逃げる、というような「生命を守る反応」として「感情」を捉えると、生物として細胞レベルから鍛えられてきたものが私たちの中に残っています。

 その視点から「感情」を見つめると、後から付け足されたものというより、最初から私たちにあったものなんじゃないかと思うんです。

■抑えるのではなく、「意味」を読み取る

駒崎 しかし、現代人は、そうした人間の土台にある「感情」をうまく扱えているかというと、疑問符が残りますよね。

 僕自身、経営者をしているなかで、自分の思っていることが部下にうまく伝わらなかったり、逆に部下の言っていることが、よくわからなかったりすることがありました。

 経営者は現場の人たちとは違って、売り上げや人件費みたいな抽象概念を扱わなくてはいけない。そういう意味で、現場の温度感や感情的な部分と距離を置き、あえて感情的にならないようにしていたんです。

 それは一見、自分の心の平穏を保っているようにも見えるんですが、実は抑えていた感情がどこかに溜まっていて、ふとした拍子に一気にあふれてしまうんです。

恩蔵 日本ではどこか、感情的にならないことが美徳とされ、自分の感情を見ないようにしてきたところがあると思います。“みんなのために、ちょっと我慢しておきましょう”みたいな。

 でも、そうじゃなくて、「自分が何を感じているのか、他者が何を感じているのか」といったことを、本来は見ていく必要があると思うんです。

 問題解決の場面でも、お互いが我慢して遠慮するのではなく、自分と相手を理解するためにあえて衝突して、そこから解決策を一緒に探していく。そういった成熟した社会になるのが理想だと思います。

 もちろん下手にやると対立構造を生むことにもなるので、すごく難しい。でも、そうやって感情を見つめ直すことの中に、人と人とがわかり合うきっかけがあるとも思うんです。

 たとえば、かんしゃくを起こしている子どもに向き合う場面でも同じです。「この子は困った子だ」と決めつけるのではなく、「なぜ怒っているのだろう」「どうすれば気持ちが落ち着くのだろう」と考えてみる。そうした温かい向き合い方が必要だと思います。

 駒崎 なるほど。自分の中で何かの感情が発生した時は、“それはいらないものだから、胸の内に閉まっておかなくては”と抑え込むのではなく、“何で自分は怒っているのか”“自分は今何に苦しんでいるのか”と、感情を読み解くことが必要だということですね。

 他者に感情をひもといてもらうことや、自分で自分の感情をほぐしていくことが大切なのだと思いました。

 恩蔵 やっぱり、自分の感情を「メタ認知」していくことが大事なんだと思います。

 自分の感情を自分で理解できるようになると、感情を自分でコントロールしやすくなっていくと思います。

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SEIKYO SHIMBUN