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〈Colorful〉 “昭和なおやじ”の魅力を語る 「雑に生きる力」こそが強み

思想家・武道家 内田樹さん

 時代遅れと見られがちだった昭和の価値観。しかし今、その中にあった人間味や他者への関わり方が、見直されつつあります。思想家・武道家の内田樹さんに、“昭和なおやじ”の魅力について語ってもらいました。30代、40代にとっても、役立つヒントがあるかもしれません。

不確かさを整理しない

僕が子どもの時代は、まさに戦後でした。周囲の大人たちは皆、戦前の大日本帝国臣民として教育を受けてきた人たちで、それが敗戦を機に、いきなり民主主義へと切り替わりました。

 だから彼らは、原理主義的にものを考えることの危うさを、身をもって知っていた。威張っていて、一つの考えに固執する人間は信用するなというのは、戦中派の人たちが学んだ教訓ですね。

 当時、誰もが葛藤を抱え、親や教師たちの意見も分かれていた。そんな大人たちを見ながら、世の中にはさまざまな考え方があるのだと感じて育ったわけです。

 今は、すっきりとした答えや、分かりやすい正解が求められる時代です。それこそ、AIに答えを求めるように。しかし、本来の社会はもっと雑多で、矛盾や対立を含んでいるものです。そうした不確かさを、無理に整理しない――いわば「雑に生きる力」こそが、昭和の大人たちの強みだったのではないかと思います。

葛藤で「成熟した大人」に

人間は葛藤を通じて成熟するものだと思います。今は、「成熟した大人」が少なくなっている気がする。「本当の自分」や「自分らしさ」といった言葉で片付けられるほど、人間は単純ではありません。

 人の中には、気高さもあれば下品なところもある。勇敢さもあれば卑屈さもある。男性的な面も女性的な面もある。老人のような部分もあれば、幼児性もある。そういう多様な要素をどれだけ抱え込めるかで、人間の大きさは決まるのだと思います。

 成熟とは、大きくなることです。逆に未熟とは、自分を純化して小さくしてしまうことです。「自分はこういう人間だから」と決めてしまうと、それ以外のものを受け入れられなくなり、他者と共生しにくくなる。

 大きな人間というのは、自分の中に他者をたくさん抱え込んでいる。自分の中にも理解しきれない衝動や欲望、見せたくない卑しさがあると分かっているから、他者に対しても寛容でいられる。この寛容さこそ、多様化が進む社会において不可欠だと思うのです。

任せることで人は育つ

戦後の再建は、まさにゼロからの出発でした。親たちだけでは手が回らず、子どもにも「できることは自分でやれ」と、権限委譲した。

 とりわけ団塊の世代は人数が多く、高度経済成長の局面に入ると、社会全体が猫の手も借りたいような状態になった。結果として、若い世代にも仕事が回り、任される領域が広がっていった。

 こうした「任せる」という経験は、人を育てる上でとても重要です。

 僕も道場で200人ほどの門人を見ていますが、向こうから相談に来れば助言はする。ただ、こちらから踏み込んで管理することはしません。

 管理しすぎれば想像力は落ちるし、任せすぎれば統制が崩れる。要は、さじ加減ですが、そこに正解はない。このようなリーダーシップは経験の中でしか身に付きません。

 昭和は上下関係が厳しい時代と思われがちですが、団塊の世代は「数の力」を背景に、自分たちを中心に世界が回っているような全能感のようなものもあった。そうした「数」と「任された経験」が、昭和のおやじを一つの大きな固まりにしている。ただ、その存在感の強さが、今の若い世代から見ると、少しうっとうしく映ることがあるのかもしれませんね(笑)。

誰も取りこぼさない

後年、父の部下だった人からこんな話を聞きました。若い頃、仕事のストレスで会社に行けなくなった時、課長だった父から「釣りに行かないか」と誘われたそうです。船宿に泊まり、釣りをしながら時々ウイスキーで一杯やる。そんな時間を過ごした3日目に、ついに自分から「明日から出ます」と言ったそうです。その間、父は仕事のことを一切言わなかったようです。

 上司が3日も会社を離れて、部下の面倒を見る。今なら距離が近すぎると感じるかもしれませんが、当時はそれほど特別なことではなかったのかもしれません。職場が一種の疑似家族として機能していて、「誰も取りこぼさない」という感覚が共有されていたんですね。それが企業の強さを支えていた。

 今の時代は、短期的な個人の利益を考える人が増えたように感じます。「自分さえよければいい」と皆が考え始めたら、集団の力は確実に落ちていきます。特に、競争の中で相対的な優劣を争う能力主義になると。

 長期的な共同体の成長を見据えるという発想が、今あらためて必要な時ではないでしょうか。父のような関わり方は、その一つの表れだったのだと思います。

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