ユース特集

〈インタビュー〉 子どもを産みたいという望みを実現するために 2024年10月15日

NPO法人Fineファウンダー・理事 松本亜樹子

 不妊治療の保険適用が拡大されてから1年半。政策をリードした公明党への評価と、今後の課題について聞いた。
(「第三文明」10月号から)

まつもと・あきこ 
長崎県生まれ。2001年、自身の不妊体験をもとに『ひとりじゃないよ! 不妊治療』(共著)を出版。それを機に不妊体験を持つ有志らと04年にピアサポートのための任意団体「Fine」を創設(05年に法人化)。以来、不妊治療患者の支援はもちろん、不妊の啓発活動などに尽力する。16年には「東京都女性活躍推進大賞優秀賞」、18年には内閣府男女共同参画会議の「女性チャレンジ支援賞」を受賞。22年9月に理事長を退任し、現職に就任。
 

社会課題として認識された

 2022年に実現した不妊治療における保険適用の拡大は、当時の菅義偉政権の実績と考えられていると思います。しかし、長い時間をかけてその下地を作ってきた公明党の役割も大きかったと私は見ています。
 私が不妊体験者の支援などを行う団体「Fine」を設立したのは2004年(法人化は05年)です。
 当団体では、不妊体験者による不妊体験者のためのピアサポート(仲間同士での支え合い)を行ったり、不妊やその治療の啓発活動を行ったりしています。
 日本では、3組に1組のカップルが不妊に悩んだことがあると言われています。ところが04年当時は、不妊の当事者はマイノリティーとされ、社会課題としては認識されておらず、肩身の狭い思いをしていました。
 そうした問題意識から「不妊をもっと普通に話せることに」との理想を掲げて活動を始めたものの、あくまで体験者による事業ということもあり、政治や行政、医療の知識に乏しく、暗中模索の状態でした。

 そんな私たちが初めてお会いした政治家が、高木美智代衆議院議員(当時)をはじめとする公明党の女性議員の方々でした。初めての政治家にとても緊張していたのですが、皆さんが気さくに話してくださり、すぐに打ち解けることができました。そして、マイノリティーとして社会の片隅に追いやられていた私たちの苦労話に親身になって耳を傾けてくれたのです。私どもが提唱する不妊治療の4つの負担、すなわち①経済的な負担②身体的な負担③精神的な負担④時間的な負担――のすべてに、心から共感してくださいました。
 正直に言うと、それまで不妊の課題に関して、政治には大きな期待はしないようにしていました。高木さんたちは、そんな私の考え方を、良い意味で覆してくれました。
 そして、公明党の皆さんは、すぐに行動してくださいました。不妊体験者の方をしっかりサポートする体制作りや、不妊治療に関する助成金などについて、何度も国会で質問をしてくださったのです。
 一昨年の保険適用の拡大に先駆けて、国は2021年1月に不妊治療の助成を拡充しました。もちろん、保険適用の拡大も助成の拡充も、決め手は政府による政治判断です。しかしそれは、関係各所の地道で粘り強い取り組みがあったからこそ、実現できたのだと思います。私が思う公明党の特徴は、医療や福祉など、人々の命に関わる政策に多大な熱意を持たれている点です。 
 

一層高まった政治への期待

 不妊治療における保険適用が拡大されて、最も変わったのは若い人々が治療を受けるようになった点です。以前は30代と40代が圧倒的多数だったのですが、現在は20代の方々が治療を受けるケースが増えているのです。年齢を重ねれば妊娠しづらくなることを考えると、早い時期から治療に取り組む方が増えたのは、とても良いことです。
 当法人では、不妊体験者に対するアンケートを定期的に行っており、そこにはさまざまな声が寄せられます。助成の拡充や保険適用の拡大の後に見られたのは、不妊体験者らの政治への関心の高まりだと思います。時の首相自らが発信し、それをメディアが大きく報じたことで、体験者の方々は「政治が自分たちの苦労に寄り添ってくれている」と感じたのでしょう。

 その分、保険適用の拡大を機に政治への期待は高まっています。一方で、いまだ解決が望まれる課題も少なくありません。
 最も大きな課題は、不妊治療の回数や年齢の制限によって生じた“線引き”の感覚の解消です。現行の保険適用には、治療開始時の年齢が43歳未満という条件があります。そして治療の回数は一子につき、40歳未満は6回まで、40歳以上43歳未満は3回までとなっています。それ以降は自費での治療になるのです。
 この“線引き”によって、現場では6回以上の体外受精をしない人が増えているようです。医療者の側からすれば、「もう少し頑張れば妊娠できたかもしれない」というケースがあります。
 ところが、治療を受ける側は、「6回以上やっても意味がないということだろう」との認識を持ってしまう場合もあるようです。
 あるいは6回目以降も治療を続けたくても、それまで3割負担だった治療費を、全額負担しなければならないとなると、多くの方は心理的なハードルを感じてしまいます。この“線引き”は、どうにかして解消していただきたいと思っています。
 

目の前の課題を解決するために

 不妊治療と仕事の両立も大きな課題です。不妊治療には、突発的で頻回な通院が必要です。ただし、不妊治療のサポート制度を導入している企業は、全体の3分の1もありません。
 厚生労働省の調査では、不妊治療を受ける女性の約23%が離職していることが明らかになっています。また、当法人の試算では、不妊治療による離職がもたらす経済的損失は、年間で1345億円にもなることが分かっています。
 ただでさえ人手不足の今、企業の未来を考えれば、不妊治療をする人へのサポート制度を早く整えることは重要でしょう。介護や育児の休暇制度がある企業は、それを不妊治療にも適用すればよいだけです。厚労省は企業のサポートを促進するため、ハンドブックや「不妊治療連絡カード」を作成していますが、まだまだ広くは知られていません。行政や政治には、これをもっと広く周知することをお願いしたいです。

 あとは、精神的な負担の軽減にも注力していただきたいと思います。理想は、治療に入る前のカウンセリングも保険適用の対象にすることです。子どもを持つという意味では、特別養子縁組制度も大切な選択肢でしょう。しかし当事者には、その選択肢が見えづらいものです。カウンセリングの体制が整えば、「子どもを産みたいのか、それとも育てたいのか」という当事者の意思が可視化され、余計な精神的な負担が解消されるはずです。
 他にも、男性不妊のさらなる周知や性教育の充実、晩婚化・晩産化の解消など、たくさんの課題があります。子どもを産みたいという望みを実現するために、公明党の皆さんには引き続きリーダーシップを発揮していただきたいと思います。