企画・連載

世界のランウェイを歩いたモデルが、保育園にレッドカーペットを敷く理由 2026年8月29日

〈SDGs×SEIKYO〉 今回のテーマは「質の高い教育をみんなに」
ファッションモデル・1KIDS RUNWAY主宰 前田一翠さん
歩き方に、正解はない

 保育園のホールに、真っ赤なレッドカーペットが敷かれる。自分で彩った衣装をまとった園児が、一人ずつその上を歩いていく――。「1KIDS RUNWAY(ワンキッズ・ランウェイ)」と呼ばれるこの催しの主宰は、「ドルチェ&ガッバーナ」「ジョルジオ・アルマーニ」など世界的ブランドのショーを歩いてきたファッションモデル・前田一翠さん。保育園のホールと、イタリア・ミラノの大舞台。二つのランウェイをつなぐものを聞きました。

全員が主役

 ――保育園にレッドカーペットを敷き、子どもたちが一人ずつ歩く。どんな空間をつくろうとしているのでしょうか。
     
 会場を暗くして、音楽と照明を入れます。ふだんの遊戯室が、まったく別の場所になる。この非日常感が、まず大事なんです。
     
 そして、一人一人が順番に真ん中を歩きます。誰かが主役で、誰かがその後ろにいるのではなく、ここでは全員が主役です。
     
 歩き方は一切教えません。教えようとした瞬間に、そこには「正しい歩き方」が生まれてしまいます。すると、せっかくの経験が誰かの正解をなぞるためだけの時間になってしまう。
     
 なので、走ってもいい。大事なのは、その瞬間に自分で一歩を踏み出す気持ちだけです。僕たち大人の仕事は、そのための環境をどれだけ丁寧につくれるか。それに尽きます。
     
 ――一人がレッドカーペットの先端にたどり着くまでの時間は、6秒ほどだと聞きました。
     
 そのほんのわずかな時間で、行きと帰りの顔が変わるんですよ。
     
 出番前は緊張で立ちすくんでいた子が、レッドカーペットを囲む観衆からの声援を全身で受けて、「やってやったぜ」という顔で戻ってくる。保護者からも「こんな姿、見たことがない」とよく言われます。

「勘違い」から、世界の舞台へ

 ――前田さんご自身は、どのような経緯でモデルの道へ進んだのでしょうか。
     
 もともとは、モデルを目指していませんでした。父が学校の先生だったので、自分も教育に関わる仕事を、と漠然と考えていたくらいです。
    
 大学卒業後に「ミスター・ワールド・ジャパン」というコンテストへ出る機会があり、運よく準優勝しまして。それで、完全に勘違いしたんです(笑)。それから少しずつ、モデルとして活動するようになりました。
     
 ある時、プロのカメラマンに撮ってもらったんです。ところが、そこに写っていた自分は思い描いていた姿とは、あまりにもかけ離れていて。あれはこたえました。

 でも、そこで火がついたんです。もっとモデルの世界に向き合ってみたい、と。
     
 ――そこから、どんな目標を掲げたのでしょうか。
     
 どうせやるなら世界最高峰をと思いまして、メンズ最難関といわれるジョルジオ・アルマーニのランウェイを目標に掲げました。
     
 ほとんどの人には「無理だよ」と笑われましたけど、余計に燃えましたね。目標さえ決まれば、あとは逆算するだけですから。ただ、その過程で、過激な減量法をうのみにしてしまったことがあって。心身のバランスを崩して、拒食症と過食症に苦しんだ時期もありました。
     
 当時は、自分の体ととことん向き合うことが、世界と渡り合う唯一の道だと信じていたんです。
     
 ――ミラノでの挑戦は、スムーズにいったんですか?
     
 英語とイタリア語で書いた手紙を持って、モデル事務所を30軒ほど飛び込みで回りました。「忙しい時に来るな」と門前払いの連続でした(笑)。挑戦できるのは年に2回。それを2年繰り返して、ようやく契約できたんです。
     
 最初の仕事が「ドルチェ&ガッバーナ」でした。その後、憧れのアルマーニのショーにも計6回出演しました。
     
 ただ、オーディションで歩けるのは、キッズランウェイと同じく一人わずか6秒ほどなんです。この瞬間に、それまでの全部をぶつけるんですよ。

本物は、どこにでもある

 ――世界の舞台にたどり着くまでの道のりで、得たものは何でしたか。
     
 二つあります。
    
 一つは、自分ととことん向き合った時間が、そのまま自信になるということ。門前払いの2年間も、体を壊した日々も、諦めなかったことで、どんな時も前を向く今の自分の芯になっています。
     
 もう一つが、一流に触れる大切さです。ドルチェさんに、「世界最高峰のものを見なければ、本質を見分けることができない」と言われました。
     
 一度でも本物に触れると、自分の中に物差しが一本できるんです。そうすると次に何かに出会った時、それがどれだけ真剣につくられたものなのかを、感じ取れるようになる。
     
 ――とはいえ、誰もがミラノに行けるわけではありません。
     
 海外である必要は、全くないんです。山梨でフルーツ農家やワインの造り手に出会った時、「本物だ」と感じる時があります。有名でも、高価でもない。真摯に向き合う姿勢が、その人の言葉やたたずまいから伝わってくるんです。本物は、どこにでもあります。
     
 ――本物志向はキッズランウェイにも反映されている、と。
     
 そうですね。例えば、ヘアメイクも、必ずプロにお願いします。子ども扱いは一切せず、一人のモデルとして向き合います。子どもだからこそ、大人の本気も、ごまかしも見抜きますから。なので、私たちは一流の舞台を用意して、かけがえのない経験をしてもらえるよう心を尽くしています。

 これまで、キッズランウェイの実績は全国50会場を超えました。私は子どもたちに、何が本物かを自分の感覚で選べる人になってほしいと思っています。誰もが自分の人生の主役です。本物に触れ、自分の足で踏み出した6秒。それが何年後かに蘇って、自分を信じる理由になってくれたら――。そう願いながら、レッドカーペットを敷いています。

 ぜひ、今後、聖教新聞さんとも一緒にキッズランウェイを企画したいと思っています。

 〈プロフィル〉
 まえだ・いっすい 熊本市出身。東海大学海洋学部卒。ミラノを拠点に「ドルチェ&ガッバーナ」「ジョルジオ・アルマーニ」など世界的ブランドのショーに出演。現在は山梨県を拠点に株式会社一(いち)代表、やまなし大使として活動する。

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