デジタル企画

電子版連載〈WITH あなたと〉 #発達障がい その人らしく生きられるために――茨城県東海村 山岸妙美さん 2025年2月22日

 発達障がいの一つである、自閉スペクトラム症(ASD)当事者の青年がいる。現在は茨城県が運営する生涯学習事業や、市や村からの依頼を受け、社会人講師として精力的に講演活動を行う。「当事者の私にしかできないことを発信し続けたい」と語る彼女の歩みを追った。(取材=野呂輝明、花園千代子) 

自分を見つめて

 山岸妙美さん=茨城県・東海村、県池田華陽会サブキャップ=は、幼稚園の年少の頃から、黄色い食べ物をまぶしく感じたり、園舎の工事の音で昼食が食べられなかったりすることがあった。

 小学2年の時、自閉スペクトラム症(ASD)と診断され、支援員と一緒に学校生活を過ごした。思春期になると周囲と違うことを、恥ずかしいと感じるようになった。小学6年からは支援員に頼らず一人で学校生活を送ろうと決めたが、新学期、たまたま自分の隣に置いてあった机を見てクラスメートに「それ、お前の先生(支援員)の机だろ」と言われたのがショックだった。

 その一言で、頑張ろうという思いがしぼんでしまった。それからは登校しても教室に入れず、ずっと廊下にいて、給食も一人で食べていた。当時は自分の気持ちをうまく言葉で伝えることができず、ただ行動するしかなかった。

 中学校に入学してからは、もともとあった聴覚過敏のほかに複数のことを一度に行うのが苦手なことを自覚した。例えば、教員の話を聞きながら板書する、その二つを同時にはできない。授業の場面以外では、思ったことをすぐ口に出すことで、クラスメートとトラブルになることもあった。中学1年の終わりに特別支援学級への移動を決めた時、「普通学級の中でこれまで自分が、人と違う部分を目立たないように擬態していたことに気付いた」。支援学級では、一人一人にそれぞれの特性があることを知り、学習などさまざまなサポートを受けながら、ありのままの自分で過ごすことができた。

 通信制の高校に進み、在学中に主治医の勧めでアルバイトを始めた。「障がいがあることはクローズにして(カミングアウトせず)、働いた」。自閉スペクトラム症は“コミュニケーションの障がい”とも呼ばれる。「仕分け作業(商品補充)は得意だが、あいまいな指示での業務作業、上司の心ない発言、そうしたものが、つらかった」。帰り道は、一人で泣いたこともある。卒業後も働き続けたが、ストレスが限界に達し、体調を崩す。アルバイトを辞めて静養せざるを得なかった。

人との出会い

 「どこにも所属していないという不安に、押しつぶされそうになったことも何度もある」という妙美さん。一番つらかった頃、連絡したのが地元女性部の山本浩美さん(県総合女性部長)だった。幼い頃から信心に励む家で育った妙美さんにとって、山本さんは、親も含めて、家族で信頼を寄せている人だ。その日あったこと、つらい気持ちを思いつくままに話した。ひとしきり話し終えるまで、山本さんは耳を傾けた。

 山本さんは、妙美さんが悩みを打ち明ける中で、彼女にとって今一番何がやりたいか、一つ一つ丁寧に聞いていった。

 学童保育の指導員をしていた山本さんは、それまでも発達障がいの子どもたちと関わる機会があった。「最初は、話してくれたことは受け止めて否定しない。それから励ましの言葉をかけていた」と振り返る。

 もう一人、妙美さんの支えとなった地域の先輩に、関根正子さん(白ゆり長)がいる。

 関根さんは、妙美さんが創価学会の高等部の時から、女子部(当時)のお姉さんとして関わり、信心の実践の楽しさを教えてくれた先輩だ。

 共に学会活動していると、「妙美さんは“何かが苦手”というより、自分の興味・関心に集中する力が強いのだ」ということに気付いた。関根さんは、妙美さんと時間を共にする中で、「その時々で、妙美さんが心地よいと感じる距離感」を意識したという

 「言葉をたくさんかけることが良い時もあれば、見守ることが良い時もありました。絶対の正解はないと感じました。だからこそ、妙美さんの置かれている状況を想像しながら、祈りました」。ただ、一貫して、心がけていたのは「肯定すること」。相手が自分を卑下していても、その人のいい所を伝えて、「絶対大丈夫だよ」という気持ちで励ますことだった。

 そのように、妙美さんに関わったのは、山本さんや関根さんにとどまらない。妙美さんは、学会の座談会に参加することが、何よりも好きだった。妙美さんにとって、そこは「親ではない大人が自分の存在を認めてくれる場所」だった。そして、座談会で語られる参加者の人生、ありのままの思いや決意が、自分に生きる勇気を与えてくれる気がした。

 アルバイトを辞めて3年。ある日の座談会に参加して、妙美さんに一つの思いが芽生えた。

 「私も、自分の経験を、誰かのために発信していきたい」

次の時代をつくる

 妙美さんは、母校の幼稚園の園長に「自分の経験を語りたい」と相談した。初めて講演会を行ったのは2022年6月。保護者に向けて自閉スペクトラム症について話した。それがきっかけとなり、茨城県が運営する生涯学習事業の講師に登録することに。幼稚園や地域のこども発達支援センターでの講演はこの2年半で10回を数え、受講者アンケートでは毎回、“学びになることが多々あった”“幼保の現場で、また子育てに、教えてもらったことを生かしたい”等、感謝と感動の声が寄せられている。

 講演会を担った当初は、つらい過去を思い出すと講演中に泣いてしまうこともあった。話すことをノートにまとめながら、相手に伝わるように話すのに試行錯誤を重ねた。その中で、妙美さん自身も、「さらに未来に向かって変化していきたい」と1人暮らしを始め、1年が過ぎた。昨年12月に県内の幼稚園で行われた講演会。妙美さんは、発信を続ける思いを語った。

 「次の時代を生きる子どもたちに、私と同じようなつらい経験をしてほしくなくて。その人らしく生きていける社会になるために、何か助けになれたらと。だから、当事者の私にしか話せないことを伝えていきたいんです」。今年もすでに4件、講演の依頼がきている。今後は小学校でも、子どもたちへ講演の機会を持ちたいと考えている。

 これまで、子ども発達障がい支援アドバイザー、思春期発達障がい支援アドバイザー、児童発達支援士、看護助手、調剤薬局事務、発達障害コミュニケーションサポーターの資格を取得してきた。

 そして、保育士の資格を取って、発達障がいのある子に寄り添える存在になりたいと、未来を見つめる。

お知らせ オンラインイベント テーマ「発達障がい」

「聖教新聞公式note__子育て会議」主催のオンラインイベントを開催します。
 今回は、社会人講師として講演活動を行う山岸妙美さんを招いて行います。
 
 ◎開催概要◎
 「その人らしく生きられるために」
 【日時】2025年3月1日(土)9:00~10:00
 【パネリスト】山岸妙美さん
  
 【開催形式】オンライン
 【参加費】無料
 【参加方法】グーグルフォームから申し込み完了後、2月28日(金)19時頃に事務局からメールでイベント情報をお送りします。
 【申し込み締め切り】 2月28日(金)18時まで

 グーグルフォームURL:https://forms.gle/ZcpvwTWFHoLnAgvP7

 【こんな方におすすめ!】
 ・発達障がいの子育てに悩んでいる方
 ・発達障がいについて考えたい方
 ・子どもの将来について語り合いたい方

 【タイムテーブル(予定)】
 ①注意事項(1分)
 ②ファシリテーターからパネリスト紹介(2分)
 ③パネリストの基調講演(20分)
 ④質問会(30分)※チャットまたは直接発言で質問受け付け
 ⑤まとめ(5分)
 ⑥お知らせ・注意事項(1分)

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 ファクス 03-5360-9470