創価教育

アメリカ創価大学 開学25周年特集――ルポ 世界市民教育 2026年8月27日

差異を超える国際感覚を養い貢献的人生を歩む人材を輩出

 2001年5月3日に開学したアメリカ創価大学(SUA)は、創立者・池田大作先生が示した「貢献的人生を生きゆく世界市民の確固たる潮流を築く」との理念を貫き、人類の未来を開く人材を数多く輩出している。開学から25年――SUAは、この理念を体現するために、どのような教育に取り組んできたのか。前回(7月31日付)に続き、教員や卒業生を取材し、挑戦の軌跡をたどった。(取材=清水湧揮)
 
 

 
 「ポーリング夫妻棟」「ガンジー夫妻棟」「マータイ棟」「キュリー棟」――SUAの教室棟には、各分野で貢献し、今日の世界を築いた人物の名が冠されている。
 
 ノーベル化学賞と平和賞を受賞した科学者のライナス・ポーリング博士とエバ・ヘレン夫人。非暴力の闘士マハトマ・ガンジーとカストゥールバ夫人。ケニアの環境活動家でノーベル平和賞受賞者のワンガリ・マータイ博士。そして、科学の発展に寄与したピエール・キュリー、マリー・キュリー夫妻。人類史的功績を顕彰する各教室棟で、学生たちは日々、志高く学問に励む。
 
 このうち、SUAの開学当初から設置されているのが、「ポーリング夫妻棟」と「ガンジー夫妻棟」だ。
 
 創立者・池田大作先生は、SUAの第1回入学式が行われた5日後、2001年8月29日付の本紙に掲載された随筆で、両棟の名称に込められた思いをこうつづった。
 
 「人種、民族、文化等の『差異』を尊敬しながら、人間のため、民衆のため、生命の尊厳のために尽くしたい。悲惨と苦悩が渦巻く、この世界にあって、不幸の根源を断つために戦う人間主義者であるならば、その精神の闘争を受け継ぎ、魂と魂のスクラムを組んで進みたい。その意味で、二十世紀を代表する、東西の『人道と平和の巨人』のお名前を頂戴したことは、平和連帯の世界市民の育成をめざす、雄々しき我らの誓いなのである」
 

リベラルアーツ

 「世界市民の育成」――SUAは、その使命を果たすために、どのような教育を行ってきたのか。まずはSUAのカリキュラムを知るため、ポーリング夫妻棟にあるイアン・リード教授(副教務部長)のオフィスへ足を運んだ。
 

 
 リードさんは、スタンフォード大学やカリフォルニア大学バークレー校などで教壇に立ち、2009年にSUAに赴任。専門であるラテンアメリカの歴史や社会などを教えている。
 
 「SUAのリベラルアーツ(一般教養)教育は、哲学や経済学、生物学、心理学、歴史など、万般の学問を学ぶことで多角的な視点と幅広い知識を養うことができます。その土台の上に、学生は自身の興味と関心に基づき専門性を磨いていきます」
 
 代表的なカリキュラムの一つが、1、2年次の必修科目「コア」だ。1年次の「コアⅠ」では、約10人のグループで東西の古典哲学をひもときながら、議論を重ねる。
 
 一方、2年次の「コアⅡ」では、近現代の思想を学び、紛争や貧困、環境問題などの課題が、今存在する背景に何があるのかを思索し、解決に向けた自らの見解を述べる。
 
 こうした積み重ねの中で、読解する力や議論する力、そして課題に粘り強く向き合う力が培われていくのだ。
 
 そして3年次からは、専門分野を深めるために、「人文科学」「社会・行動科学」「国際研究」「環境」「生命科学」の五つの集中コースから一つを専攻する。
 
 また、SUAでは全員がスタディー・アブロード(海外留学)を経験する。留学が必修に定められているのは、アメリカの大学でも珍しいという。その意義をリードさんは「文化や考え方の異なる人々と交流することで、他者への理解が深まり、視野を広げることができる」と説明する。
 
 さらに、SUA独自の教育プログラムとして教育者や学識者から高く評価されているのが「ラーニング・クラスター」。国際社会が直面する諸課題などを巡って、教員と学生が一体となって議論し、研究を進める短期集中型のゼミである。国内外で実地調査を行いながら、身に付けた知識や理論を現実の課題解決に役立てる方途を考えていく。

複眼的な思考

 分野を横断する知識と経験を身に付けた学生は、卒業後、名門大学院への進学をはじめ、学術界、法曹界、教育界、国際機関などで活躍している。その姿を間近で見てきたのがドンヨン・ファン教授だ。ガンジー夫妻棟にあるオフィスを訪ねると、柔らかな笑顔で迎えてくれた。
 

 
 東アジア研究を専門とするファンさんは、開学当初からSUAの教壇に立ってきた。
 
 採用面接の際にかけられた言葉が、今も心に残っているという。
 
 「SUAは世界中から学生が集まる国際大学になります。平和のために貢献する世界市民を輩出するのが使命です」――この思いに共感したファンさんには、全ての学生に身に付けてもらいたいと思っている二つの力がある。
 
 一つは、情報をうのみにせず、多角的に物事を捉えて判断する「クリティカル・シンキング(批判的思考力)」。もう一つは、組織や周囲の意見に流されず、自分の頭で考え、自立して判断・行動する「インディペンデント・シンキング(自立した思考力)」である。
 

 
 これらを育むために、どのような取り組みを行ってきたのか。ある時は、ラーニング・クラスターで核兵器の問題を取り上げ、学生と共に広島県と韓国・慶尚南道の陜川郡を訪問した。陜川郡には、広島で被爆した後に韓国へ帰国した被爆者やその子どもが多く暮らしている。学生は、現地に直接足を運び現実を目にすることで、核兵器の悲惨さと、被害にあったのは日本人だけではなかったという事実を深く受け止めたという。
 
 また、別の機会には、日本の近代化を主導したとして評価されることの多い日本の政治家に対し、韓国では、植民地化を進めたなどの理由で批判的に見られることが多いなどの比較研究を行った。
 
 歴史や人物は、立場や視点が変われば捉え方や評価が大きく変わることがある。そのことを理解する中で、学生たちは複眼的な物の見方を身に付けていけるのだという。
 
 ファンさんは力を込める。
 
 「世界市民とは、国境や国籍にとらわれず、地球に暮らす一人として、バランスの取れた国際感覚を身に付けた人だと思います。そうした人材を社会に送り出していけるよう、これからも創意工夫を重ねていきます」

先住民から学ぶ

 SUAの講義は、1クラス約10人の少人数制。だが、履修期間になると、定員を大幅に超える受講希望者が集まる講義も少なくない。
 
 キュリー棟で出迎えてくれたのは、ユニークな手法で人気の講義を提供する、ナイジェリア出身のチカ・エシオブ客員准教授。アフリカや先住民について研究する彼女は、米ハワード大学で博士号を取得後、ルワンダやアメリカの大学で教壇に立ち、2022年からSUAで勤務する。
 

 
 講義では、現代の過度な競争社会が招いた環境破壊やメンタルヘルスの悪化などの課題克服の方途を、アフリカの伝統思想や先住民の文化に学んでいる。
 
 「アフリカには『ウブントゥ』という精神があります。『あなたがいて、私がいる』という意味を持ち、私たちが互いに結ばれていることを教えてくれる哲学です。こうした思想を通して、他者と競争するのではなく、互いに協力する生き方の大切さを確認しています」
 
 先住民の文化に関する授業では、アメリカ先住民・ナバホ族の言語で「美」を表す言葉に、外見的な美しさだけでなく、「平和」「喜び」「調和」などの概念が含まれていることを学んだ。受講者が、真の美しさとは何かを考え、価値観を見直すきっかけにもなったという。
 
 また、SUAのあるカリフォルニア州オレンジ郡に暮らしていた先住民の土地や、彼ら・彼女らが征服者に連れて行かれ、強制労働をさせられた場所を訪問。自然と調和して暮らしていた人々が、国外からの圧力によって労働や競争の世界に組み込まれていった歴史を学んだ。
 
 こうした史実と自分たちの生き方を照らし合わせる中で学生たちは、実は自分自身も労働、競争社会の一員として、無意識のうちに搾取している側にいることに気付くのだという。

卒業後の進路

 本年5月にSUAを卒業した、創立者賞受賞者のマレヴァ・ディジューさんは、エシオブさんの講義を受講していた一人だ。
 

 
 先住民のルーツを持つ両親のもとに生まれた彼女はフランスで育った。エシオブさんの授業を通して、両親が置かれていた状況や、植民地主義の影響などについて理解を深めた。
 
 これがきっかけとなり、入学時に抱いていた「生態学を学びたい」という思いは、「先住民が培ってきた生態系に関する知識について研究したい」という具体的な願いへと変わり、進路の軸が定まっていった。
 
 卒業後は、コスタリカにある国連平和大学の修士課程へ進学。先住民の知識を、現代の平和構築や地球規模の課題解決にどのように生かすかを学ぶ。
 
 ディジューさんは「将来は環境保護の活動に従事し、先住民のコミュニティーを守るための支援をしていきたいです」と声を弾ませる。
 
 SUAの教育は、こうした専門性に直接生かされるだけではない。4年間の薫陶は「自分らしく生きること」の支えになっているというのが、卒業生たちの実感だ。
 
 7期生のマヤ・オオノさんは現在、ニューヨークに本社がある世界最大級の出版会社でマーケティング業務に従事している。
 

 
 2007年にSUAに入学。希望に胸をふくらませて新たなスタートを切ったものの、親元を離れての慣れない寮生活や、人間関係の悩みから精神的な不調を感じるように。授業に出席することもままならなくなり、退学の危機に直面した。
 
 そうした中で、創価教育の理念や池田先生の哲学を学ぶうちに、「自分とは何か」「自分らしい生き方とは何か」という問いが芽生えた。家族や大学教員、友人の温かい励ましが支えとなり、徐々に元気を取り戻したオオノさんは、この問いを探究するため、人文科学を専攻することを決意。さまざまな文学や哲学などを懸命に学び、後に成績優秀者として表彰された。この時に得た知識と経験は、現在の仕事でも生かされていると感じている。
 
 「自身と深く向き合うことを通して、ありのままの自分を受け入れられるようになりました。また他者を大切にし、尊重する心も育まれました。勉学に励み知識を身に付けることは重要ですが、SUAの最大の魅力は豊かな人間性を磨けることだと思います」
 
 ◇ 
 
 対立や分断が深まり、さまざまな課題が山積する現代社会。そこで起きている問題を「自分には関係ない」と遠ざけるのではなく、「わがこと」として受け止め、向き合う。そして、自分には「何ができるのか」と問い、具体的な行動へとつなげていく。
 
 その力を育んできたのが、SUAの世界市民教育だ。社会のため、世界のために尽くす人を一人でも多く輩出していくことが、平和の未来を切り開く最も確実な道である。

 
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