ユース特集

〈電子版連載〉 お悩み相談部屋 #若者が怖いです 2025年11月10日

 電子版連載「お悩み相談部屋」では、若者のリアルな悩みを識者にぶつけていきます。今回答えてくれるのは、『若者恐怖症――職場のあらたな病理』(祥伝社)の著者で、東京大学大学院講師の舟津昌平さんです。

 勤務先に「メンター制度」(※)があり、半年前から女性の後輩のアドバイザーをしています。私も彼女も20代ですが、価値観の違いからか、関係がなかなか深まりません。そんな時、「Z世代は早期離職しやすい」という記事を読み、「嫌われていないかな」「私のせいで辞めたらどうしよう」と不安になり、顔色をうかがってしまいます。(20代・女性)

 (※)メンター制度=若手社員に先輩がつき、仕事やキャリア、メンタル面を支援する仕組み。

 ――後輩に意見を伝えるのが怖い、という声をよく聞きます。

 相談者である先輩だけでなく、もしかしたら後輩の側もまた、人と直接向き合うことを少し怖がっているのかもしれません。
 私が大学の講義で学生に意見を求めると、彼らは私(教員)ではなく、まず隣の友人の顔をうかがいます。「今しゃべっていいのかな」「変に思われないかな」と迷いながら、まず“横の反応”を確かめるんです。
 私はこの現象を「横向くシンドローム」と呼んでいます。

 「余計なことを言わない方が安全」。そんな感覚が、人との距離を少しずつ広げています。この感覚は若者に限りません。
 上司の顔色、会議の空気、世間の反応――。私たちは誰もが、目の前にいる相手と話しているようで、実はそれ以外の“誰か”に見られることを気にしている。その慎重さは悪いことではありませんが、同時に、目の前の人に自分の言葉で語りかける勇気が少しずつ薄れているようにも見えます。

 ――相談者もまさに、慎重すぎる「優しさ」に悩んでいるようです。

 相談者の方は、「自分の言葉が相手を傷つけるかもしれない」というためらいがある。
 でも、人と関わるとは本来、相手を少し“揺らす”ことでもあります。だから、「怖い」という感情を否定する必要はないと思います。その怖さの中で言葉を探すことが、関係を生かす行為につながるからです。

 ――どうすれば、関係を壊さずに意見を伝えられるのでしょうか。

 まず、職場での関係は、フラットでなくていい。仕事では立場の差があり、責任の重さも違います。だから、「これをお願いします」「ここは違うので、やり直してほしい」と命じていいんです。

 むしろ、何でも「どう思う?」と聞きすぎると、相手は不安になります。優しさがいきすぎると、判断の軸を失わせてしまう。職場では、相手を過度に慮るより明確に伝える方が誠実ともいえます。

 その上で、「やってみて気づいたことがあれば教えて」と一言添えれば、上下関係を前提にしながらも、意思疎通を図ることができるでしょう。

 ――ちまたで騒がれる「Z世代論」などの情報も気になります。

 参考になる情報もありますが、間違いも結構ありますので、あまり振り回される必要はありません。
 
 ちなみに、相談者さんは、若者の早期離職のことを気にしているようですが、厚生労働省の調査では、入社3年以内の離職率は15年間、ほぼ横ばいです。
 およそ32~33%で、コロナ禍でも大きく変わっていません。「最近の若者はすぐ辞める」というイメージは誤解です。一部の退職代行サービスが目立つことで、そう見えるだけです。私の調べた限り、離職者も職場に相談してから決断しています。

 それでももし、Z世代の情報について気になるのであれば、「Z世代はこう言われているけれど、あなたはどう思う?」と直接、後輩に聞いてみたらいい。その方が、人間関係も相手への理解も深まると思います。

 俳人の横井也有は、「化物の 正体見たり 枯れ尾花」と詠みました。怖いと思っていたものの正体を確かめてみれば、それはただのすすきだった――。
 Z世代と向き合う上では、あまり気負いすぎず、情報だけではなく、関係そのものの中で感じたことを信じてみてはいかがでしょうか。

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