創価新報
【社会は今 青年の視点から】③ 〈てい談〉NPO法人「あなたのいばしょ」 大空幸星理事長×田島学生部長・先﨑女子学生部長 2022年6月15日
「社会は今 青年の視点から」では、学会の青年リーダーと有識者の対談を通して、危機の時代に立ち向かう方途を探ります。今回は、田島学生部長と先﨑女子学生部長が、「望まない孤独」の解消を目指すNPO法人「あなたのいばしょ」理事長の大空幸星さん(慶應義塾大学在学)と語り合いました。(創価新報2022年6月15日付)
田島学生部長 内閣官房に孤独・孤立対策担当室が設置されるなど、国が孤独問題の解消のために本格的に動きだしました。大空さんは政府に提言もされています。この活動に取り組んだきっかけを教えてください。
大空理事長 高校時代、家庭の問題で悩んでいました。命を絶つことも考えた時、学校の先生に自分の思いをつづったメールを送りました。するとその先生は、すぐに家まで駆け付け、話を聴いてくれたのです。一人の生徒を思う心に打たれ、生きていこうと希望を持ったのです。
でもこの経験は奇跡的な出会いだと思っています。それを一律に求めるのではなく、どんな人でも「支えてくれる人に、当たり前のように出会える機会をつくりたい」。そんな思いで「あなたのいばしょ」を立ち上げたのです。
先﨑女子学生部長 確かに、大空さんが出会ったような先生に誰もが出会えるとは限りません。国が対策に乗りだしたきっかけをつくった意義は大きいと思います。
大空 これまで、孤独は個人の問題とされてきました。しかし、政治課題、ひいては社会問題へと昇華されたことは非常に重要な意味を持っています。日本は世界で唯一、孤独問題のための大臣が設置されている国です。公明党の谷合正明・山本香苗両参議院議員にも非常にお世話になり、力強く後押しをしてもらいました。
田島 コロナ禍の中で、「自殺」という言葉を耳にすることが以前よりも増えた気がします。私の周りでも、大学の友人が人間関係を苦にして命を絶とうとしたという話を聞きました。
大空 実際に、コロナ禍に入って自殺者数は増えています。田島さんのように、親しい関係性の中で「自殺」を身近に感じた人は増えているかもしれません。
若い世代は、一般的にSNSに慣れ親しんだ世代であり、直接的な関わりがなくても生きていけるとの印象がありました。ですがやはり、対面での機会も重要であると感じています。
先﨑 創価学会では、全国各地、世界のあらゆる場所で、同じ信仰を持った同志が、より良い人生を目指して、共に信仰を実践しています。
職場でもなく、家庭でもない、宗教団体の持つ意義はどのようなものとお考えですか。
大空 欧米では、どんな小さな街にも教会があり、そこがセーフティーネットの役割を果たしています。日本には、社会の中で多くの人がアクセスできる場所としての宗教はあまりない。その中で、創価学会が、心のセーフティーネットとして機能していることは非常に素晴らしいと思います。
田島 先日も、家庭環境や人間関係に行き詰まり、苦しんでいた人が、学生部のメンバーとのつながりの中で、学会の会合に参加。彼は、自殺を考えていたことを打ち明けてくれたといいます。
何があっても前向きに生きる学会員の姿に触れて、自殺を思いとどまり、後に彼は学会に入会しました。
家族は縦の関係。友人は横の関係。それに加えて第三の関係である“ななめの関係”が重要です。
大空 多様なつながりをつくることが、「望まない孤独」をなくすことに通じます。そのために特別なことをする必要はなく、縁している人に声を掛けていくことが大切だと思います。
つながりが希薄化する昨今、知り合いの顔を思い浮かべ、しばらく連絡を取っていなかった友人にメッセージを送るだけでもいい。そんな小さな行動が、皆を守るネットワークになるはずです。
先﨑 学生部のメンバーと話していると、悩んでいても、人に相談することができない場合も多いように感じます。悩みを引き出したり、相談してもらえる存在になることは難しいですね。
大空 その場で全ての悩みを吐き出せなくても、「この人なら自分の悩みを話せるかもしれない」と思ってもらうことが重要ですよね。相談されても、すぐに解決しようとせず、長い目で見て支援することが望ましいと思います。
誤解を恐れずに言えば、相談されても「解決できると思わない」ことです。相談されると、自分の力でなんとかしたいと思うもの。でも、多様な悩みがある中で、それを自分だけで抱えて解決するなんて不可能に近い。相談を受けた時は、ゴールに向かって伴走していく姿勢が大切です。
田島 私たち学生部をはじめ、創価学会の同志は、友人の悩みに同苦し、共に祈り、支えていく行動を重ねています。その意味でも、大空さんのご意見は、私たちの活動に自信を与えてくれます。
先﨑 「あなたのいばしょ」の相談員の方も、自身の生活がある中で、多様な悩みを受けるというのはハードなことだと思います。
大空 私が相談員の皆さんにお願いしているのは、「本気の他人事」というスタンスです。相談者の悩みに本気で寄り添う。しかし他人であるという事実もある。全ての責任を一心に背負うのではなく、自分と他人の間に薄い線を引くことも大事だということです。
田島 あくまでも、真剣に相談に乗り、共に進んでいくのは当然ですが、「本気の他人事」として捉えていく視点は新鮮ですね。責任感が強いが故に、サポートする側が疲れてしまうこともある。そんな時は少し冷静になって、「本気の他人事」という位置づけを思い出すのも大事かもしれません。
大空 だからと言って、冷たく接すればいいわけでもない。本気で寄り添い、本気で応じる。それが「本気の他人事」です。
また、支援者側に回るということに対して、ハードルを高く感じる人も多い気がします。人を支えるために、特別な生い立ちや経験が必要なわけではありません。身近なところから行動を起こしていってほしいですね。
先﨑 大空さんの著書『望まない孤独』(扶桑社新書)の中で、社会的に責任を負っている人ほど、他者に相談できないという「スティグマ」(=負の烙印)を抱えているとつづられています。組織の中で、何かしらの責任を担う人は、確かに悩みを吐き出しにくい状況があります。
大空 人間は本来、他者に相談する能力があると思います。しかし、周囲から自分に向けられる目や印象などを意識してしまう。
田島 背伸びしたり、強がったりしないことって大事ですよね。信頼できる人に心を開き、ありのままの自分を見せられる。そんな“いばしょ”を持つことが重要だと感じます。
私は学生部の皆にもそれを感じてほしいと思い、メンバーと話すときは、成功体験ばかりでなく、自分の失敗談や悩んできたことなど、同じ目線に立って語り合うことを心掛けています。
大空 「スティグマ」を打破するには、今おっしゃったように、責任ある立場の人が、積極的に自分の悩みなどを見せることが肝要だと思います。例えば総理大臣が「今、私はこれで悩んでいます」と国民に語り掛けたら、親しみを感じませんか(笑い)。強さの象徴である人が、あえて自分の弱みを見せる。それがスティグマを打破する第一歩です。
先﨑 大空さんは、かつて「Z世代」で流行語大賞を受賞した際のスピーチで「Z世代は分断を乗り越えて、共創の社会を目指していくことが求められている」と語られました。
大空 私が懸念しているのは、世代内の分断です。私たちの世代の中にも貧富の格差があります。社会には、声を上げたくても上げられない人たちがいる。そのことに目を向けてほしいのです。
例えば、最近の選挙では、投票に行こうと声を上げる若者が見られます。しかし、投票に行く余裕すらなく、今日を生きることに精いっぱいの人がいることにも、意識を向けられるかどうか。票を投じる際、苦しんでいる人の痛みを想像するという姿勢があってもいいと思うのです。
田島 若い世代が、希望を持って生きられる世の中をつくるためにも、政治の責任は重い。大空さんが言われたことは、若者の政治参加において重要な視点です。
良い時代をつくる共創の歩みを進めていくため、力を合わせていきましょう!
おおぞら・こうき 1998年生まれ。「信頼できる人に確実にアクセスできる社会の実現」と「望まない孤独の根絶」を目的に、2020年、NPO法人「あなたのいばしょ」を設立。チャット相談窓口の運営のほか、孤独対策に関する提言なども行っている。慶應義塾大学在学。