聖教ニュース
浮世絵は知ってる、でも新版画って?――版元の三代目が語る「新版画」 2026年5月19日
東京富士美術館(八王子市)で開催中の特別展「よみがえる浮世絵スピリット――明治の開化絵から新版画まで」(6月21日まで)が好評を博している。ここでは「新版画」を主導した版元・渡邊庄三郎の令孫であり、渡邊木版美術画舗・三代目代表取締役の渡邊章一郎氏に、新版画の魅力と展示の見どころを聞いた。
代表取締役 渡邊章一郎氏
祖父の庄三郎は、浮世絵輸出を手がける美術商・小林文七商店で働く中で、日本では二束三文の浮世絵が、外国では芸術品として高く評価されているギャップを目の当たりにしました。
その経験をもとに1909年(明治42年)、東京・京橋で渡邊木版美術画舗を創業。版元として木版画の制作、浮世絵商としての売買を始めました。
庄三郎が大切にしたのは、「本物の色を取り戻す」ことでした。
200年前の作品は今、色があせて傷んでいます。
その色をそのまま再現してしまうと、あせた状態の“偽物”を作ることになってしまう。
だからこそ、「この色が時を経てあせたとすれば、本来はどんな色だったのか」を研究し、想像し、作り上げていく――。
江戸の庶民が手にしたあの瞬間の鮮やかさを、現代によみがえらせることが、先代が大切にしてきた精神だと思っています。
浮世絵は江戸時代、役者絵や美人画を“大量に摺って広く売る”庶民のエンターテインメントでした。
しかし明治に入り、写真や印刷技術が広まると急速に衰退していきました。
庄三郎は1915年(大正4年)、来日中のオーストリア人画家フリッツ・カペラリとともに新版画の第一作を制作。翌年には橋口五葉と「浴場の女」を世に出し、川瀬巴水や伊東深水も後に続きました。
大衆向けの浮世絵に対して、新版画はその技法を受け継ぎつつ、一枚一枚に魂を込め、より芸術性を高めた作品をいいます。
版元とは、絵師・彫師・摺師をまとめ、作品を完成へ導くプロデューサーのような存在です。
庄三郎は「ざら摺り」という絵の具やバレンの圧力を調整し、質感を残す技法を考案しました。
しかし、摺師たちは猛反発。色むらなく均一に摺ることが良しとされていたからです。
庄三郎は摺師からバレンを取り上げ、自ら手本を示し、美術展に出品。すると大評判になりました。
このエピソードは庄三郎自身の日記に記されています。
今や生成AIに「葛飾北斎風の絵を描いて」と指示をすれば、瞬時に画像化してくれる時代です。全く危機感がないわけではありません。
それでも、板に一刀一刀刻み、何十回も色を重ねて初めて生まれる一枚の温かみは、どんな技術にも代えられないと思っています。
浮世絵が衰退し、新版画が生まれるまでの明治末から大正の時代は、ほとんど研究されず展示されることも皆無でした。
今回は、その空白を丁寧に埋め、歌川国芳から月岡芳年、鏑木清方、伊東深水・川瀬巴水へと続く系譜を“一本の線”となるように展示されています。
難しい知識はいっさい必要ありません。手で彫り、手で摺る温かみは、印刷物では伝わりません。
ぜひ会場で、職人の手が生み出した“色”と“温かみ”をじかに感じてみてはいかがでしょうか。
【会期】
6月21日(日)まで。月曜休館。会期中、一部展示替えあり
【開館時間】
午前10時~午後5時(入館は同4時30分まで)
【入場料】
一般1500円(1200円)、大学・高校生900円(800円)、中・小学生500円(400円)。未就学児は無料。土曜は中・小学生無料。カッコ内は20人以上の団体、65歳以上の方、東京富士美術館のLINE公式アカウント登録者等の各種割引料金。
〈詳細は東京富士美術館HPで〉