企画・連載

〈クローズアップ ~未来への挑戦~〉 フィリピン 20年間、マングローブの植林活動を推進 2025年2月13日

 世界の同志の姿から、創価の哲学と運動の価値を考える「クローズアップ 未来への挑戦」。フィリピンSGIでは、地球温暖化の抑制に有効とされるマングローブの植林活動を推進しています。ミンダナオ島のマングローブ林を訪問し、関係者に取材しました。(記事=木村輝明)

 照り付ける太陽の光がまぶしい。マリンブルーに輝く海から、さわやかな潮風が吹くたびに、ヤシの木が揺れる。
  
 フィリピンSGIのメンバーが植林活動を進めるマングローブ林があるのは、同国南部ミンダナオ島北部のエルサルバドル市。
  
 約5万8000人が暮らす同市は、ミンダナオの港湾都市カガヤン・デ・オロの西側に位置し、市の北側はマカハラー湾に接する風光明媚な地域である。
  
 その海岸線に沿うように、空港や島の中心部へとつながる幹線道路が整備されており、車で走ると、海の眺めを思い思いに楽しむ人々が見えた。

 マングローブ林は、同市の行政区分の一つであるタイタイ地区に存在する。
  
 幹線道路から細い路地に入ると、樹木がうっそうと茂る地点に着いた。
  
 同行してくれたフィリピンSGIのフェルディナンド・オマッドラオさん(総合本部副壮年部長)が、「ここは活動を開始した時期に植林した場所なんです」と教えてくれた。高さ10メートルほどのマングローブ林が広がっている。さらに海辺に向かって歩くと、約50メートル先まで、林が一面に続いていた。
  
 フィリピンSGIによる植林活動が始まったのは2005年。
  
 エルサルバドル市の地域環境・自然資源課が、気候変動に対応する取り組みとして、マングローブの植林を市民やNGO団体等に奨励していることを知り、同市と連携して、運動を開始した。

 マングローブとは、熱帯・亜熱帯地域の海岸や河口に生育する塩生植物の総称であり、その群落をマングローブ林と呼ぶ。タコ足のような「支柱根」が、特徴的である。
  
 マングローブ林は、土の中に大量の炭素を貯蔵できることが研究で明らかになってきている。大気中の二酸化炭素を、長い期間にわたって土壌内にとどめることにつながるため、気候変動の緩和が期待されている。
  
 また、海面から伸びるように生える多数の地上根によって、海からの風や波を和らげる防災林の役割を果たしたり、魚類や甲殻類がやって来ることによる漁業資源としての役割を果たしたりと、マングローブ林は、多様な機能を担うことができる。
  
 SGIメンバーが植林した場所でも、多くのカニや魚類が生息しているという。

砂浜が消滅

 オマッドラオさんに、実際に気候変動の影響を感じることがあるかと尋ねると、真剣な表情で語り始めた。
  
 「私たちミンダナオ島のSGIメンバーが使用しているカガヤン・デ・オロ文化会館の裏手は、マカハラー湾が広がっているんです。かつては、岸壁に設置された階段を下りると砂浜につながっていて、海水浴を楽しむことができたのですが、徐々に海面が上昇し、今では砂浜が消失してしまいました。地球温暖化を身近に感じ、危機感を覚えています」
  
 フィリピン政府もまた、気候変動への対応、生物多様性の保全、生態系の保護等を目指して、「国家緑化プログラム」と銘打った取り組みを推進しており、11年から28年までに、マングローブを含む15億本の樹木の植林を目指している。

 続いて向かったのは、昨年4月にミンダナオの青年部・未来部メンバー128人が、マングローブの苗木300本を植林した地点である。
  
 車で数分走ったところで、海辺に到着した。「ここからは、靴を脱いでサンダルに履き替えましょう」とオマッドラオさん。遠浅であり、なおかつ干潮に近い時間だったため、海水にほとんど漬かることなく、現場に達することができた。
  
 そこには、30センチほどの小さな苗木が、約1平方メートルごとに植えられていた。
  
 どの苗木にも、2倍以上高い添え木がひもで結ばれている。
  
 「このように支えないと、すぐに倒れてしまうんです。また高くなれば、そのたびに養生する必要があるので、折あるごとに、皆でこの場所に来て、手入れをしています」
  
 そう話しているとオマッドラオさんは、ひもが外れて倒れている苗木を発見し、もう一度、添え木と結び付けていた。
  
 細やかな作業を5年、10年、20年と続ける中で、大きな林が形成されてきたのである。フィリピンSGIとして、これまで2万7000本を植林してきた。

愛する地域を守る

 エルサルバドル市でマングローブ植林を所管する地域環境・自然資源課の担当者リラ・ソキリオさんは、次のように語る。
  
 「海面上昇は、わが市にとって喫緊の課題です。高潮や洪水からも市民を守る必要があります。そのためにも、マングローブの植林は重要です。
  
 現在、市の幹線道路に近接する海岸沿いへのマングローブの植林を、小学校や企業など、さまざまな団体に要請しています。フィリピンSGIの活動は本当に素晴らしく、市の取り組みに対して、大きく貢献してくれています。そのことに心から感謝するとともに、これからも一層の推進をお願いしたいと思っています」

 植林活動に参加したある女子中等部員は、「超暑かったですけど(笑)、SGI家族と一緒に行うことができ、本当に素晴らしい経験になりました。私たちの大切な環境を守るために、次回以降も参加していきたいです」と、うれしそうに感想を述べていた。
 池田先生は「SGIの日」記念提言の中で次のようにつづっている。
  
 「(苗木を植えるなどの)活動は、地域における生態系の大切さを共にかみしめ合ったり、“自分が植えた木が誰かの命を守ることにつながるかもしれない”といった思いを広げる機会ともなってきている」「自分たちの手で地域の生態系を守ることがそのまま、地域の“未来”と“希望”を育むことにつながっていく」

 活動の開始から20年。世代を超えて継承される社会貢献の取り組みは、地域に信頼の根を深く大きく広げている。
  
 オマッドラオさんは誓う。
  
 「今いる場所で直面する地球的諸課題に向き合い、良き市民として尽くすことが、池田先生が教えてくださった仏法者としての生き方であり、使命です。次代へと取り組みを受け継いでくれている青年部を先頭に、これからも愛する地域を守り抜いていきます」

  
  
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