ユース特集

「数学なんて意味ない」は、本当か。書評家・スケザネさんが語る、“世界の見方”を増やす読書術 2026年6月15日

電子版連載「著者に聞いてみよう」

 「本を読んだ方がいい」と言われても、何を読めばいいのか分からないし、最後まで読めない。そんな人も多いのではないでしょうか。書評家のスケザネ(渡辺祐真)さんは、著書『物語のカギ 「読む」が10倍楽しくなる38のヒント』(笠間書院)の中で、「物語は“視点”を持つと面白さが変わる」と語ります。本の楽しみ方について聞きました。

■「きっかけは、完全に下心でした」

 ――今では書評家として活躍されていますが、元々は読書が苦手だったそうですね。
  
 そうなんです。読もうと思ったきっかけは、完全に下心でした(笑)。高校時代、好きだった子がすごく読書家で、森鴎外なんかを薦めてくるんですよ。僕は当時、本なんてほとんど読んでなかったので、「正直しんどいな……」と思いながら読んでいました。
 その子は成績もすごく良かったので、話についていきたくて、読書だけでなく国語、英語も数学も社会も、必死に勉強しました。振り返ると、その過程で“視点”が増えていったんだと思います。
  
 ――視点、ですか。

 簡単にいえば、「何を手がかりに世界を見るか」ということです。
 同じニュースでも、「景気はどうなるんだろう」と経済の視点で見る人もいれば、「政権への影響は」と政治の視点で見る人もいる。「環境への負荷は」と考える人もいる。
 つまり、同じものを見ていても、どの角度から見るかで意味が変わるんです。
 物語も同じです。「この作品は何を描こうとしているんだろう」「なぜこの描き方をしているんだろう」と、自分なりの切り口を持ちながら読むと、一つの作品の中に複数の発見が生まれます。
 子どもの頃に読んだ作品を大人になって読み返すと、印象が変わることがあります。昔は主人公にしか感情移入できなかったのに、今は親の立場の人物の気持ちが分かる。それは作品が変わったのではなく、自分の“視点”が増えたからなんですよね。

■“言葉の眼鏡”を受け取ろう

 ――ただ、本だけ読んでいれば視点が増えるわけではないとも話されています。
  
 むしろ、人生経験の方が大事なこともあります。例えば恋愛小説って、恋愛したことがないと、やっぱりピンと来ない部分があるんですよ。だから、「恋愛小説を読む前に、1回フラれてきた方が早い」みたいなことは、本当にある(笑)。
 バイトしてみるとか、旅行に行くとか、サークル活動をするとか。そういう経験が、あとから読書につながっていく。実際に京都へ行った人が、森見登美彦さんの京都を舞台にした作品を読むと、「あ、この路地だ」ってなる。現実の経験と物語が結びついた瞬間、作品の面白さって跳ね上がるんですよね。
  
 ――人生を深く生きることが、物語を深く読むことにつながる?
  
 逆に言えば、人間って自分自身の感情すら、ちゃんと理解できていない生き物なんですよ。「悲しい」といっても、10円をなくした悲しさと、大切な家族を失った悲しさは全然違う。でも、僕らは意外と、自分の気持ちをうまく言葉にできない。何となくモヤモヤしているだけで終わってしまうことも多い。
 人間の感情って、それくらい複雑なんですよね。だから文学って、「悲しい」「つらい」をストレートに説明しないんです。
 雨の音だったり、部屋の静けさだったり、登場人物のちょっとしたしぐさだったりを通して、「この人は今、こういう気持ちなんだ」と読者に感じさせようとする。
 そんな時に、小説や映画を見て、「あ、自分の気持ちってこれだったんだ」と、腑に落ちる瞬間がある。人間って、1回言葉に翻訳して、自分を理解している生き物なんですよね。
  
 ――学校の勉強に対しても、こうした視点を増やしていたんですか。
  
 国語は日本語という視点で世界を見る学問だし、英語は別の言語の視点、数学は数式の視点、歴史は歴史の視点をくれる。「数学なんて社会に出て何の役に立つの?」と聞かれることがありますが、僕は「世界を見る方法を増やしてくれるもの」だと思うんです。
 最近は動画も、アニメも、本当に面白いですし、「本が一番」なんて全然思っていないです。むしろ本は分が悪いかも(笑)。
 映像作品も、人の感情や世界の見え方を教えてくれます。ただ、本は“言葉”そのものを使って世界を描いているメディアなんです。
 雨を見ても、「雨」としか言えない人と、「春雨」「驟雨」「ゲリラ豪雨」と言える人では、世界の見え方が違う。
 言葉を持つほど、世界を細かく見られるようになるんです。だから本って、言語化に長けた作家が「世界をどう見ているか」という“言葉の眼鏡”を、読者に手渡してくれるものなんです。

■読書のススメ 「気になる3冊」「ジャケ買い」「AI活用」

 ――ここからは、読書が苦手な人へのヒントも伺いたいです。
  
 まず、読書って高尚な理由で始めなくていいです。僕なんか、「好きな子と話したい」が読書の入口でしたから(笑)。不純な動機でいいんですよ。
 もし本屋に行ったら、新書の棚に行ってみてください。新書は、専門的なテーマを初心者向けに整理してくれているので、読みやすいものが多いんです。「気になるな」と思ったタイトルの本を3冊ぐらい選んでみる。内容が難しそうでも、有名な作品でなくてもいい。その意味では「ジャケ買い」もお勧めです。「ジャケ買い」って、実は結構当たるんですよ。本の表紙やタイトルって、その作品を一番理解している編集者やデザイナーが、「どうすれば魅力が伝わるか」を考え抜いて作っているので、自分の感性と合うものは、中身も合うことが多いんです。
  
 ――「買っても最後まで読めない」と悩む人も多いです。
  
 読み切らなくてもいいんです。僕、学生時代に新書を3000冊ぐらい買ったんですけど、ちゃんと読んだのは1000冊くらいだと思います。途中でやめてもいいし、“積読”でもいい。本棚に置いてあるだけでも、「磁場」みたいなものができるんです。「自分はこういうことに興味があるんだな」というアンテナが立つ。すると、ニュースや会話の中でも、そのテーマが自然と目に入るようになる。生成AIもどんどん使った方がいい。例えば、トーマス・マンの『魔の山』みたいな古典って、登場人物も多いし、用語も難しい。挫折した方も多いと思います。でも今の時代なら、AIに「人物一覧をまとめて」とか、「この単語の意味を教えて」と聞けばいい。
 特に古典って、100年、1000年単位で読み継がれてきたものなので、読者の疑問や解説が膨大に蓄積されています。だからAIとの相性がすごくいいんです。最新技術も使いながら、本の世界を楽しんでほしいですね。

<プロフィル>

 スケザネ 1992年生まれ。東京都出身。2021年から文筆家、書評家、書評系YouTuberとして活動。文庫の解説、書評多数。ラジオなどの各種メディア出演、トークイベント、書店でのブックフェアなども手掛ける。

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