名字の言(紙面)

〈名字の言〉 2026年3月1日

 先ごろ福岡で行われた聖教文化講演会で、歴史小説家の安部龍太郎氏が登壇した。自著『ふたりの祖国』(潮出版社)を通して語ったのは、昭和6年の満州事変から同16年の日米開戦に至る「10年間の教訓」である▼当時、日本を戦争へとあおった言論人(徳富蘇峰)もいたが、その危うさを分析し、破局を警告し続けた学者(朝河貫一)もいた。しかし、国全体は異様な熱狂に包まれ、戦争へと傾いていった▼社会の破局や民主主義の危機は、ある日突然に起こるのではない。そこに生きる人々の「仕方がない」「自分には関係ない」といった、小さな妥協や無関心が積み重なり、気付けば引き返せない場所に押し流されている。それが歴史の真実だろう▼現代を生きる私たちにとっても、重い教訓である。悲劇を絶対に繰り返してはならない。“今、危険な方向へ流されていないか”“子どもたちの未来は大丈夫か”。一人一人が社会の動きを「賢明な眼」で見つめ、日々の情報や出来事を捉えていくことが大切だ▼氏は、学会への絶大な期待を語っていた。「皆さんのように、仏教の寛容と慈悲、平和と不戦の精神を持って、地道に対話を続けていくしか、明るい未来を開くことはできないと思います」(実)