ユース特集

【アンラーン特集】連載ルポ〈チェンジ 今ここから〉 九州・大野城圏池田華陽会の試み キャップを“交代制”にしてみた  2025年1月26日

互いを思いやり、皆の力が合わさっていく

 「会社でチームリーダーになっても、気を使うばっかりだし、自分の時間も削られるし、お給料も増えるわけじゃない。メリットなんて一つもない」――最近、そんな言葉を、記者は会社勤めをする青年世代の友人から耳にしました。仕事と学会活動は違うけれど、創価学会にも役職があります。今回は、「リーダー」を楽しみながら成長のきっかけにできるよう工夫している地域を取材しました。

みんなで主体者の自覚を

 福岡・大野城市を舞台に筑紫総県大野城圏の華陽姉妹は、学会活動に励む。地元育ちの人もいれば、進学や転勤、結婚を機に転居してくる人も。ライフスタイルが多様な中、リーダーである圏キャップは華陽カレッジの会合一つとっても、日時から内容まで、考えることがたくさんある。
 総福岡池田華陽会委員長の児島咲さんは言う。「“こんな私でリーダーが務まるのか”という不安の声は、大野城圏に限らず各地で聞きます。一人が全員を引っ張る“代表選手型”でなく、みんなで主体者の自覚を持つために何ができるか、女性部の先輩と共に考えてきました」。そうした背景のもと、大野城圏では総福岡女性部と相談し、2023年からキャップとサブキャップを1年ごとに見直し、交代する試みを始めた。
 初めて“交代制”を経験したのが、初村茜さんだ。女性部の池田華陽会として新出発した時から圏サブキャップを務め、2023年には圏キャップに。看護師として働き、夜勤もある中で仕事に学会活動にと奮闘。そして2024年に再びサブキャップとなった。
 負担が少なくなったかと思いきや、初村さんの思いは少し違った。「やっとメンバーと本音で語り合えてきたと思った時に、交代することになって……」
 モヤモヤした思い、“悔しさ”も全部、御本尊に向かい素直に祈った。すると自分がキャップの時、サブキャップだった藤田百香さんが「なんでもするけん、遠慮せず言って」と声をかけてくれたことを思い出した。“そうだ。今度は、人を支える自分になろう”
 心からそう思えた時、意見を伝えるだけでなく、人の思いをくみ取れる自分に変わった。「視野が広がって、華陽会の活動はもちろん、職場でも、ていねいに後輩の看護師をサポートするようになりました」
 一方で、新たに圏キャップになった藤田さんも、人知れず悩んでいた。

頼る勇気を持とう

 藤田さんは4年前、転勤で大野城市にやって来た。「地域や人のこともあまり知らないのに、キャップなんて大役が務まるのかなって不安でした」。真面目な性格からか「一度受けたら何でも自分でやらなきゃ、と抱え込みがち」。予想通り、間もなく手いっぱいになった。悩み、祈る中で、初村さんと、もう一人のサブキャップである綾部純華さんの顔が浮かんだ。「人前に出るのが得意だったり、メンバーのことをよく知っていたり。私にないものを持つ2人。だからもっと“頼る勇気”を持とうと気持ちが変わりました」
 華陽カレッジの内容を考える際も、2人のアイデアを聞き、形にした。教学や池田先生の指針を学ぶことに加え、アトラクションとして“美容レッスン”をしたり、イラストが得意なメンバーに会合告知のフライヤーを作成してもらったり……みんなの力がかけ合わさることで、華陽カレッジの参加者はこの2年間で約3倍に増えた。
 藤田さん自身は、人の意見や気持ちを聞くことが性に合っているという。養護教諭の経験で育まれた部分も大きいと感じている。
 「保健室にやって来る子どもたちの話を聞きつつ、私から語りかける機会も増えました。“あなたのことを大切に思っているよ”と伝えています」
 “自分に向いていない”と思ったキャップ。今は、やってみて良かったと思う。 もう一人のサブキャップである綾部さんも、同じような感想を抱いていた。 

かっこつけなくていい

 綾部さんは学校での人間関係に悩み、接客業に就いてからもストレスで体調を崩した経験がある。「内気で人付き合いが苦手。心のどこかで、“自分を変えたい”と思っていました」
 以前は会合に参加しても隅の方にいて、終わるとすぐに帰っていたという。
 「人前に立つ初村さん、藤田さんは自分と違うタイプだと思っていました。でも2人と話す中で、葛藤や挑戦を知って。私もかっこつけなくていいやって。サブキャップをする中で、人と関わることが楽しくなりました」
 総県委員長の徳永秀美さんは語る。「大野城圏は、立場にこだわらずみんなで盛り上げる雰囲気がある。池田華陽会の進むべき姿を現していると感じます。一方でそこに至るまでの本人たちの葛藤も分かる……。仕組みづくりとともに、他の地域も含め一人一人の気持ちに寄り添って、丁寧に声をかけたいと思います」
 大野城圏の取り組みにならい、総福岡としてもキャップの交代制を検討している地域もあるという。
 池田先生はつづられた。
 「活動の方法に、“絶対”や“完璧”ということはありません。メリットもあれば、なんらかのデメリットもあるものです。したがって、問題点があったら、皆で知恵を出し合って、それをフォローする方法を考えていくんです。柔軟に、大きな心で、互いに力を合わせていくことが大切です」(小説『新・人間革命』第30巻〈上〉「雌伏」の章)
 大野城圏の3人のリーダーに、“普段どんなことを祈っているか”を尋ねた。すると皆が「互いの幸せ」と。そのことを初めて知った3人は「だからかあ」と笑った。その言葉に、“かつての自分を乗り越えた確信”と、3人が築いた信頼関係を見た気がした。