ユース特集

〈インタビュー〉 地域に「相互信頼」のネットワークの再構築を 2024年5月13日

流通科学大学准教授 新雅史さん

 地域コミュニティの衰退が叫ばれて久しい。その再興に必要なものは何か。(「第三文明」5月号から)
 

コロナ禍で生まれた信頼の経済

 私は、商店街からみる地域社会を研究対象の一つにしています。コロナ禍での興味深い変化の兆しは、感染拡大に伴うにぎわい減少で店舗閉鎖が増加する一方、新規開店の動きが一定数存在した事実です。特に古書や古着など、リユース(再使用・販売)業の出店が若者世代を中心に相次いだのです。

 一般に大手のリユース業は、海外から大量に仕入れ、合理的なチェーン組織を通じて商品をさばきます。ところがコロナ禍の一部地域では、仕入れ先も、販売拠点も、想定する顧客層も、商店街等のエリア単位の地域に設定するケースが目立ったのです。

 こうしたローカルに根ざすリユース業の経営実態について考える時、それが相互の「信頼」に基づいていることに気づかされます。
 

 私には沖縄で古書店を営む知人がいます。ある時、現地で知人に話を聞いていると、時折近隣住民が来店し、「書棚の生前整理をしたい」「遺品整理で大量の蔵書を引き取ってほしい」といった相談が持ち込まれました。

 手間ひまを考えれば、古物商業者に引き取りに来てもらうか、箱詰めして郵送し、銀行振り込みで代金を受領してもよいはずです。あるいは相見積りを取って、経済的な合理性も追求できたでしょう。

 そうしないのは、家族が大切にしていた物への配慮だと思います。誰しも愛着がある物を簡単に手放したくはありません。それでもやむなく手放す際は、故人の思いを理解し、少しでも大切に使ってくれそうな人に譲りたいと思うはずです。

 では、何を基準にして譲ればよいのか。その物差しが「信頼」だと思います。沖縄の事例でも、顔が見えて、普段から交流のある古書店だからこそ声が掛かったのでしょう。
 

相互信頼は社会の根幹をなす

 一方で、「信頼」は不確かで危ういものでもあります。なぜなら、信頼する側が、信頼される側から裏切られる可能性もあるからです。

 リユース業でいえば、もしかしたら店主が不当に値踏みしているかもしれません。それでも相手を信じ、物を譲っているのです。つまり、そこには信頼の連鎖があります。そして、その連鎖が経済を回し、社会を支えているのです。

 その意味で、若い人たちがリユース業に関心を抱き、実際に開店・営業に踏み切るのは非常に興味深く、社会にとっての光明でもあります。

 理由は地域の資産、すなわち、これまで地域の人々が使ってきた物を再び次世代へ継承していく。その結果として、地域の経済・社会が持続可能的な形で循環していく。さらに、そうしたポジティブな有形無形の価値が、ビジネスを通じて実現されていくと感じるためです。
 

 付随していえば、それは高度経済成長期の大量生産・大量廃棄をやめ、人間中心のビジネスを確立する道ともいえるのではないでしょうか。

 その上で、地域の経済が「信頼」によって回っていくならば、地域社会は、その信頼を収める「容器」とも表現できると思います。ここで重要な点は、この容器の堅牢さは、人々の信頼に支えられている点です。つまり、人々がお互いを信頼できなくなった時、地域社会という容器はひび割れてしまうのです。

 その意味では、今回のテーマである孤独・孤立の問題も、実は、相互信頼の欠如に起因しているといえます。私たちは、しばしば孤独・孤立の問題を福祉の領域で考え、行き詰まりがちです。しかし、実は新たな地域経済、具体的には先のリユース業をはじめとする「信頼の経済」や商店街という「場」から、孤独・孤立への課題解決へのアプローチが可能であることにも気づくべきでしょう。

 これらの視点に立って必要な施策を実行すれば、この容器を修復する、あるいは再び頑丈にできると思います。
 

中間集団としての創価学会の役割

 ただし、この容器の再強化、言い換えれば地域社会における相互信頼のネットワークの修復は、個人の努力のみでは難しく、国家と個人をつなぐ中間集団、それも一定規模の組織力を持つ中間集団の活躍が待たれます。

 この点、長年にわたり会員一人一人が自身の商売やボランティアを通じて地域に根を張り、各自の個性と才能で「地域の困り事」を解決し、社会に相互信頼のネットワークを築いてきた創価学会に期待しています。

 創価学会は、2021年に社会憲章を制定したと聞きました。この憲章で特に私が感銘を受け納得したのは、前文にある「我々人間はあらゆる生命と密接な関係にあるとの自覚のもとで結束し、協力すべきである。それには全ての人の貢献が必要であり、また誰一人置き去りにされてはならない」という部分です。
 

 この観点から創価学会の社会活動を再確認すると、政治への関わりもよく理解できます。創価学会が支援する公明党の政策が、「地方発ボトムアップ型」であるのは周知の事実だと思いますが、その代表例に「空き家」問題へのアプローチがあります。

 政府は2030年に居住者のない空き家が、全国で470万戸に達すると推計しています。この問題では、地域の学会員が町の空き家の多さに気づき、公明党の地方議員に実情を伝え、それが国政まで届いた結果、「空き家対策特別措置法」(2015年施行)が実現しました。

 誰一人置き去りにしてはならないための基本の一つが住宅であり、そのことを深いレベルで理解している学会員の皆さんの思いが、国政へと反映された事例だと思います。
 

 私自身、地域の事例研究でしばしば学会員の方に出会うのですが、地域の相互信頼の大切さを熟知されています。それというのも、自分たちの仕事と暮らしの基盤が、地域の中に存在すること。そして、その地域を良くするために、信仰や会員同士の連帯があるのだと、皆さんが理解されているためです。

 私が冒頭に論じた「信頼に基づく地域経済・事業」の重要性も、学会員の皆さんであれば理解してもらえるでしょうし、むしろ、こうした新しい動きを応援してくれる貴重な存在だと思っています。

 地域に生きる人同士が信頼によって結び付き、その結び付きの中で仕事や新しい生き方を生み出していく。さらに、その模索の中から孤独・孤立の問題を捉え直していく。こうした地域社会を通じた取り組みを、学会員の皆さんと共に考えていくことができればと願っています。