健康・介護

〈健康PLUS〉 雨の日の不調 それって気象病かも 2025年8月10日

せたがや内科・神経内科クリニック院長 久手堅司さん

 雨の日に頭痛がする。体がだるい。朝起きられない――そんな不調を感じたことはありませんか。特に、台風が増える今の時季は、不調が増えやすいタイミングです。気圧や気温の変化に伴う不調の原因と対策について、せたがや内科・神経内科クリニック院長の久手堅司さんに聞きました。
 
 
 

【ポイント】

①女性に多い
②持病が悪化しやすい
③規則正しい生活を
 
 
 

梅雨と台風の時季

 気圧や気温、湿度といった気象変化によって起こる心身の不調を「気象病」といいます。特に、梅雨や台風の時季に不調を感じる人が増える傾向があります。
 最も多い症状は頭痛です。雨が降る前や、台風が接近して気圧が下がるタイミングで起こりやすいのが特徴です。その他にも倦怠感、めまい、首や肩の凝り、動悸、低血圧、メンタル不調など、さまざまな症状があります。
 もともとの不調や持病が、気象変化でさらに悪化するケースも少なくありません。
 気象病になりやすいのは、デスクワークが中心で運動習慣が少ない方、スマホやパソコンを長時間使う方です。親が気象病だと、子どもがかかる場合もあるといわれています。
また、10~50代の女性に多く見られます。月経に伴う周期的なホルモン変化や貧血、冷えなども、頭痛やめまいを引き起こします。それに気象変化が加わると、症状が重くなります。
 最近は若い男性・女性にも増えています。コロナ禍以降、家にいる時間が長くなり、スマホやパソコンの使用時間が増えたり、生活リズムが乱れたりしたことが影響していると考えられます。
 ご自身が気象病かどうか、チェックリストで確認してみてください(別掲)。
 
 
 

●チェックリスト●

 ①②のどちらかが該当する人は、気象病の可能性が高いです。③~⑩に該当する数が多いほど、気象病のリスクが高まります。

①雨の日に体調が悪い
②雨が降る前や天候が悪化する前に、なんとなく天気の変化が予測できる
③頭痛持ちである
④首凝り、肩凝りがある
⑤めまいや耳鳴りがある
⑥低血圧気味である
⑦姿勢が悪い、猫背
⑧古傷があり、時折痛む
⑨パソコンやスマホを1日4時間以上使う
⑩乗り物酔いをすることが多い
 
 
 

気圧変化の影響

 気圧の変化に最も反応するのは「耳」です。飛行機に乗って高いところへ行くと、ポテトチップスの袋がパンパンに膨らむのと同じように、気圧が下がると鼓膜の内側にある「内耳」が膨らみます。その結果、耳の閉塞感や痛み、耳鳴り、めまいなどを引き起こすことがあります。
 さらに、内耳には気圧の変化を感知するセンサーがあり、気圧の変化を察知すると、その情報が脳に伝わります。すると、自律神経の一つである交感神経が過剰に働き、痛みを強く感じてしまうことがあります。よく「雨の日は古傷が痛む」といわれるのは、このためです。
 また、低気圧によって血管が拡張し、血圧が下がる人もいます。もともと低血圧の方は症状が悪化し、朝、布団から起き上がるのがつらくなります。他にも、低気圧の影響で脳がむくみ、頭痛が引き起こされるともいわれています。
 気圧だけでなく、急な気温や湿度の変化も不調の原因になります。気温差が7度を超えると、自律神経が乱れて倦怠感を引き起こす「寒暖差疲労」につながるため、昼夜や室内外の気温差が大きい夏場は特に注意が必要です。
 「気象病」は正式な病名ではありません。しかし、当院では、2016年から「気象病・天気病外来」を設け、体内の水分バランスを整える漢方薬(五苓散)の処方を中心に治療を行っています(保険診療)。毎日、新規の患者さんが来院されており、気象病に悩む方が多いことを実感しています。
 症状がつらい場合は、一度、かかりつけ医に相談してほしいと思います。それでも改善しない場合は、専門外来の受診を検討してみてください。
 
 
 

気の持ちよう?

 気象病は、検査しても何の異常もないことが多く、「気の持ちよう」と誤解されがちですが、決してそうではありません。気圧の変化を知らせてくれる天気予報や、体調不良が起こりそうな時間帯の確認ができる気象病対策アプリ「頭痛―る」などを活用して、事前に体調が悪くなるタイミングを予測することが対策の第一歩です。
 あらかじめ鎮痛剤を準備する、大事な予定を避ける、睡眠時間を確保するといった対策を取りましょう。ここでは、不調を改善するマッサージを紹介します(別掲)。
 気象病の改善には生活習慣を見直すことが大切です。日光を浴びる習慣を付け、規則正しい生活を意識しましょう。適度な運動やバランスの良い食生活を心がけてください。
 入浴も効果的です。38~41度程度のお湯に首まで漬かることで血流が改善し、睡眠の質が向上します。
 長時間のスマホやパソコンの使用は、首の骨にあるべきカーブが失われる「ストレートネック」を招き、首・肩凝りだけでなく、気象病のリスクも高まります。パソコンを使う際は30分に1回は休憩を取り、スマホを見る際はできるだけ下を向き過ぎないように気を付けましょう。
 気象病は、うまく付き合っていくことができる不調です。少しずつ改善しながら、元気に自分らしく過ごせるようになることを願っています。
 
 
 

※「頭痛―る」はこちらから
 
 
 

《簡単! マッサージ》

 頭部や耳周りが凝っていると、脳の血行不良を引き起こし、さまざまな不調の原因に。不調が出そうなタイミングや痛みを感じた時などに行ってください。

<耳>

 手のひらで耳を温めながら行うと効果的。

 ① 耳たぶの少し上を持ち、10秒間、水平に伸ばす

 ② 10秒間、耳を斜めに引っ張る(逆方向も同様に)

 ③ 耳たぶをゆっくり大きく回す(前に5回、後ろに5回)

<首>

 ① タオルの両端を持ち、後頭部から耳の下に当て、斜め上に引っ張る。首はタオルと押し合うようにして30秒キープ

 ② 首とタオルを斜め下へ向け、タオルを引っ張る。この時も首がタオルに押し負けないようにして、30秒キープする

 くでけん・つかさ せたがや内科・神経内科クリニック院長。医学博士。気圧予報・体調管理アプリ「頭痛―る」監修医師。自律神経失調症外来などの特殊外来を立ち上げる他、「気象病・天気病外来」の受診者は5000人を超え、患者目線で行う診察がSNSやメディアで話題を呼んでいる。著書に『気象病ハンドブック』(誠文堂新光社)など。

 
 
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 dokusha@seikyo-np.jp

 ※イメージ写真はPIXTA