近年、「ロボット支援手術」が広がっています。ロボットを3機種4台備える鳥取大学医学部附属病院で、ロボット支援手術を統括する低侵襲外科センターの藤原和典センター長(耳鼻咽喉・頭頸部外科学分野教授)にインタビューしました。
近年、「ロボット支援手術」が広がっています。ロボットを3機種4台備える鳥取大学医学部附属病院で、ロボット支援手術を統括する低侵襲外科センターの藤原和典センター長(耳鼻咽喉・頭頸部外科学分野教授)にインタビューしました。
――ロボット支援手術とは?
医師(術者)が操縦席に座り、ロボットのアーム(腕)を動かして執刀する手術のことです。
患者の体に1センチほどの穴を複数開け、そこにアームを挿入します。アームは4本で、先端に3本の鉗子(はさみに似た形の器具)と内視鏡カメラが取り付けられています。その鉗子を、ゲームで使うような二つのスティックで操作します。
――ロボット支援手術とは?
医師(術者)が操縦席に座り、ロボットのアーム(腕)を動かして執刀する手術のことです。
患者の体に1センチほどの穴を複数開け、そこにアームを挿入します。アームは4本で、先端に3本の鉗子(はさみに似た形の器具)と内視鏡カメラが取り付けられています。その鉗子を、ゲームで使うような二つのスティックで操作します。
進化した器具
ミリ単位で操作
進化した器具
ミリ単位で操作
――どういうメリットがありますか。
従来の開腹手術や内視鏡手術に使う鉗子は、直線方向にしか動かせないものがほとんどでした。しかし、ロボットの鉗子は、屈曲や回旋ができます。アームも多関節で、指先のような柔軟な動きもできるため、「切る」「焼く」「縫い付ける」などを行える範囲がとても広がりました。
また、アームは手のような“震え”がなく、「手ぶれ抑制機能」もあるため、操作性が向上しました。ミリ単位での操作ができ、これまで手術が困難だった狭い部位でも、安全な手術が可能になりました。
――どういうメリットがありますか。
従来の開腹手術や内視鏡手術に使う鉗子は、直線方向にしか動かせないものがほとんどでした。しかし、ロボットの鉗子は、屈曲や回旋ができます。アームも多関節で、指先のような柔軟な動きもできるため、「切る」「焼く」「縫い付ける」などを行える範囲がとても広がりました。
また、アームは手のような“震え”がなく、「手ぶれ抑制機能」もあるため、操作性が向上しました。ミリ単位での操作ができ、これまで手術が困難だった狭い部位でも、安全な手術が可能になりました。
画像は10倍に拡大
立体的でクリアに
画像は10倍に拡大
立体的でクリアに
さらに、見え方(術野)も圧倒的に良くなりました。
――見え方?
アームは震えがないため、患部などを安定して映せます。それを約10倍に拡大でき、3Dの高解像度モニターで立体的に見られます。“奥行き”が見えることは、手術の大きな手助けになります。
カメラを術者自身が操作できることも、手術の成功や時間の短縮につながっています。
さらに、見え方(術野)も圧倒的に良くなりました。
――見え方?
アームは震えがないため、患部などを安定して映せます。それを約10倍に拡大でき、3Dの高解像度モニターで立体的に見られます。“奥行き”が見えることは、手術の大きな手助けになります。
カメラを術者自身が操作できることも、手術の成功や時間の短縮につながっています。
健康な組織の
損傷を防ぐ
健康な組織の
損傷を防ぐ
――カメラの操作?
従来の手術では、カメラを操作するのは助手の役割です。術者が何を、どのように見たいのかという意図を、助手が早く正確に理解できるように息を合わせることが不可欠でした。
ロボット手術では、術者がフットペダルでカメラを操作します。自分が見たい部位を、見たい角度や倍率、タイミングで確認できます。
鉗子の動きや見え方が格段に良くなった分、患部周辺などの健康な神経や筋肉などを傷つけるリスクを下げ、かつ短時間で行えるようになりました。
――カメラの操作?
従来の手術では、カメラを操作するのは助手の役割です。術者が何を、どのように見たいのかという意図を、助手が早く正確に理解できるように息を合わせることが不可欠でした。
ロボット手術では、術者がフットペダルでカメラを操作します。自分が見たい部位を、見たい角度や倍率、タイミングで確認できます。
鉗子の動きや見え方が格段に良くなった分、患部周辺などの健康な神経や筋肉などを傷つけるリスクを下げ、かつ短時間で行えるようになりました。
出血が少ないなど
リスク全般が減少
出血が少ないなど
リスク全般が減少
そもそも開腹手術と比べて傷(傷痕)が小さく、出血量が少ない。加えて、他の健康な組織の損傷を防げるケースが増えたため、「術後の痛み」「入院期間」、手術が原因で起きる神経障害などの「合併症や感染症のリスク」の減少につながります。
不必要な筋肉を切らないことで、泌尿器科の手術なら排尿・性機能、耳鼻咽喉科なら嚥下機能など、生活に必要な機能も残しやすくなりました。精度の高い技術を使うことが、“患者の体の負担がより少ない手術”につながるのです。
ロボット手術では、「術者の寿命が延びる」ともいわれます。
――術者の寿命?
医師が操縦席に座って行う手術なので、体力の消耗が減りました。視覚の衰えも補えますし、高齢になっても術者として手術を行いやすくなりました。
そもそも開腹手術と比べて傷(傷痕)が小さく、出血量が少ない。加えて、他の健康な組織の損傷を防げるケースが増えたため、「術後の痛み」「入院期間」、手術が原因で起きる神経障害などの「合併症や感染症のリスク」の減少につながります。
不必要な筋肉を切らないことで、泌尿器科の手術なら排尿・性機能、耳鼻咽喉科なら嚥下機能など、生活に必要な機能も残しやすくなりました。精度の高い技術を使うことが、“患者の体の負担がより少ない手術”につながるのです。
ロボット手術では、「術者の寿命が延びる」ともいわれます。
――術者の寿命?
医師が操縦席に座って行う手術なので、体力の消耗が減りました。視覚の衰えも補えますし、高齢になっても術者として手術を行いやすくなりました。
人間と異なり
“疲れ”がない
人間と異なり
“疲れ”がない
――デメリットは?
うーん? 何があるでしょうかね……。
――悩まれるほど、デメリットが少ないのですか。
多くの手術で合併症率などが改善するといわれています。正直、手術におけるデメリットは、カメラに映っていない部位の損傷に、注意が必要な点くらいでしょうか。
環境面でいえば、保険適用された疾患や手術の種類がまだ少ないことが挙げられます。
それでも初めて保険適用された2012年から急速に普及が進みました。現在では「泌尿器科」「心臓血管外科」「消化器外科」「婦人科」「呼吸器外科」「耳鼻咽喉科(頭頸部外科)」で、がんの切除など多くの手術に、ロボット手術が保険適用されました。
手術できる医療施設も、私の専門である頭頸部外科だけで国内50以上に増えました。私たちの科での保険適用はごく最近の22年からですから、他の診療科では、かなりの施設数に上ります。
なお、機器の不調や患部などに予期せぬ事態が発生する可能性は、ゼロとは言い切れません。その際は、外切開などの手術に切り替えられるような態勢を取っています。
――デメリットは?
うーん? 何があるでしょうかね……。
――悩まれるほど、デメリットが少ないのですか。
多くの手術で合併症率などが改善するといわれています。正直、手術におけるデメリットは、カメラに映っていない部位の損傷に、注意が必要な点くらいでしょうか。
環境面でいえば、保険適用された疾患や手術の種類がまだ少ないことが挙げられます。
それでも初めて保険適用された2012年から急速に普及が進みました。現在では「泌尿器科」「心臓血管外科」「消化器外科」「婦人科」「呼吸器外科」「耳鼻咽喉科(頭頸部外科)」で、がんの切除など多くの手術に、ロボット手術が保険適用されました。
手術できる医療施設も、私の専門である頭頸部外科だけで国内50以上に増えました。私たちの科での保険適用はごく最近の22年からですから、他の診療科では、かなりの施設数に上ります。
なお、機器の不調や患部などに予期せぬ事態が発生する可能性は、ゼロとは言い切れません。その際は、外切開などの手術に切り替えられるような態勢を取っています。
仮想空間で
技術を磨ける
仮想空間で
技術を磨ける
――操作の難易度は?
手術の種類で難易度は変わりますので、一概には言えません。それでも、シミュレーターを使い、仮想空間で技術を磨けるため、トレーニングしやすい側面はあります。
なお、ロボットはメーカーによって特徴や得意分野、バージョンアップのタイミングなどが異なります。
鳥取大学は3機種を備えた日本で数少ない施設の一つですが、それぞれに慣れるまでは、一定の時間がかかります。
――鳥取大学がロボットを導入したのは、いつ頃からなのでしょうか。
導入したのは2010年です。まだ保険適用前でしたが、“患者により良い先進医療を提供する”という鳥取大学病院の方針で、いち早く導入しました。
ロボット購入には億単位のお金がかかることもあり、全国的にも先例がほぼありませんでしたが、現在では“ロボット手術といえば鳥取大学”といわれるようになりました。医療関係者がよく見学に来られます。
――操作の難易度は?
手術の種類で難易度は変わりますので、一概には言えません。それでも、シミュレーターを使い、仮想空間で技術を磨けるため、トレーニングしやすい側面はあります。
なお、ロボットはメーカーによって特徴や得意分野、バージョンアップのタイミングなどが異なります。
鳥取大学は3機種を備えた日本で数少ない施設の一つですが、それぞれに慣れるまでは、一定の時間がかかります。
――鳥取大学がロボットを導入したのは、いつ頃からなのでしょうか。
導入したのは2010年です。まだ保険適用前でしたが、“患者により良い先進医療を提供する”という鳥取大学病院の方針で、いち早く導入しました。
ロボット購入には億単位のお金がかかることもあり、全国的にも先例がほぼありませんでしたが、現在では“ロボット手術といえば鳥取大学”といわれるようになりました。医療関係者がよく見学に来られます。
精度が高く
再現しやすい
精度が高く
再現しやすい
私も手術の指導医(プロクター)やトレーナーとして、各地に出向くことが多くなりました。
再現性の高いロボット手術は、普及した分、多くの医師が、精度の高い手術を行えるようになります。その恩恵を、日本中の患者に享受してほしいですね。
私も手術の指導医(プロクター)やトレーナーとして、各地に出向くことが多くなりました。
再現性の高いロボット手術は、普及した分、多くの医師が、精度の高い手術を行えるようになります。その恩恵を、日本中の患者に享受してほしいですね。
〈取材こぼれ話〉
“垣根”を越えて
〈取材こぼれ話〉
“垣根”を越えて
病院が遊び場に? 鳥取大学病院は昨年から、市民に病院を身近に感じてもらおうと、「とりだいフェス」で、春と秋に1日ずつ外来棟などを開放した。
ふだん患者が行き交う場所には足湯、ズワイガニの炊き出しやカキなどが食べられるキッチンカーが。イベントも、コンサートや有名人のトークショー、白衣と手術用ガウンが着られる「とりザニア」、謎解きしつつ検査室やがんセンター、ドクターカーなどを探検する「メディカル・ミステリー・ツアー」と盛りだくさん。特に、3種の手術ロボットを見学・撮影できるツアーは、人が殺到する人気だったそう。フェスの実行委員長として尽力した藤原先生。「“本物の医療に触れてほしい”との思いで開きましたが、予想以上の反響でした」「病院を自由に動き回れる機会など、そうはないですよね」とほほ笑む。これまで開いた市民講座などには多くて数百人だったが、フェスには1日約4千人が訪れたという。
◇
鳥取大学は新たなイノベーションを生み出そうと、さまざまな垣根をなくすことを模索している。フェスも、市民と病院との垣根を低くする試みだ。
ロボット手術を統括する低侵襲外科センターも、診療科の垣根を越えて立ち上げられた。ロボットの手術枠も、取り合いでなく“譲り合い”で調整できるシステムだという。(聡)
病院が遊び場に? 鳥取大学病院は昨年から、市民に病院を身近に感じてもらおうと、「とりだいフェス」で、春と秋に1日ずつ外来棟などを開放した。
ふだん患者が行き交う場所には足湯、ズワイガニの炊き出しやカキなどが食べられるキッチンカーが。イベントも、コンサートや有名人のトークショー、白衣と手術用ガウンが着られる「とりザニア」、謎解きしつつ検査室やがんセンター、ドクターカーなどを探検する「メディカル・ミステリー・ツアー」と盛りだくさん。特に、3種の手術ロボットを見学・撮影できるツアーは、人が殺到する人気だったそう。フェスの実行委員長として尽力した藤原先生。「“本物の医療に触れてほしい”との思いで開きましたが、予想以上の反響でした」「病院を自由に動き回れる機会など、そうはないですよね」とほほ笑む。これまで開いた市民講座などには多くて数百人だったが、フェスには1日約4千人が訪れたという。
◇
鳥取大学は新たなイノベーションを生み出そうと、さまざまな垣根をなくすことを模索している。フェスも、市民と病院との垣根を低くする試みだ。
ロボット手術を統括する低侵襲外科センターも、診療科の垣根を越えて立ち上げられた。ロボットの手術枠も、取り合いでなく“譲り合い”で調整できるシステムだという。(聡)