ユース特集

〈インタビュー〉 真の「公明党らしさ」を考える 東北大学大学院准教授 河村和徳(「第三文明」2月号から) 2025年2月10日

 
選挙結果が示唆するもの

 先の衆院選は、公明党にとって大変厳しい結果となりました。すでに党やメディアでもさまざまな総括がなされていますが、本誌編集部の求めに応じ、私なりに思う点をお話ししたいと思います。

 まず指摘したいのは、解散時期の妥当性です。能登半島地震からの復興がままならない中、被災地では投票所の確保や投票所入場整理券の発送に苦慮したとの声を聞きます。もちろん、衆議院の解散は事実上首相の専権事項となっており、石破茂首相の決断次第だったわけですが、結果として「政府・与党は被災地を置き去りにしているのではないか」との疑念を有権者に抱かせた可能性があります。

 また党の立ち位置も難しいものがありました。立憲民主党に野田佳彦代表、自民党に石破総裁が誕生したことで、どちらも「中道寄り」の政策が掲げられました。両党が真ん中に寄ったことで、従来中道の立場で支持を得てきた公明党の政策や主張が埋没してしまいました。

 その傍らで中道から遠い左右両派の票は、れいわ新選組や日本保守党に流れ、浮動票は「お財布」(暮らし)の話を鮮明に打ち出した国民民主党へと流れました。この「お財布」の話は本来公明党が強調してきた分野なだけに、選挙戦略に課題があったことを感じさせます。

 さらに今回、与野党を問わず組織政党の苦戦が目立ちました。実際に相手のもとへ足を運び、政治について語り合う中で生まれる「納得」と「共感」は、組織政党にとって大事な支持獲得の源泉だったはずです。それが高齢化や長きにわたるコロナ禍の影響で、対面コミュニケーションが減っていることなどから、十分な支持拡大が図れなかったと考えられます。

 もう一つ言及しておきたいのは、自民党との距離感です。自公は旧民主党政権下での協力体制を含めて、四半世紀にわたり関係を維持していますが、ともすれば最近、公明党が自民党と「同一視」されていると思う部分が多々あります。連立を組む以上「一体感」は大事ですが、それと「同一」とは意味合いが異なります。

 自民党が非公認にした、いわゆる“裏金議員”への推薦に対する多くの市民の反応が象徴的です。今回の衆院選では政治改革が争点となり、公明党も「清潔な政治は党是である」と訴えてきました。それがいかなる理由であれ裏金議員への推薦を決めたことで、「やはり公明党は自民党と一緒なのだ」との印象を抱かせたと感じます。

 自公連立における公明党の役割について、政権のアクセル・ブレーキ役だとする比喩があります。それは自民党があまり乗り気でない政策にはアクセルを踏み、自民党が行き過ぎる政策にはブレーキを踏む、まさに自民党との「違い」を象徴する比喩だったはずです。これが最近、有権者はもとより、支持者にも見えにくくなっているのではないでしょうか。

 その意味では先に述べたことも踏まえて、「公明党らしさ」を発揮できず、有権者にも「公明党らしくない」と思われたことが、衆院選の勝敗を左右した一つの要因ではないかと考えます。
 

ナラティブな政治活動こそ

 公明党は衆院選によって勢力を減らしましたが、それでも政治のキャスチングボートを握る立場にいると私は考えます。自公が少数与党となったことで国民民主など野党の協力が不可欠となっていますが、野党が先鋭化して政権運営が暗礁に乗り上げた時、あるいは自民党が譲れない課題が生じた時、自民・野党が頼れるのは公明党だからです。

 また、公明党自身がいまだ失っていない強みもあります。例えば全国に広範な支持基盤を保持し、多様な「声」を聴けること。また時局講演会や街頭演説に、多数の人を集める力を持っていることです。

 今こそこうした持ち味に自信を持ち、「大衆とともに」との結党の原点に立ち返ってほしい。そのためにも党の国会議員、なかんずく、与党時代しか知らない中堅・若手が率先して最前線へと分け入り、地方議員・支持者・有権者とひざ詰めの対話に取り組むことが重要だと考えます。

 そこでポイントになるのが「ナラティブ」(物語)です。国会議員が自らの来し方や政治への志を率直な言葉で語り、支持者・有権者と触れ合いを深める。そうして一体感を育むことで、主体的に「応援しよう」と思ってもらう。いわば「納得」と「共感」を取り戻すことが急務であると考えます。

 同時に、デジタル化時代を踏まえ、地方議員や党員・支持者の本音を集める仕組みの再構築も必要となるでしょう。一例を挙げれば、党の意見収集とフィードバック(応答)プロセスの改善です。匿名性・機密性を保ちながら膨大な声(情報)を集め、集めたビッグデータをAI(人工知能)に分析させ、それを集約・整理して個別具体的な政策へとつなげる。そうして現場発の政策実現の成果を迅速にフィードバックするのです。
 

還暦となる結党60年 今こそ原点に

 2025年は参議院選挙と東京都議会議員選挙が実施されます。かつてない政治不信の中で、日本と首都の未来を決めることになります。

 このような政治情勢下で公明党に期待されるのは、真の「公明党らしさ」――すなわち「公明正大な政治」の旗を前面に掲げ、「公正な社会」の実現を訴えることだと考えます。

 国政では、政治資金の透明性確保による政治の信頼回復が最重要課題です。この問題では「企業団体献金を認めるか否か」で与野党の隔たりが埋まらない状況ですが、真に問うべきは、お金が適切かつ公正に管理されることを可視化することです。

 国会では、政治資金の透明化に向けて強力な調査権を持つ第三者機関の設置が議論されていますが、同機関が実効力のある組織になるには、その活動を支える先端技術の導入は不可欠です。例えば大量の領収書を人力のみでチェックするのは不可能です。そこで領収書を電子化してAIに監査させるとともに、領収書の情報公開徹底も図れば、国民の信頼回復の一助になるはずです。

 また地方政治では、きめ細かな行政サービスの効率化や高齢者・障害者に優しいデジタル化が焦点となります。例えば、全国の自治体では少子高齢化時代への対応からDXが急速に進み、地域住民もデジタル化への対応が求められています。しかし、急激なデジタル化に対応できず疎外感を深め不便を強いられる状況も生じています。

 本来、行政の効率化への負担は自治体が引き受けるものであって、住民が強いられるものではありません。何のために、誰のために行政を効率化するのか、目的を忘れてはならないのです。

 住民のための効率化、すなわちデジタル化と地方社会の持続可能性を示す象徴的な取り組みとして参考になるのが、全国初の「オンライン投票立ち会い」を目指す鳥取県の取り組みです。県民人口が全国最小で、地域公共交通も先細る鳥取県では、投票立会人確保による投票所の維持が切実な課題です。

 そこで県は、遠方の投票所にカメラを設置し、立会人が遠隔・随時に投票の様子を監視できるようにしました。こうした鳥取県の取り組みは、行政効率化と住民サービス向上の両立を目指した好例として示唆に富みます。

 公明党は2024年に結党60年を迎えました。人間でいえば還暦、原点に返る年です。結党の精神である「大衆とともに」に掲げられた「大衆」とは誰なのか。それは「目の前にいるあなただ」と伝わる政治を進めてくれることを期待しています。