企画・連載

〈トーク2024〉 北海道ボールパークFビレッジ建設の中心者・前沢賢さん 2024年8月10日

(ゲスト)株式会社ファイターズ スポーツ&エンターテイメント
常務取締役事業統轄本部長 前沢賢さん
失敗しても多くのトライを
 
北海道青年部長 渡辺剛さん
まだ見ぬ世界を青年の手で

 
 「世界がまだ見ぬボールパーク」――昨年3月、北広島市に誕生した「北海道ボールパークFビレッジ(以下、Fビレッジ)」。今、このボールパークを中心に、新たな街が生まれつつある。
 新球場の建設は無理だ、と言われる中、幾多の困難を乗り越え、構想から建設までを担ったプロジェクトの中心者が、「株式会社ファイターズ スポーツ&エンターテイメント」の前沢賢さんだ。
 今回、北海道青年部長の渡辺剛さんが対談した。
 

 
■今すべきこと

 渡辺 Fビレッジの来場者が6月に500万人を突破しましたね。
 先日、私の東京の友人も家族で満喫したようで、「今度は試合のある日に来たい」と喜んでいました。彼は元々、野球に興味がなかったのですが(笑)。

 前沢 うれしいですね。「ここに来ると小さい子どもも落ち着ける」とか、「おじいちゃんやおばあちゃんが元気をもらった」とか、そんな声も寄せられます。
 あらゆる世代が喜びを実感し、幸せを感じられる空間となることを目指しています。

 渡辺 新球場「エスコンフィールドHOKKAIDO」は、入場する時から、わくわくします。
 メインゲートを入り、広々としたコンコースを進んでいくと、美しい芝生のグラウンドがパノラマのように目の前に開けてくる。
 思わず駆け出したくなります。

 前沢 来てくれた方の、楽しそうに喜んでいる姿がダイレクトに見える。やりがいを感じます。

 渡辺 夢のような球場建設を実現された前沢さんは、青年が夢をかなえていくには、何が必要だとお考えですか。

 前沢 私はボールパークの建設を「夢」とは考えていませんでした。
 夢という言葉にはどこか、かなわないもの、手が届かないものという響きがあるので。私はこの事業を「やるべきこと」と思っていました。
 若い人たちは、物事の本質を見定める目を持つことが重要だと思います。

 渡辺 現実をきちんと見据えて、「今、何をすべきか」をはっきりさせることですね。
 前沢さん自身、ボールパークの完成から逆算して、建設地決定のタイミングなど、大事なポイントに期限を定めて進めてこられました。

 前沢 「やるべきこと」に明確な日付を決める。そして、その「やるべきこと」を、自分の中で細部まで描くことが大事です。

 渡辺 前沢さんが新球場の建設を最初に提案したのは、2010年、35歳のころですね。ところが、その提案は全く受け入れられなかった。

 前沢 その通りです。しかし、もし、あの時点で「やっていい」と言われていたら、できていなかったかもしれません。そのくらい、人として未熟だったと思います。
 失敗や挫折を含め、いろいろな経験をして、物事の見方や考え方を磨くことができました。2015年に改めてプロジェクトを始めたからこそ、実現できたと思います。

 
■目標は高く

 渡辺 Fビレッジは来るたびに変化しています。
 観客席が増えたり、ウオーターサーバーが設置されたり、ペットと一緒に観戦できるスペースが新設されたり……。

 前沢 開業以降も、少しでも設備や環境をよくするため、SNSなどを活用して皆さんの声を聞き、日々進化させています。

 渡辺 それにしても、対応が非常に早いですね。

 前沢 必要な時は私と担当者と、数人で意思決定します。
 スピード感は重要です。たとえパーフェクトでなくても、早い方がいいことも多い。
 例えば「10トライして10成功」すれば達成率は100%で、「100トライして50成功」すれば、達成率は50%です。しかし、率ではなく、実際に「10」より「50」の成果を出した方が価値がある。
 私は、そう思っています。

 渡辺 私たち青年にとって大事な視点です。完全を期する余り、慎重になりすぎてはいけない。何もしないよりは、とにかくトライしてみる。たとえ失敗しても、その分、成長できるし、前進できる。

 前沢 自分で限界をつくってはいけない。どうしても人は安定を求めるところがあって、トライすることに臆病になりがちです。
 でも、人にも、事業にも、急激に成長するタイミングというのはある。ならば、目標はできるだけ高い方がいい。
 「現実という足元を見て登る」ことと「ゆっくり登る」ことは違うんです。

 
■未来への投資

 渡辺 小学生以下のエスコンフィールドへの入場が無料だったり、子ども向けの施設が充実していたり、Fビレッジは、子ども目線に立ったアイデアが多いと感じました。

 前沢 子どもたち、そして若者たちが心から楽しめる場所にしたいという思いは、とても強いです。
 球場の設計一つとっても、グラウンドを子どもが間近に感じられるようになど、細かく配慮しました。
 Fビレッジを通し、子どもたちにいろんな選択肢を提供することは、子どもたちへの投資だと思っています。
 未来に向かって、さらによりよく発展していくことを願っています。今、自分は50歳で、その未来には立ち会えないかもしれませんが、後を継ぐ優秀な若い世代に期待しています。

 渡辺 大きいロマンですね。未来のために、次の世代をいかに育むか。今、最も重要な課題です。
 創価学会では小学・中学・高校生からなる「未来部」の育成に力を注いでいます。
 私たち北海道創価学会では今年、会館を開放して、子どもがSDGsを楽しく学べる場を提供しました。子どもたちからも、「また来たい」「地球の課題が分かった」と好評でした。

 前沢 街の中に子どもの声がなくなると、その街は廃れていきます。反対に、子どもたちの声であふれているところには、未来がある。Fビレッジが目指しているのも、そんな空間です。
 コストや効率というのは重要な指標ですが、子どもたちを育むことは、もっと大事なことです。子どもたちに、これからを託していくしかないわけですから。
 子どもへの投資は、未来への投資であり、「やるべきこと」なのです。

 
〈プロフィル〉

 まえざわ・けん 1974年、東京都生まれ。北海道日本ハムファイターズ事業推進部長、パシフィックリーグマーケティング執行役員、横浜DeNAベイスターズ取締役事業本部長、NPB侍ジャパン事業戦略担当などを経て、2015年に再びファイターズへ。現在はファイターズ スポーツ&エンターテイメント常務取締役事業統轄本部長。球団取締役も。

 わたなべ・たけし 1984年、北海道小樽市生まれ。創価大学卒。北海道学生部長、同男子部書記長などを歴任。小・中学と野球に打ち込む。ポジションは内野手と投手。温厚な人柄だが、芯の通った強さがある。本年9月に「わたしの誓いが世界を照らす」とのテーマで開催される「青年三代城総会」の実行委員長。