企画・連載

【創価学園NAVI】 大学で何を学びたいんだろう?――興味を広げ、自身の可能性を開く、関西創価高校のUPクラス(高大連携講座) 2022年12月24日

専門分野の講師を招き、探究する学びを体験

 関西創価高校(大阪・交野市)では希望者を対象とした課外授業として月に1度、大学や国際機関などから講師を招いて行われる特別授業「UPクラス」を開講している。授業を受ける生徒たちは「大学で何を学びたいのか」「どんな進路を選びたいのか」など、将来を見つめるきっかけを得ているという。その特別授業の様子を取材した。

大学の授業を体験⁉

 今月19日の放課後、イギリスのマンチェスター大学と大阪・交野市の関西創価高校をオンラインで結び、特別授業「UPクラス」が開かれた。
 
 「さあ、生徒の皆さん、今から6枚のカードを見せます。
 
 この中から1枚だけ強く念じてください。その念じた1枚のカードを私がこの中から抜きます!
 
 リモートだから、かなり難しいと思いますが……それではいきます」
 
 生徒たちは、「あれ、なんで?」「当たってる!」と驚きの表情。
 
 今回の授業の担当は、イギリスのマンチェスター大学で講師を務める大野正勝さん。
 
 講義の冒頭、心理学に基づき、知覚の限界を利用したマジックを披露したのだ。
 
 そして、笑顔で語り掛ける。
 
 「皆さんは、心理学というと、どんなことを思い浮かべますか」
 
 心理テスト、カウンセラー、バイアス、だまし絵……生徒たちから続々と意見が挙がる。
 
 大野さんは続けて語った。
 
 「心理学の世界は、学問としての心理学と、心理テストなどのポピュラー心理学が入り交じっています。今回は、学問としての心理学とは何かを学び、私の専門の組織心理学を通して、将来、生き生きと働くために必要なことを考えていきましょう」

 関西創価高校では、「UPクラス〈University Partnership Class=高大(高校・大学)連携講座〉」と題する特別授業を月1回、放課後に開いている。
 
 毎回、大学や国際機関などから講師を招き、希望する生徒に対して、専門分野の講義を行うもの。
 
 UPクラスの講師の人選や依頼を行うのは、同校の世界市民教育推進室。その室長を務める福田秀雄教諭はUPクラスの魅力を強調する。
 
 「高校と大学では学びの性質が異なります。高校は、学力の基礎を育むため、主に正解を導くための学びですが、大学では“答えの出ていない課題”に挑み、どうすれば解決に導けるのかを探究します。いち早く大学での学びを知ることによって、探究する力が鍛えられ、生徒たちの可能性も広がっていきます」
 
 また同室の田中絢也教諭は語る。
 
 「UPクラスで、さまざまな専門分野の話を聞くことによって、自分自身が何に興味があるのかを理解するきっかけにもなります。それは、将来の進路選択をする際の大きな強みになっていくでしょう」

「もっと吸収したい!」

 今年、入学した小林良美さん(1年)は世界の諸課題に興味を持ち、積極的にUPクラスで学んできた。
 
 「私は授業を通して、さまざまな課題が複雑に絡み合っていることを学び、一方向だけから物事を見ずに、多角的な視点を持つことの大切さを知りました」
 
 また彼女は、UPクラスの魅力として、他学年の友と一緒に受講できることを挙げた。
 
 「生徒同士のディスカッションや講師との質疑応答の際、同じ授業を受けているのにもかかわらず、上級生の先輩たちは、私には思いつかない意見を持っていたり、講師の方が感嘆する質問をしたりと、触発を受けています。先輩たちに近づきたいと、一層、学ぶ意欲が湧きます!」
 
 ◇ ◆ ◇ 
 
 UPクラスには“常連”の生徒も。2年の中森大河さんは、その一人。受講のきっかけは軽い気持ちだった。
 
 「最初は、1回だけ受けて、おもしろくなかったら、次回からやめようと思っていました。
 
 それが東京大学大学院の藤井大輔特任講師が担当した統計学、経済学の入門講座の内容に引き込まれ、UPクラスの虜になりました(笑い)。
 
 UPクラスの醍醐味は、どんな専門的な内容でも高校生にわかりやすく、かみ砕いて教えてくれることです!」
 
 彼は受講を続けることで、興味の幅が広がったという。
 
 読書好きの中森さんは、学校の万葉図書館によく通う。以前は推理小説ばかり読んでいたが、近寄ることもしなかった専門書のコーナーに足を運び、講義に関する本を借りるようになった。
 
 また他にも変化があった。それは、講師に必ず質問をするようになったことである。
 
 「受講すればするほど、講師の方々からもっとたくさんのことを吸収したいと思うようになりました。だから、たとえ的を外れた質問になってしまったとしても、勇気を出して、手を挙げています」

 10月のUPクラスでは、創価大学の西浦昭雄副学長が、「アフリカの現状を踏まえた持続可能な開発を考える」をテーマに講義した。
 
 西浦副学長は、一例として、先進国の企業による発展途上国への援助が、その国の雇用を奪い、古くから続く産業に悪影響を与えた事例を紹介。持続可能な開発のために、複数の立場から考えることの重要性を訴えた。
 
 質疑応答の時間。中森さんは真っ先に手を挙げて聞いた。
 
 「善意でやったことが、悪影響を与えてしまうことがないように、どこまで細分化して物事を考えていくことが必要なのでしょうか」
 
 西浦副学長は「とても素晴らしい質問です。正直に言うと、僕は、今もその答えを探し、何十年もずっと研究をしている最中なんです」と。
 
 誠実な回答に感銘を受けるとともに、学問を探究する姿勢を学んだという。
 
 彼はUPクラスがきっかけで、将来への考え方も変わっていった。
 
 「これまでぼんやり科学の道に進みたいと思っていましたが、今は、どんな進路を歩むにしても、講師の方々のように、日本だけでなく、世界の課題解決に貢献できるような人になりたいと心から思っています」

勉学に励む目的を実感

 UPクラスの学びがきっかけで、進路を定めた生徒も少なくない。
 
 現在、創価大学4年の仲桜良さんは関西創価高校時代、UPクラスで学んだ経済学や統計学に魅了されて、経済学部に進学した。
 
 創大では、学部横断の「グローバル・シティズンシップ・プログラム(GCP)」と、世界基準の経済学を学べる学部プログラム「HOPE」の両方を受講。さらに昨年8月から本年5月までアメリカ・デラウェア大学に交換留学も果たし、データサイエンスを専門に学んできた。
 
 仲さんは「大学で徹底して勉学に励もうと思えたのは、高校時代に“学ぶ目的”を実感することができたからです」と振り返る。
 
 彼女は高校時代、UPクラスの授業を通して、貧困や飢餓などの諸課題が人々を苦しめている様子を知った。そして、いかに解決困難な状況であっても探究と行動をやめない姿勢の重要性を講師から教わった。一方で、自分自身はそこまでの信念を持って難しい課題に向き合えるのかと、不安に感じたこともあった。
 
 それでも“苦しむ人たちの存在を知ったからには、そうした人が一人でも少なくなるように、学び続けていこう”との使命感にも似た思いが込み上げてきたという。
 
 仲さんはそれ以来、勉強に音を上げそうになるたびに、“何のために学ぶのか”を思い起こし、努力を続けてきた。
 
 将来、学園、創大で培った豊かな国際性を生かして、地球規模の課題解決に取り組みたいと意気込む。
 
 ◇ ◆ ◇ 
 
 19日のUPクラスの授業終盤。大野さんは著名な心理学者であり、自身の指導教官であった恩師ミハリー・チクセントミハイ博士の青年時代の挑戦を語りながら、生徒たちにエールを送った。
 
 「貢献的な人生を歩もうと思っても、ふと世間的な成功や名声に目がくらんでしまう時があるかもしれません。しかし、それらに惑わされることなく、自分が本当に何をしたいのか、自分の可能性を開花させていくためには、何が必要なのかを、いつも真剣に考えていってください。
 みなさんの活躍を心から期待しています!」
  
  
  
 ◆UPクラスって何?

 UPクラスとは、「University Partnership Class=高大連携講座」を指す。関西創価高校では、大学や国際機関などに勤務する人を講師に招き、地球規模の課題等について、専門的に講義を行ってもらってきた。毎月1回、平日の放課後に開催され、全生徒を対象に受講希望者を募っている。
 本年、行ってきたUPクラスの授業には、創価大学法学部の中山雅司教授による「国連と人間の安全保障について」、「緑の気候基金」の富永文彦氏による「気候変動とレジリエンス」などがある。
  
  
  
 ※ご感想をお寄せください。
 news-kikaku@seikyo-np.jp
   
 ※創価学園NAVIのバックナンバーが無料で読めます(会員登録は不要です)
 https://www.seikyoonline.com/rensaimatome/gakuennavi.html