企画・連載

〈SDGs×SEIKYO〉 あなたが買っている物、どこから来たのか知っていますか? NGO ACE代表 岩附由香さん 2023年2月14日

インタビュー:児童労働のない世界を目指して

 普段、何げなく使うコットン製品、おいしく食べているチョコ……その原材料は、一体どこから来るのでしょう? もしかしたら、アジアやアフリカなど発展途上国の子どもたちが背景に関わっているかもしれません。SDGsの目標8「働きがいも経済成長も」の中には、児童労働の撲滅が掲げられています。日本生まれのNGO(非政府組織)として、児童労働の撤廃に取り組む「ACE」の岩附由香代表に、世界の現状や、私たちができることなどを聞きました。(取材=サダブラティまや、澤田清美)

◆サッカーボールを縫う少女

 ――「児童労働」とは、18歳未満の子どもたちが、教育の機会を奪われ、心身の健康的な成長を妨害されながら、危険で有害な状況下で違法に働かされることです。現在、こうした子どもたちは、世界にどれくらいいますか。
  
 国連の国際労働機関(ILO)が発表している最新の数字によると、1億6000万人の子どもたちが児童労働をさせられています。

 かつては、アジア太平洋地域が一番多かったのですが、現在では、サハラ以南アフリカが半数を占めています。国内紛争や気候変動による環境の変化など、その要因はさまざまです。
 
 こうした事態が起こるたびに、人々は国内避難民や、国境を越えた難民になってしまいます。それまで培ってきた経済基盤は失われ、現金収入を得るために、子どもたちが働かざるを得ないという悪循環が生まれてしまうんです。

 ――貴団体は、1997年に設立されました。岩附さんが児童労働の問題に取り組むことになったきっかけは何でしょうか。
  
 当時、世界では「児童労働に反対するグローバルマーチ」という運動が話題になっていました。これは、1998年1月から6月まで、各国の参加者がマーチ(行進)を行い、最終的にILOの本部がある、スイスのジュネーブに集まるという壮大なプロジェクトです。

 この運動を主導していたのが、インドの人権活動家である、カイラシュ・サティヤルティさん(2014年にノーベル平和賞を受賞)。その頃、大学院生だった私は、あるNGOでボランティアをしていたのですが、“翻訳してほしい”と渡された手紙の内容が、グローバルマーチへの参加を呼びかけるものでした。

 手紙には、サティヤルティさんの言葉で、こう書かれてありました。“児童労働がなくならないのは、貧困が理由ではなく、政治的意志が足りないからだ”と。各国が、軍事費に充てている何%かを、子どもの教育費に振り分けることができたら、世界の子どもたちは、きちんとした教育を受けることができる。それが分かっていて、実現しないのは、優先順位の問題だと深く納得したんです。

 私もグローバルマーチに参加したいと思いました。いろんな人に相談する中で、いっそのこと、日本でマーチをやるためだけに、期間限定のNGOを立ち上げようと決めたんです。それがACEの始まりです。

 ――活動の転機が訪れたのは、2001年のことです。日韓ワールドカップを翌年に控えた同年、サティヤルティ氏と、5歳の時からサッカーボールを縫う労働をしていたソニアさんが来日し、記者会見を開きました。
  
 ソニアさんとの出会いは、私にとって、児童労働の問題を根本から捉え直す機会となりました。それまでは、児童労働を途上国の問題として考えていた節があったように思います。

 彼女に出会い、その言葉に触れた時、目の前にいるこの子が、私たちが使っているかもしれない物を作っているというつながりを、はっきりと感じることができました。

 私は、子どもたちがサッカーボールを縫う現場を見せてもらったことがあります。インドの田舎では、家に明かりはありません。暗い部屋の中、あるいは、軒先でボールを縫っている子どもたちの姿と、日本で思い描く“サッカーボール”のイメージは全く結び付かないですよね。

 児童労働は、知らずに物を使っている私たちの責任でもあり、こうした観点から語っていかなくてはならない課題だと気付かされたのです。

◆インドとガーナで起きていること

 ――児童労働が起きてしまう背景には、複雑な問題が絡み合っています。
  
 一つは、子どもの労働力を必要としてしまう、経済とビジネスのあり方です。また、地域に教育や福祉が整っていないことや、家庭の貧困も影響しています。“自分も働いていた”という親や周囲の価値観も関係しているでしょう。

 ACEでは、特に農業分野の児童労働に焦点を当て、インドとガーナで活動を行ってきました。

 例えば、インドでは、「ピース・インド プロジェクト」を2010年から実施しています。インドのコットンは、糸、生地、衣類製品など、さまざまに形を変え、主に中国を経由して日本に輸入されます。

 コットン畑では、35万人もの子どもが働き、うち6割から7割が女の子。ACEの主な活動は、農薬まみれの過酷な労働から子どもたちを守り、教育の支援をすることです。

 年齢が低い子どもには、ブリッジスクール(補習学校)を展開し、かばん、制服、給食などを支給しています。子どもたちが学校に来ることは、親の食事の心配を減らすことにもつながるんです。

 また、15歳を超えた女の子には、自立支援も行っています。読み書きや計算を教えながら、裁縫や手芸など、より健康的な職業訓練をします。もう一つ、親の収入が向上するような支援事業も欠かせません。

 こうした取り組みを通して、これまでに、三つの村を「児童労働のない村」に変え、約1000人の子どもたちが教育を受けられるようにしてきました。

 ――ガーナでも、同様の「スマイル・ガーナ プロジェクト」を2009年から実施しています。日本に輸入されているカカオ豆の約8割はガーナ産です。
  
 ガーナでは、よりコミュニティー(地域)の啓発に力を入れています。

 地元ボランティアの人たちが、カカオ畑の見回りをし、働いている子どもがいれば、親を含めた話し合いを通して学校に通えるように支援しています。

 また、ガーナ政府と連携して進めているのが、「児童労働フリーゾーン」の構築です。住民や自治体などが地域に継続的に介入することで、児童労働がない状態を維持する試みです。

 世界で1億6000万人の子どもたちが児童労働をしていて、その半数がアフリカにいることを考える時、国家レベルの仕組みをつくって、広げてもらうことが重要なのです。

◆消費者がもつ大きな役割

 ――先進国の日本が果たすべき役割は何でしょう。
  
 大きな一つは、日本企業が児童労働に関わるものを、生産、調達、販売しなくなることです。安い労働力を必要としてしまう、ビジネスや経済のあり方を変えるには、企業への働きかけが欠かせません。

 ACEでは、サプライチェーン(供給連鎖)の関心が国内で高まる前から、企業の意識改革に取り組んできました。

 代表的なのは、森永製菓のキャンペーン「1チョコ for 1スマイル」の支援パートナーを、2011年から務めていることです。売り上げの一部は、カカオ生産国の子どもたちの教育支援に充てられます。

 私は、買い物は「投票」と同じだと思っています。自分の好きなものを買うということは、その企業を応援することですよね。

 そうした意味で、私たち消費者の役割は極めて重要です。“このブランドの服が好きだけど、会社は大丈夫かな”と思ったら、企業側に確認することは、すぐにでも始められる行動の一つ。企業の中にも、現状を変えたいと思っている人はたくさんいるので、外からの声は、社員が行動を起こす上での強い後押しになるのではないでしょうか。

◆全ての子どもには、幸せに生きる権利がある

 ――創価学会は、これまでさまざまな形で人権意識の啓発や、人権教育の推進に取り組んできました。
  
 児童労働の撤廃を目指す中で、とても大切なのが、子どもの権利の浸透です。なぜなら、“貧しいから仕方がない”“必要悪だ”と言う人が、世界にはまだまだ存在するからです。

 子どもには健やかに育つ権利、教育を受ける権利がある。それを保障するのが国の義務であり、大人の責任です。でも、その根本の理解がないことが、しつけという名のもとで、子どもへの虐待を起こす一因となっています。

 国連では、1989年に「子どもの権利条約」が採択されました。日本は94年に批准していますが、知っている人はわずかで、ほとんど浸透していません。

 本年4月、政府は新たにこども家庭庁を設置し、それに伴って「こども基本法」も施行されます。実はここ数年、基本法の実現のために、私も具体的な提言を数多く出してきました。日本は今、子どもの人権を考え直す、大事な時期に来ていると感じます。

 ――最後に、心に残っている子どもたちとのエピソードをお聞かせください。
  
 2010年、ガーナのカカオ畑での実情を伝えるため、当時中学2年生だったゴッドフレッドさんが来日しました。彼は、自身の体験を「ものすごく大変な仕事をする小さな手」という詩にしたためました(以下、抜粋)。
  
 ぼくたちの尊厳を取り戻すのを助けて
 ぼくたちの権利を守るのを助けて
 学校に行って教育を受ける権利
 どうか勇気を出して発言して欲しい
 どうか勇気を出して助けを求めているひとたちを助けて欲しい
 声がかき消されてしまっているひとたちを
 泣いて苦しくて息ができなくなっている
 こんな毎日にうんざりしている
 児童労働をやめさせろ
 ぼくたちは、ものすごく大変な仕事をしている、小さな手だ

 普段のゴッドフレッドさんは、冷静で論理的な子でした。だから、詩で表現されているありのままの怒りや悲しみを教えてくれて、ありがたかった。

 彼は医師になる夢を持っていました。未来に向かって歩き出す姿を見られたことは、すごく幸せでした。

 子どもたちの蘇生のストーリーは、どんな人間にも、困難を乗り越える潜在的な力があることを証明してくれています。

 その一方で、今この瞬間も、奴隷のように働かされている子どもがたくさんいる。これからも私たちは、大人や社会が彼らのために何ができるのかを考え、行動し続けていきます。
 
  

 いわつき・ゆか 東京都出身。大阪大学大学院国際公共政策研究科(OSIPP)博士前期課程修了。大学院在学中にACEを設立。以後、代表を務め、SDGsと児童労働、ビジネスと人権等、日本国内およびグローバルな政策提言に力を入れる。共著に『わたし8歳、カカオ畑で働きつづけて。』(合同出版)、『チェンジの扉 児童労働に向き合って気づいたこと』(集英社)がある。
 
 

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sdgs@seikyo-np.jp

●聖教電子版の「SDGs」特集ページが、以下のリンクから閲覧できます。
https://www.seikyoonline.com/summarize/sdgs_seikyo.html

●海外識者のインタビューの英語版が「創価学会グローバルサイト」に掲載されています。
https://www.sokaglobal.org/resources/expert-perspectives.html