創価教育

【電子版先行】〈創価学園対話プロジェクト〉 慶應義塾大学の井手英策教授と東京・創価高校生が語り合う 2026年8月10日

より良い未来築く「魂の会話」

 「どう生きるか」に悩む多感な青春時代。東西の創価学園では、成長のヒントを提供するために、「対話プロジェクト」と称して、生徒のさまざまな質問に識者が答える取り組みを、昨年に引き続き行っています。高校生と語り合うのは、慶應義塾大学の井手英策教授(財政社会学者)です。今回は、東京・創価高校での模様(6月25日)を紹介します。

綿密な準備を重ねて

 今年5月下旬、事前に学ぶ小冊子が創価学園の高校生たちに配られました。

 タイトルは「放課後の社会論 高校生と考える『幸せの設計図』」。この小冊子に収録されたのは、井手教授と創価学会の青年世代による本紙の「未来対談」と、平和提言選集『未来をひらく選択』(潮出版社)に収められている池田先生の「SGIの日」記念提言の一部です。

 実は小冊子のタイトルを考え、取り上げる提言を選んで提案してくれたのは、井手教授でした。『未来をひらく選択』を読み、何日も思索を重ねたといいます。

 井手教授は「未来対談」の中で、学会の青年世代に、思想に根を張った「魂の言葉」があることを感じたと語りました。現代社会の在り方を問い直す勉強会を「魂の会話」と呼ぶとともに、「主体的な人間であれ」「自立した人間であれ」との信念を心に定め、他者に伝え、広げられるのは、学会員しかいないと期待を寄せています。

 今回も井手教授は創価学園生との「魂の会話」を心待ちにし、“より良い未来の建設を託したい”と綿密な準備を重ねてきました。

 学園生もまた、学友たちと小冊子を読み合い、井手教授の真心と情熱に応えたいと、学びを深めました。そして6月25日、いよいよ井手教授が創価高校を訪れ、対話が始まりました。

母が信じてくれて今がある

 まず井手教授が基調講演を行い、人生の根っこにある「原体験」を話してくれました。

 「僕は福岡のど貧乏な母子家庭の子どもだったんです」。場内は静まりかえり、学園生の視線が井手教授に注がれます。

 「冬の寒い時期、暖房がなく、家の中で最も暖かい場所は風呂場でした。ただ、お金がないので湯船の水を替えてもらえない。僕は、ドブ水のような臭いのする湯に漬かり、ガタガタ震えながら本を読み、勉強していたんです」

 その後、井手教授は小・中学生の頃の不登校の経験を語りました。「中学3年の時、僕と母が学校に呼び出されたんです。先生たちに不登校のことで問い詰められ、『このままだと井手君の人生は真っ暗だ』と厳しい言葉を浴びせられました。じっと黙って聞いていた母は最後にこう言ったんです。『先生方にご迷惑をおかけして申し訳ありません。ですが、私は息子を信じています』と」

 母の真情を聞いて井手教授は「絶対に母に恥をかかせるまねだけはしない」と決めます。睡眠時間を削って勉強し、高校は著名な進学校に、そして東京大学に進学するのです。

 「僕は特別な人ではない。誰より悩み苦しんだ。でも信じてくれた人に応えようと必死に勉強して今があるんだよ」――熱いメッセージを受け取った学園生は、自身の人生と照らし合わせ、「どう生きるか」を深く思索しているように見えました。

人生を決めた恩師の言葉

 講演は、東大大学院で「恩師・神野直彦先生(東大名誉教授)」と出会った話に移ります。

 ある日、井手教授は、神野先生の研究室を訪ねて、「大学時代はバンド活動に熱中していたけれども、これからは学問をしたい」と決意を告げます。その熱意に触れ、神野先生は井手教授を最初の教え子として引き受けました。

 後日、神野先生は井手教授をお昼ご飯に誘い、その時にこう語ったそうです。
 「君はこれから学者になるんだ。学者はまず、論理的に考えなさい。考えて、考えて、どうしても分からない時は……困っている方の味方をしなさい」

 井手教授は身震いし、必ずこんな人になるのだ、そう心に誓いました。そして、恩師の学問を受け継ぎ、国際的な財政学者に登り詰めます。

 師匠への思いを感じる場面は、講演前にもありました。学園構内を回った井手教授は、図書館で“ある書籍”を見つけ、立ち止まったのです。それは財政学者・大内兵衛氏の全集でした。「神野先生と私の学問はこの方から始まったのです」と井手教授は手に取り、感慨深くページをめくっていました。

 井手教授はそのことも話し、学園生に叫びました。
 「僕は神野先生に憧れ、教えを大切に守ってきました。一心同体になりながら、この30年を生きてきたのです」

 井手教授が用意したスライドには大きく「師弟不二」の文字が掲げられていました。

態度を決める生き方を

 困っている方の味方に――この神野先生の言葉を受けて、井手教授が強調したのは「態度を決める生き方」の大切さです。

 「恩師は“考え抜いても分からなければ、困っている方の味方をしなさい”とおっしゃり、母は“何があっても息子のことを信じる”と言ってくれました。尊敬する人たちは皆、態度を決めていたんです」

 そう語った井手教授は、「池田会長の言葉で一番好きな言葉を紹介したい」と『希望対話』の次の一節を挙げました。「いじめられている君は、全然、『どこも悪くない』(中略)『いじめている』側が、100パーセント悪い」

 井手教授は語ります。「学者は普通、『いじめられている側にも非があるのでは』と考えてしまう。しかし池田会長は違う。いじめている側が悪いんだ、と態度を決めている」と。

 人の評価を気にするな。態度を決め、自分の命を生き抜くのだ!――生き方に悩む高校生たちに、「一つの光」がともりました。

弱者を生まない社会

 講演が終了すると、壇上に生徒の代表6人が登場。井手教授に質問を投げかけます。

 「AI時代に必要な力とは?」「若者が政治への主体者意識をもつには?」――さまざまな質問に答えていきます。

 続いて、場内から挙手制で質問を募ると、障がいがある家族をもつ生徒が質問しました。「家族を『サポートしなくちゃ』と思ってしまいます。一方、家族は『かわいそう』と見られるのがつらいと言います。私はどう考えて、行動したらいいのでしょうか」

 井手教授の目が光ります。身近にいた母の生き方を通し、こう確信していたからです。

 「誰しも尊厳や誇りがある。人さまのご厄介になるのは嫌で、助けられると屈辱が刻まれる。だから本当に必要なのは、『弱者を助ける社会』じゃない。『弱者を生まない社会』だ」

「アシスト」を大事に

 井手教授は質問した生徒に語りかけました。
 「日本の福祉の世界で使われている、サポートや支援、保護などの言葉には、『支えてあげる』『助けてあげる』といった上から目線の心が宿っていると思う」

 代わりに大事にしている言葉として「アシスト」を挙げました。
 「サッカーでよく使う言葉だよね。ひっついていたら、アシストできない。ほどよい距離をとって、その人がゴールを決めるために、自身ができることを考えてアシストする。福祉はそういうものじゃないかな。当事者の考える幸せや望む生活が一番大事。君がそばにいるだけで、家族の力になっているんだよ」

 あっという間に時間は過ぎ、質問会は終了。別れを惜しむ井手教授は思わずこう呼びかけました。「質問できなかった人、僕に質問を送ってよ!」

 後日、200近くの質問と500以上の感想が寄せられました。それらを全て読んだ井手教授。2週間ちょっとで全ての質問への回答を書いたといいます。「魂の会話」が熱気を帯びてきました。

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【プロフィル】いで・えいさく 1972年、福岡県生まれ。東京大学大学院博士課程修了。日本銀行金融研究所、横浜国立大学などを経て、現在、慶應義塾大学経済学部教授。専門は財政学。『ベーシックサービス』(小学館)など著書多数。