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SUAでの核軍縮教育セミナーから ICAN国際運営委員 ヘルファンド博士の講演(要旨) 2025年7月20日

争いの時こそ対話が必要

 アメリカ創価大学(SUA)の「地球的問題群研究センター」が主催する「核軍縮教育に関するセミナー」が6月、カリフォルニア州の同大学キャンパスで行われた。ここでは、ICAN(核兵器廃絶国際キャンペーン)国際運営委員のアイラ・ヘルファンド博士による基調講演の要旨を紹介する。

 現在、核戦争は、現実に差し迫った危険となっています。現代の核兵器は、広島や長崎で使われた原子爆弾とは比較にならない威力です。核戦争が起きた場合、その結果は想像を絶するほど破滅的なものになりますが、多くの人が核兵器の恐ろしさに気付いていないことが問題です。しかし、核戦争は避けられない運命ではなく、私たちの行動次第で回避できます。
 
 現在、冷戦期の最悪の頃よりも核兵器が使用される危機が増大していると指摘されています。その具体的な要因として、ウクライナ危機をはじめ、各地での紛争があります。
 
 また、気候変動は、食料や水の不足、大規模な難民の発生を引き起こし、世界のシステムを不安定にします。この混乱の中で核兵器が使用される可能性が高まると考えられています。
 
 さらに、テロリストや犯罪組織が核兵器の指揮統制システムをハッキングし、偽の警報による核攻撃を引き起こす「悪夢のシナリオ」が現実の脅威となっています。
 
 核兵器の使用によって起こる「核の冬」も深刻です。核兵器が使用されると、都市の発火によってばい煙が放出され、太陽光を遮断し、地球全体の平均気温が低下します。それによって、生態系が崩壊し、地球規模で食料生産が停止します。
 
 この結果生じる飢餓で、何十億人もの人々が死亡すると推定されています。人類が種として絶滅する可能性すらあるのです。
 
 そんな核兵器の脅威がありながら核開発を加速させる国もあり、さらに、その抑止力として核戦力を持つことを検討する国も出ています。
 
 核兵器保有国は、核抑止力が安全保障に不可欠だと主張しますが、これは“大きな神話”です。冷戦期には複数回、核攻撃の開始プロセスが誤って開始されそうになった事例があり、そのすべてが“幸運”によって回避されたに過ぎません。核兵器が存在し続ける限り、それらが使用されるのは「いつか」という時間の問題です。
 
 だからこそ、核兵器なき世界を目指していくことが必要です。核兵器は自然現象ではなく、人間がつくり出したものです。過去に数万発の核弾頭が解体された事例があり、現在残る約1万2000発の核兵器も、政治的な意思があれば解体できるとされています。
 
 国家間に大きな紛争がある時こそ、最も対話が必要な時です。実際、冷戦の時代に、国家間の関係が緊迫していた時にも、継続的な対話があったため、状況を好転させることができました。
 
 市民社会の役割も重要です。ICAN(核兵器廃絶国際キャンペーン)などの主導により、核兵器の保有を禁止する新しい条約が2017年に国連で採択され、21年1月に発効しました。
 
 核兵器保有国の政策変更を促す運動も進行しています。
 
 例えば、米国では「バック・フロム・ザ・ブリンク」キャンペーンがあります。これは米国が他の核保有国と協力して核兵器の撤廃交渉を開始し、最終的に核保有国が核兵器禁止条約に参加することを目指しています。このキャンペーンは、多くのNGOや、複数の州議会、学生団体等が支持しています。
 
 私たち市民は核兵器の製造に関わっていませんが、解決への責任を負っています。これは重責であると同時に「世界を救う」という、私たちが人生で行える最も価値のあることです。核兵器の問題は、一人で解決することはできませんが、それぞれが自分の役割を果たすことで、核兵器廃絶は実現できるのです。