「核廃絶ネゴシエーター」という肩書に込めた思いや、世界の実情、これから取り組みたいことなどについて高橋悠太さんに話を聞いた。(「第三文明」9月号から)
「核廃絶ネゴシエーター」という肩書に込めた思いや、世界の実情、これから取り組みたいことなどについて高橋悠太さんに話を聞いた。(「第三文明」9月号から)
被爆者の苦悩は人生に及ぶ
被爆者の苦悩は人生に及ぶ
現在、私は核兵器廃絶に向けた取り組みを自分の仕事にしています。「核廃絶ネゴシエーター」と名乗り、政府や議員と対話しています。
ですが、元からこの問題について関心が高かったわけではありません。
私は、原爆を投下された広島市から東に100㎞ほど離れた福山市に生まれました。広島県内とはいえ、通っていた公立の小学校で受けた平和教育は、折り鶴を折るくらいしか記憶にありません。
私立の中高一貫校に進学して、人権を学ぶクラブに入部。そこで署名活動に参加しました。街頭では、「核はなくならない」と何度も言われましたが、一筆一筆、平和への思いを集めたとき、自分もまた社会をつくっている一人であることを実感したのです。
深く心に残ったのは、被爆者の坪井直さんとの出会いです。中学3年のときに2日間、計5時間にわたって証言を聞き取る機会がありました。坪井さんはいつも姿勢を正して、「ネバーギブアップ!」と力強く語られていました。一方で、被爆者への差別から結婚を反対され、自殺を図った話になると、小さく背中を丸めて涙を流されました。
被爆者としての苦悩が、人生に及ぶ被害だったことを知り、衝撃でした。また、怒りや憎しみを腹の底にしまい込みながらも、理性的に対話していこうとする坪井さんの生き方に、自分も何か行動を起こしたいという思いを強くしたのです。
都内に進学後、学生団体「KNOW NUKES TOKYO」を設立し、国際会議にユースの声を届けるなどの活動をしてきました。
現在、私は核兵器廃絶に向けた取り組みを自分の仕事にしています。「核廃絶ネゴシエーター」と名乗り、政府や議員と対話しています。
ですが、元からこの問題について関心が高かったわけではありません。
私は、原爆を投下された広島市から東に100㎞ほど離れた福山市に生まれました。広島県内とはいえ、通っていた公立の小学校で受けた平和教育は、折り鶴を折るくらいしか記憶にありません。
私立の中高一貫校に進学して、人権を学ぶクラブに入部。そこで署名活動に参加しました。街頭では、「核はなくならない」と何度も言われましたが、一筆一筆、平和への思いを集めたとき、自分もまた社会をつくっている一人であることを実感したのです。
深く心に残ったのは、被爆者の坪井直さんとの出会いです。中学3年のときに2日間、計5時間にわたって証言を聞き取る機会がありました。坪井さんはいつも姿勢を正して、「ネバーギブアップ!」と力強く語られていました。一方で、被爆者への差別から結婚を反対され、自殺を図った話になると、小さく背中を丸めて涙を流されました。
被爆者としての苦悩が、人生に及ぶ被害だったことを知り、衝撃でした。また、怒りや憎しみを腹の底にしまい込みながらも、理性的に対話していこうとする坪井さんの生き方に、自分も何か行動を起こしたいという思いを強くしたのです。
都内に進学後、学生団体「KNOW NUKES TOKYO」を設立し、国際会議にユースの声を届けるなどの活動をしてきました。
アドボカシーに取り組む
アドボカシーに取り組む
核兵器廃絶を仕事として取り組むことを決めたのは、大学3年生の頃でした。きっかけは2つあります。
1つは、坪井さんが2021年の秋に亡くなったことでした。すでに被爆者の平均年齢は80歳を越え、体験を語ることができる人は減っています。
もう1つは、22年のロシアによるウクライナ侵攻などによって、核軍拡の流れが強まったことでした。核兵器の廃絶に向けた市民社会の声を高めていくべきタイミングにあって、そのコミュニティーから離れてしまうことに危機感を覚えました。
そして23年、一般社団法人かたわらを設立しました。理事やユースメンバー約10人で、アドボカシー(政策提言)などに取り組んでいます。G7の主要議題に核軍縮を残すため、議長国イタリアに渡航し、働きかけを行いました。
また、広島と長崎だけのローカルな課題に矮小化させないよう、法人の拠点は関東に設けました。
核兵器廃絶を仕事として取り組むことを決めたのは、大学3年生の頃でした。きっかけは2つあります。
1つは、坪井さんが2021年の秋に亡くなったことでした。すでに被爆者の平均年齢は80歳を越え、体験を語ることができる人は減っています。
もう1つは、22年のロシアによるウクライナ侵攻などによって、核軍拡の流れが強まったことでした。核兵器の廃絶に向けた市民社会の声を高めていくべきタイミングにあって、そのコミュニティーから離れてしまうことに危機感を覚えました。
そして23年、一般社団法人かたわらを設立しました。理事やユースメンバー約10人で、アドボカシー(政策提言)などに取り組んでいます。G7の主要議題に核軍縮を残すため、議長国イタリアに渡航し、働きかけを行いました。
また、広島と長崎だけのローカルな課題に矮小化させないよう、法人の拠点は関東に設けました。
ユースの声を政策決定に
ユースの声を政策決定に
グテーレス国連事務総長は核兵器使用のリスクが高まっていると語っています。その上で、核兵器廃絶を進める障壁を乗り越える私からの提案を3点挙げます。
第1に、西側諸国の核政策をめぐって、ダブルスタンダード(二重基準)が見られることです。去年の「核軍縮に関するG7首脳広島ビジョン」では、ウクライナ侵攻で核兵器の使用やその威嚇を示唆するロシアを「無責任」だと非難しています。当然の指摘なのですが、一方で、他の核保有国が核兵器使用やその威嚇を行うことを認めているともとれる文言になっています。
アメリカは22年のNPT(核不拡散条約)再検討会議で、「ロシアと違って、われわれは責任ある保有国だ」と発言していますが、この発想の背景にある「核抑止」は、いざとなったら核兵器を使用することが前提にあります。しかし、いかなる国も、核兵器を使用した責任はとれません。
第2に、核兵器をなくす日本のビジョンが不透明であることです。すぐ発射可能な「現役核弾頭」数は、18年比で332発(約3・6%)増加傾向にあります。日本は、その数の減少を呼びかけ続けてほしい。そして、他国の先制不使用政策に反対せず、核兵器禁止条約に参加するべきです。
第3に、核被害者やユース、女性、性的マイノリティーなどが、政策決定に関与する制度が未成熟であることです。なかでもユースに特筆すると、ユースの声を可視化するユース諮問委員会や財政支援も、持続的な参加に向けて、確立する必要があります。
グテーレス国連事務総長は核兵器使用のリスクが高まっていると語っています。その上で、核兵器廃絶を進める障壁を乗り越える私からの提案を3点挙げます。
第1に、西側諸国の核政策をめぐって、ダブルスタンダード(二重基準)が見られることです。去年の「核軍縮に関するG7首脳広島ビジョン」では、ウクライナ侵攻で核兵器の使用やその威嚇を示唆するロシアを「無責任」だと非難しています。当然の指摘なのですが、一方で、他の核保有国が核兵器使用やその威嚇を行うことを認めているともとれる文言になっています。
アメリカは22年のNPT(核不拡散条約)再検討会議で、「ロシアと違って、われわれは責任ある保有国だ」と発言していますが、この発想の背景にある「核抑止」は、いざとなったら核兵器を使用することが前提にあります。しかし、いかなる国も、核兵器を使用した責任はとれません。
第2に、核兵器をなくす日本のビジョンが不透明であることです。すぐ発射可能な「現役核弾頭」数は、18年比で332発(約3・6%)増加傾向にあります。日本は、その数の減少を呼びかけ続けてほしい。そして、他国の先制不使用政策に反対せず、核兵器禁止条約に参加するべきです。
第3に、核被害者やユース、女性、性的マイノリティーなどが、政策決定に関与する制度が未成熟であることです。なかでもユースに特筆すると、ユースの声を可視化するユース諮問委員会や財政支援も、持続的な参加に向けて、確立する必要があります。
未来サミットは出発点
未来サミットは出発点
こうした状況を改善するため、国際レベルでは、いかなる国も核兵器の使用やその威嚇は許されないと、繰り返し明言するべきです。より踏み込んだ表明も必要でしょう。たとえば、ロシアだけでなく、アメリカ、フランス、イギリスも含めて、核兵器使用に至ることなく終戦させる意思の表明などです。
今年9月には、ユースや将来世代の参画と多国間主義の回復を目指し、国連で未来サミットが開催され、私も渡航します。
同サミットで採択される「未来のための協定」の草案には「核軍縮」を加速させることが含まれており、合意できれば、核保有国を含む核軍縮への新たな出発点になります。この言及が後退しないように、外務省などの複数の部局に働きかけています。
日本は、核兵器の脅威が高まっている今こそ、核兵器使用の身体的、社会的、経済的影響を世界へ伝えるべきだと思います。核兵器の影響は、世代を超えて、人生にわたって続きます。現代に生きる私たちは等しく、核の時代の当事者です。
それを踏まえて、私はユースや将来世代が安全保障の議論に参加できるシステムをつくりたいのです。ユースの声が尊重される社会では、あらゆる声が等しく尊重されるでしょう。今夏、政府は「ユース非核リーダー基金」で、世界から100人を広島・長崎に招きます。そうした学習を恒常的に開催し、ユースの声を取り入れるプラットフォームへと発展させてほしいです。
3月に行われた未来アクションフェスは、ユース参画制度の必要性を体現しました。今後も、各地を私や実行委員が訪ね、地域ごとにワークショップを開くなど、行動を続けていきたいです。私も市民の一人として、志を同じくするみなさんと核兵器廃絶に取り組んでいきます。
こうした状況を改善するため、国際レベルでは、いかなる国も核兵器の使用やその威嚇は許されないと、繰り返し明言するべきです。より踏み込んだ表明も必要でしょう。たとえば、ロシアだけでなく、アメリカ、フランス、イギリスも含めて、核兵器使用に至ることなく終戦させる意思の表明などです。
今年9月には、ユースや将来世代の参画と多国間主義の回復を目指し、国連で未来サミットが開催され、私も渡航します。
同サミットで採択される「未来のための協定」の草案には「核軍縮」を加速させることが含まれており、合意できれば、核保有国を含む核軍縮への新たな出発点になります。この言及が後退しないように、外務省などの複数の部局に働きかけています。
日本は、核兵器の脅威が高まっている今こそ、核兵器使用の身体的、社会的、経済的影響を世界へ伝えるべきだと思います。核兵器の影響は、世代を超えて、人生にわたって続きます。現代に生きる私たちは等しく、核の時代の当事者です。
それを踏まえて、私はユースや将来世代が安全保障の議論に参加できるシステムをつくりたいのです。ユースの声が尊重される社会では、あらゆる声が等しく尊重されるでしょう。今夏、政府は「ユース非核リーダー基金」で、世界から100人を広島・長崎に招きます。そうした学習を恒常的に開催し、ユースの声を取り入れるプラットフォームへと発展させてほしいです。
3月に行われた未来アクションフェスは、ユース参画制度の必要性を体現しました。今後も、各地を私や実行委員が訪ね、地域ごとにワークショップを開くなど、行動を続けていきたいです。私も市民の一人として、志を同じくするみなさんと核兵器廃絶に取り組んでいきます。