健康・介護

〈幸齢社会〉 料理を始めてみたい! 教室に通って 2024年10月23日

 岡山県倉敷市に、農林水産省の「食育活動表彰」を受賞した「男おひとりさま料理カンタン教室」(カンタン教室)があると知り、参加してみました。50歳以上で料理経験のほとんどない男性が対象だそう。同教室を主宰する「シニア世代のサバイバル男料理の会」会長・小西敏弘さんに料理をする魅力と、肉じゃがの簡略レシピを聞きました。

シニア世代のサバイバル男料理の会会長
小西敏弘さん

 自分で料理を作らなくても、宅配弁当を利用するか、スーパーやコンビニで総菜、弁当などを購入すれば食べることに困りません。
 しかし、料理ができると生活が変わります。
 “カンタン教室”は、これまでの卒業生が各テーブルに配置され、サポーターとして支援しています。そうしたサポーターの中には、料理を始めて、夫婦仲がより親密になった人が多くいます。一緒にスーパーに買い物に行くようになった、味付けを見てもらったり、教わったりするようになったなど、共通の話題が増えたといいます。あるサポーターは「妻に“何が食べたい?”と聞かれても、何でもいいとは答えられなくなった」「料理を考えたり、作ったりする大変さを実感した」と。今では事前に冷蔵庫内の食材を見ておいて、妻に聞かれたら、具体的な料理名を答える努力をしていると言い、日頃支えてくれる相手への感謝を語ります。
 女性陣からも、夫の食事を心配する必要がなく、仕事や病院、用事に出かけやすくなったと、喜びの声が届いています。
 受講生には、独り身の方も少なくなく、出来合いのものだと食卓が変わり映えしないと、料理に挑戦する人、持病に対応したメニューを作りたい人もいます。そもそも、手を動かし、手順を考え、同時に複数のことを行う調理は、脳を活発に働かせます。
 「頭脳イキイキ・健康増進・夫婦円満」が教室のキャッチコピーなんです。

 料理経験のない人が一人で始めるのは難しいでしょう。料理本を見たって、細かいところは分かりません。YouTube動画は、作業している間にどんどん先に進んでしまいます。料理下手は、料理番組なんて見ません。ぜひ、初心者向け、高齢者向けに、身近な公民館などで開かれている料理教室を探すことをオススメします。
 教室によって教え方もさまざまですが、できる限り、ゼロから全工程を体験させてくれる所をオススメします。私たちの教室では、スーパーでの食材購入に始まり、コンロと鍋での炊飯、おかず作り、食器の片付けまで、サポーターの指導の下、全てやります。スーパーだって、行ったことがなければ、どこにどの食材があるか分かりません。新鮮な食材の見分け方を現地で体験します。調理後の掃除も、水滴一つ残らないように、片付けます。片付けないで、そのままというのは、家ではケンカのもとです。
 高齢者の視点に立つというのも重要な点です。目が弱ってくると、ガスの青い炎が見えにくく、火の消し忘れが起こりやすくなります。こういった指摘は当事者や、高齢者を教えていないと分かりません。
 調味料はできるだけ、数字で確認しましょう。“適量”“少々”で味が調うのは、慣れている人だけ。何㏄、何グラムと、できるだけ具体的な量で確認すると失敗が少なくなります。

 上手になる一番のコツは、回数をこなすことに尽きます。カンタン教室では、次の講座までの間に、必ず復習として、家で作ってもらいます。読者の方が教室に通った際も、家での復習を実践してください。
 レシピが4人前だったら、その分量で作ります。サポーターの中には、家族で食べきれない分を近隣にお裾分けして、アドバイスをもらっている人がいました。料理が交流の場を広げてくれます。家族や子ども、孫、ご近所、お友達など、食べてくれる人やそうした機会を作ること。それが、回数を増やす助けをしてくれます。
 茶わん蒸し、唐揚げ、巻きずし、ハンバーグ、肉じゃが、レタスチャーハン、イワシのかば焼き。これらはサポーターがそれぞれ得意な料理。親族が集まる時、孫からリクエストされる逸品となっています。
 あなたにも自慢のレシピがきっとできます。今回は、教室で教えている肉じゃがレシピの簡略版を紹介します。ぜひチャレンジしてください。

“肉じゃが”を作ってみよう

 訪問した際に、受講生が実際に作った料理。この、肉じゃがに挑戦しましょう。

●材料 4人分

 糸コンニャク……1袋
 ジャガイモ……3個
 タマネギ……1個
 ニンジン……1本
 キヌサヤ……4枚
 牛肉……200g
 砂糖……大さじ2
 塩……ひとつまみ
 しょうゆ……大さじ3
 七味……お好みで

●手順
〈野菜の下準備〉

 糸コンニャクをザルに入れ、流水で洗う。さらに、ボウルにそのザルを入れ、流水で5分ほどさらす。その後、水切りし、5~6センチくらいに切る。

 ジャガイモを洗って汚れを落とし、くし切りにして、皮をむく。

 タマネギは、皮をむいて、くし切りにする。

 ニンジンは、洗って汚れを落とし、長さを4等分に切り、くし切りにする。

 キヌサヤは、筋を取らずに、洗っておく。

〈肉の味付け〉

 肉を食べやすい大きさに切って、ボウルに入れる。砂糖大さじ2、塩ひとつまみ、しょうゆ大さじ3を入れる。5本の指を立てて、一方向(左回り)に円を描く感じで回し、肉と調味料をなじませる。
 ※肉はもまない。

 ❶鍋に、下から糸コンニャク、ジャガイモ、タマネギ、ニンジン、肉の順に敷いていく。ふたをして、中火で10~15分加熱する。途中、湯気が出てきたら、ふたを開け、肉の色が変わっていたら肉をほぐして、広げる。
 ❷ニンジン、ジャガイモに火が通ったら(軟らかくなったら)、キヌサヤを上にのせ、ふたをして、30秒から1分ほど、火を通す。キヌサヤに火が通ったら、取り出して斜め千切りにする。
 ❸火を消して、木しゃもじで上下を混ぜる。ふたをしてゆっくり冷ます。
  ※冷却過程で味が染みこむ。
 ❹砂糖、しょうゆ(分量外)で味の最終調整。食べる前に温め直す。器に盛り付けて、キヌサヤをのせる。
  お好みで七味を振る。 

記者もやってみた

 料理をあまりしない記者は、取材時のメモをしっかりと見返す。まずは熟読。包丁を握り、ジャガイモをくし切り。皮むきに挑戦したが、厚すぎて、一回り小さくなる。無理せず、皮むき器に持ち替えた。昼に始め、冷却時間(放っておいただけ)含め、夕方まで。作業中の香りが良かったおかげか、娘(小学5年生)はペロリとたいらげ、おかわり。私が作る時は、父の料理というだけで手を付けない息子(中学2年生)にも出してみる。「悪くない」との感想。ガッツポーズ。また次もやろうかなと、気持ちが軽くなる。妻からは「ジャガイモに味が染みてなかった」に続いて「でもおいしいよ」と。食器を洗いながら、「さて、次はいつスーパーに行こうか」。