企画・連載

ゼミ探訪「創大の経済学部」 2022年1月16日

〈創大マガジン〉

 創価大学・創価女子短期大学(東京・八王子市)での学びの魅力を探る“ゼミ探訪”。今回は、経済学部の二つのゼミに行ってみた。

●浅井ゼミ
国際的な金融の仕組みとデータ分析の手法を学ぶ

 「英知を磨くは何のため 君よ それを忘るるな」
 
 「労苦と使命の中にのみ 人生の価値は生まれる」
 
 今月上旬、創価大学のキャンパスを訪れると、凜とした空気の中、創立者・池田先生の言葉が刻まれた一対のブロンズ像が静かにたたずんでいた。開学以来50年にわたって、学生たちの成長を見守り続けている像だ。今回、訪れた「経済学部」は、このブロンズ像と同じく開学時からある最も古い学部の一つである。

 「“英知を磨くは何のため”との創立者の言葉がありますが、経済学も何を目的にするかによって、善にも悪にもなり得ます。学生には、学業に励むとともに、大学で人格を磨いてもらいたいですね」
 
 こう語るのは、浅井学教授。ゼミでは、国際金融論をメインテーマにし、ここ数年は、データサイエンスにも力を入れている。
 
 「データを分析し、課題解決への提案ができる力は今、さまざまな分野で求められています。学生たちは、身近な問題を通して、その高度な知識や技術を身に付けていきます」
 
 浅井ゼミで学ぶ大橋直美さん(4年)は、世界の貧困問題に関心を寄せる。1年次にフィリピンでボランティアを経験した際、劣悪な生活環境の中でも明るくたくましく暮らす人々に接し“貧しさ=かわいそう”とのイメージが一変したという。「経済的な豊かさと心の豊かさは、同じではないと感じました。しかし一方で、貧困が人生の選択肢を狭めてしまう現実も目の当たりにしました」

 ゼミでは、国際的な資金調達の仕組みに加え、データ分析の手法を学んだ。
 
 2年次に参加した学部内のゼミ対抗論文発表大会では、構内にあるコンビニで昼休みに長蛇の列ができる問題を取り上げた。利用客にアンケート調査を行い、そのデータをさまざまな手法を用いて分析。当時、あまり浸透していなかった決済アプリの開発・導入などを提案し、優勝に輝いた。
 
 「どうすれば課題を解決できるか――チームの仲間と考え、自分たちでデータを集め、分析する面白さを実感しました」(大橋さん)
 
 同チームでデータ分析を担当したのは鈴鹿広輔さん(4年)。プログラミングを用いた分析手法や、統計学などを積極的に学んでいて、統計検定準1級も取得している。

 「昔から、打率や防御率など野球のデータを見るのが好きでした。今でも趣味で、プロ野球の全試合の一球ごとのデータを集めているんですよ(笑い)。データサイエンスの魅力は、単なるデータの集計だけでは分からないことも示してくれるところです。例えば、打率が低くても“打っているイメージ″が強い選手のデータを分析してみると、チャンスの時の打率が非常に高いことが分かったりします。データサイエンスは、物事の関係性を深く探究することができます。興味ある分野と掛け合わせれば、その面白さは何十倍にもなると思います」

【学生の声】経済学部4年 周永宣さん

 私は、地元・マレーシアの高校で経済学を学んでいました。両親が自営業だったこともあり、特に興味があった「金融」を学び深めたいと、高校卒業後、創価大学の経済学部に留学しました。学べば学ぶほど、“金融には人の暮らしの質を変える力がある”との思いを強くしています。
 日本の製品を海外で販売する電子商取引を行う企業で長期インターンシップに参加した時には、日本の製品がどうすれば売れるか、ゼミで学んだデータ分析の知識を生かすことができました。
 昨年秋には、日本CFA協会が主催するリサーチ・チャレンジという大会に出場しました。これは特定の企業の財務データを分析し、投資すべきかを判断するものです。データを読み解く力を磨く機会になりました。
 小さい頃、踊りを習っていました。文化・芸術は、人に生きがいや喜びを与えてくれます。そうした文化・芸術に誰でも親しめるような社会の構築へ、培った金融やビジネスの力で貢献していきたいと考えています。
  
  
  

●近貞ゼミ
「農業」や「食」の視点から地域・社会を豊かにする

 次に向かったのは、「農業経済学」をテーマにする近貞美津子准教授のゼミ。農業経済学とは、農業や食に関する問題を経済学を用いて分析する学問領域だ。

 「食は、誰にとっても身近にあるものです。世界には、飢餓と飽食が同時に存在しています。2006年から08年にかけての世界食糧危機では、各地で穀物価格が高騰し、多くの人が新たに飢餓状態に陥りました。学生たちには、身近な『食』を通して、自分たちの生活と世界との関連性を感じてもらいたい」(近貞准教授)
 
 同ゼミで学ぶ藤井悠さん(3年)は、昨年10月、日本学生経済ゼミナール関東部会大会に出場した。
 
 総務省の2019年のデータによると、新規就農者のうち約35%の人が4年以内に離農してしまうという。藤井さんのチームは、離農者を少しでも減らすことができないかと研究を進め、八王子市内の複数の農家に話を聞いてきた。

 「家庭菜園を始めた方が鍛冶屋で鍬を購入しようとした時、『どの辺で畑をやるんですか』と聞かれたそうです。聞けば農具は、土地の性質に合うように微妙に形状を変えているとのことでした。その繊細さに驚いたといいます。自分の土地には、どういった道具や品種、生産方法などが適しているのか――こうした細かな情報は書籍ではなかなか知ることができません。新たに農業を始めた人が気軽に質問できるような、地域密着型の情報共有の場をつくれたら、役立つのではないかと思いました」
 
 これまでも講演会や研修会など、農協等が主催する情報を得るためのイベントはあったが、コロナ禍の影響で中止が相次いでいる。
 
 藤井さんのチームは、オンライン上で質問のやりとりをし、答えてくれた人には肥料や農具の購入に充てられるポイントを付与する仕組みを提案。農協からは“高齢者が多いのでオンラインは難しいかもしれないが、可能性を感じる”との返答があった。
 
 「農家の方からは『いつから始まるんですか』と待ち望む声もいただきました。大会の予選突破はできませんでしたが、これからも研究を続けていきたいと思います」と、藤井さんは瞳を輝かせる。
 
 3年前の同大会で加藤友都さん(4年)のチームは、「脂質異常症」の予防・改善をサポートする仕組みを提案。近貞ゼミで初めて本選出場を果たした。

 「『脂質異常症』はあまり知られていませんが、心筋梗塞などの三大疾病につながるといわれています。戦後、日本人の食生活が大きく変わったことに起因しています。特に30代から50代の女性に多くみられる疾病です」
 
 加藤さんたちは、医療機関にヒアリングした内容をもとに、アプリと連動して、食事と運動習慣の両面から生活の改善を促す仕組みを考えた。
 
 「私自身、一人暮らしをするようになって、多忙で冷凍食品ばかり食べていた時に体調を崩したことがありました。食事の大切さを感じています。
 
 “持続可能な農業や食”は、“持続可能な豊かな暮らし”の土台になります。普段の生活から、環境に配慮した行動を心掛け、誰もが豊かに暮らせる町づくりに貢献していきたいと考えています」

【学生の声】経済学部4年 千葉正男さん

 人の暮らしを支える「食」や「農業」は、地域の発展に深く関わっています。
 各国の繁栄の歴史を振り返ると、どの国でも、どの時代でも、経済的な成長の始まりには、必ず農業の発展があります。ゼミの学びでそのことを知り、農業が社会に与える経済効果に関心を持つようになりました。
 近貞ゼミでは、農業だけでなく「食」に関わる広い分野を学びます。ゼミの仲間の中には、食べられずに廃棄されてしまうフードロスの問題や、食料の流通に関する問題をテーマに勉強している人もいます。
 私は今、「道の駅」について研究をしています。各地の「道の駅」には、そこでとれた食材や地元ブランドの品々が並び、地域の魅力を発信する拠点になっています。さらに観光客を集める集客力や雇用の創出など、地域の活性化への期待も高まっています。
 私たちの生活に欠かせない「食」から、社会や世界の問題を考えるのが、このゼミの魅力だと思います。

  
  
  
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