健康・介護
〈Seikyo Gift〉 現代人の目を守るために 〈健康PLUS〉 2024年10月26日
綾木雅彦さん
スマートフォン(スマホ)やパソコンなどで目を酷使することが多い現代。働き盛りの世代が気を付けたい目のトラブルや、視力を維持するための生活習慣、セルフケアについて、『視力防衛生活』(サンマーク出版)の著者である慶応義塾大学医学部眼科学教室非常勤講師の綾木雅彦さんに聞きました。(8月24日付)
①目のトラブルは心身に影響
②“寝転びスマホ”はNG
③画面から40センチ以上離す
スマホの長時間使用は、目の健康を損なうリスクがいくつもあります。
まずは「スマホ老眼」。近距離で長時間スマホを見続けることで、目の周辺の筋肉が疲労し、ピントが合いにくくなってしまうものです。老眼は一般的に、40~45歳ぐらいで始まることが多いのですが、近年は20~30代でも増えてきています。
また、まばたきの回数が減るなどして「ドライアイ」の危険性も高まります。ドライアイは目の表面の涙の分泌量が減って乾燥し、痛みやまぶしさを感じたり、ピントが合いづらくなったりします。コンタクトレンズの人やレーシック手術をした人は特に注意が必要です。オフィスワーカーの約6割がドライアイという報告もあります。
まばたきをせずに10秒間、両目を開け続けてみてください。目が痛くなったり、つらくなったりした方はドライアイの可能性があります。「ドライアイの女性は老眼になりやすい」という研究もあります。
目を酷使することで視界がかすんだり、目に痛みや重さを感じたりする「疲れ目」にも注意してください。目は若い人の方が疲れやすい特徴があります。ピントを合わせる能力が高く、目の筋肉運動が活発なためです。また、目の透明度も高く、光のまぶしさから痛みや不快感が出やすいことも原因の一つです。「ドライアイ」や「スマホ老眼」「疲れ目」を放っておくと、集中力や仕事のパフォーマンスの低下、頭痛や肩凝りを引き起こします。さらに、睡眠障害やうつ症状につながることもあります。また、スマホの長時間使用は近視を進める恐れがあります。近視が強くなると、白内障や網膜剝離などの眼病にかかる危険性が5倍以上になってしまいます。
これらの症状を改善する方法を紹介します。
それは「まばたき」です。まばたきには三つの役割があります。一つ目は、「目の表面に涙を均一に塗り広げる」ことです。まぶたがワイパーのように涙を塗り広げ、目に適度な潤いを与え、老廃物を取り除き、表面を滑らかにしています。
二つ目は「ブルーライトの遮断」です。目に入るブルーライトが一定量を超えると、目の奥が痛くなり、頭痛などを引き起こします。まばたき1回は約0・3秒で、1分間に20回とすると6秒。起きている1割の時間は目を閉じている計算になります。
三つ目は「見た情報の整理」です。人は映画を見たり、会話をしたりしている時、情報の切れ目でまばたきをしているという報告があります。脳が情報の流れに区切りを付け、内容を整理しているのです。長文に句読点がないと意味が分かりにくいですが、句読点で区切ると読みやすくなるのと同じことです。
このように私たちの目の健康を守っているまばたきですが、5回に1回は、まぶたが閉じきっていなかったり、速すぎたりして“不完全”なまばたきになっていると推計されています。不完全だと、先述した三つの役割の効果が弱まってしまいます。上下のまぶたを付けてしっかりと深くまばたきすることが、目のトラブルの改善につながります。私が推奨する「完全まばたき」をしてみてください。
「完全まばたき」は回数よりも「しっかり深く」が大切。気が付いた時に、いつもより少し長めにまぶたを着地させるイメージで行う。
① 上まぶたを下ろし、0.5秒~1秒、下まぶたとしっかり付ける
② 目を開ける
※目の周りにシワができるほど力まない
※スマホやパソコンを長時間使用する人は、まぶたを2秒間しっかり付けるのがオススメ
「完全まばたき」は視力の回復にも効果があります。目の表面が涙で滑らかに覆われることで、光が正しく屈折し、視界が鮮明になるからです。実際に、完全まばたきを心がけてから症状や視力が改善した患者さんを多く見てきました。私は、まばたきこそ「忙しい現代人にぴったりな目を守る方法」だと思っています。1日約2万回行っている「まばたき」を、目を守り、視力を回復する機会にしてください。
また、目に老廃物がたまっていると涙の油分を分泌するマイボーム腺が詰まり、目の潤いに影響します。目の際を洗う「ヨコ洗顔」で清潔を保ちましょう。
洗顔時、まぶたの際にこびりつく老廃物を湯(40度以下)で洗い流し、涙の分泌を促す。
① 両まぶたを閉じた状態で、人さし指と中指をそろえてまぶたの上に置く
② 左右の方向に優しく10回往復させる
※ベビーシャンプーや目元クレンジング剤を使用するのがオススメ
生活習慣を見直すことも大切です。特に「寝転びスマホ」は避けましょう。座っている時より目と画面の距離が縮まってしまいます。スマホは座って操作してください。
室内であれば、画面の明るさを落とし、色味を変える「ナイトモード」などの設定にすることも、目の負担を減らします。パソコンで作業をする時は、画面を目線より少し下に設置すると、視線がおのずと下向きになるため、疲れ目やドライアイのリスクが軽減されます。画面と目は40センチ以上離しましょう。
デスクワークの方にオススメなのが「20×3ルール」。近い所を20分見続けたら、20秒、20フィート(約6メートル)以上遠くを見るだけで近視を防げます。1時間に1分でもOKです。目の疲れをほぐし、老眼を予防する「目ほぐし」も効果的です。意識して目を休ませることを習慣にしてほしいと思います。
目の疲れをほぐすストレッチ。ピント調節力を鍛え、老眼予防にも効果的。
① 利き手の人さし指を目から約30センチ前に置き、指先を1秒~2秒見る
② 指先の延長線上の6メートル以上遠くを1秒~2秒見る
③ ①と②を交互に20回行う
※電車の中で「近く」と「窓の外の景色」を交互に見てもOK
あやき・まさひこ 眼科専門医。医学博士。慶応義塾大学医学部眼科学教室非常勤講師。おおたけ眼科院長。1982年、慶応義塾大学医学部卒業。ハーバード大学に留学(医学部研究フェロー)。昭和大学医学部眼科准教授、国立病院機構埼玉病院眼科医長、慶応義塾大学准教授などを歴任。学術論文を数多く執筆し、最近は老眼とドライアイについても多く扱う。
綾木さんの近著
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