信仰体験

娘へのいじめ、不登校 スマイル自分らしく〈信仰体験〉 2020年2月11日

甘えていい 逃げ出していい

 埼玉県川口市の粟飯原智恵さん(44)=白ゆり長。中学生の時、体が大きいからと、同級生からからかわれた。
 転機は創価女子短期大学時代。モダンダンス部の講師の助言で、クラブ活動と食事制限に取り組み、30キロ以上のダイエットに成功。テレビで特集された。今は、ヨガのインストラクターとして人気を集める。

 脚光を浴びてきた彼女にも、“もう無理……”と泣き崩れた日があった。
 2016年(平成28年)、母にすい臓がんが見つかり、弟は円錐角膜で失明の危機に。2年後には、父が仕事中の転落事故で脊髄を損傷。全身に重い障がいが残った。
 そんな時だった。一人娘の海さん(16)=高校1年=が、中学でいじめを受けていることが分かったのは……。

「シンクロって何だよ…」

 夫(啓之さん)は柔道が得意で、実業団に入ってた。国体で表彰台に上がるほど。
 そんな夫も、娘の海にはメロメロ。小さい頃から道場に連れてって、柔道を教えてた。
  
 でも小学生になると、海が「もう柔道やりたくない」って(笑い)。
 テレビで北京五輪を見てから、シンクロ(アーティスティックスイミング)がやりたくなったみたい。
 夫は「シンクロって何だよ……」って寂しそうだった(笑い)。
 でも海が地方遠征に行く時は、毎回必ず付き添って、応援してた。
   
 「世界大会に出る」。それが海の夢だった。
 小学1年でクラブチームに入って、放課後は練習漬け。努力が実って、高学年には全国大会でメダルが取れるようになった。
 学校でも頼られて、小学校では児童会長、中学校でも学級委員に。毎日が順調だと思ってた。あの日が来るまでは――。

目にしたスマホ 殴り書きのノート

 高校受験が迫った3年生の9月、私はふと、海のスマホを目にした。画面には、友達からのメール。
 <海、大丈夫? 今、クラスの中で、海がいじめのターゲットになってるんだよ>
 胸の奥に、刺されたような痛みが走った。“まさか、私の娘が……”
 手が震える。動悸が止まらない。何かの間違いであってほしい。
 夕方、学校まで海を迎えに行った。海は、少しずつ時間をかけて、これまでのことを話してくれた。
   
 海が配った給食だけ、クラス全員が手をつけずに残したこと。
 授業で発言した瞬間に、クラス全員が一斉に下を向いて無視したこと。
 授業でペアを組む時、独りぼっちにさせられたこと。
 嫌がらせのウソを言いふらされたこと……。
  
 学校が調査をしてくれて、いじめの事実が明らかになった。でも、海の心は晴れなかった。
 それどころか「自分の存在」を否定するようになっていった。

 この頃、学校の先生が“相談室登校”を提案してくれて、海の話を先生やカウンセラーの方が聞いてくださった。
 だけど、海は、「私のせいで、先生方は時間を取られて、仕事ができないよね。私、迷惑だよね」って。
  
 海が殴り書きしたノート。そこには海の<本当の気持ち>が、たくさん書かれてあった。
 <誰からも必要とされていない>
 <自分の気持ちを隠せば、皆が楽しくなる。でも、それを続ければ自分が壊れる>
 <無理してつくった笑顔をほめられる。苦しいよ>
  
 寝る前、海は“明日こそ学校に行きたい”と思う。でも不安で、なかなか寝付けない。
 夜が明けると、起き上がる力さえ残ってなくて……。シンクロの練習も行けなくなった。

短大の絆 創立者の指針

 ある日、私は海に言われた。
 「正しいことを、正しいって言わないで!」。“大丈夫”“乗り越えられる”。そんな言葉が、海の心を押しつぶそうとしてた。
  
 夜中に、海が家を飛び出したこともあった。駆けずり回って捜した。
 公園のベンチ。泣いていた海。息を切らして駆け寄った。
 「海! 何してるの! こんな所で……」
  
 無事で本当に良かった。
 家の玄関に入った瞬間、私は腰が抜けてしまって。海と抱き合い、泣き続けた。
 海を守りたい。でも、どうすれば……。崩れていく娘を見ていると、悔しさが込み上げる。
 正直、いじめた側の保護者や生徒を呼びつけて、海に謝らせたいとも思った。

 こんな時こそ、信心。頭では分かってる。でも、心が疲れてしまって体が動かない。
 今こそ、娘のために祈る時なのに。“私はダメな母親だな……”
  
 そんな自分が嫌で、短大時代の親友に電話した。
 「何でもっと早く言わないの! 智恵の分まで私が祈るから、あなたは海ちゃんのそばにいてあげて」
 怒ってくれた親友の声。胸の奥まで温めてくれた。
 私は思い返した。
 短大時代、仲間と学び合った創立者・池田先生の指針を。
 「誉れの十期の貴女たちよ! 強くあれ! 賢く生きよ! それが幸福への道であるからだ」
 先生はあの時、「賢く」と教えてくださった。いじめた側と同じ境涯でケンカしちゃダメだ。それじゃ、海を余計に傷つけてしまう。
  
 私にできることは、夫と一緒に、海のそばにいてあげること。
 家族3人で挑む、初めての試練。その壁はあまりにも大きくて……。苦しかった。
 そんな私たちを、励まし続けてくれた人がいた。

たった一人の卒業式

 事故で脊髄を損傷して、病院でリハビリを続けていた私の父。海のことを話したら、「元気になって、海をいじめたヤツを、おじいちゃんが張り倒してやる」って(笑い)。
 海、うれしそうだった。
 “おじいちゃんは、私のためにリハビリ頑張ってるんだ。私も誰かの力になれるんだね”って。
   
 「そのままでいいんだよ」って、励まし続けてくれた学会の人たち。一緒に祈ってくれた中等部の友達。
 「気分転換に」とホームステイで行ったカナダでは、「シンクロ教えて!」って引っ張りだこ。
 海を必要としてくれる人の輪。海の自尊心が、少しずつ戻ってきた。
   
 学校に行くことだけが、全てじゃない。苦しくなったら、そこから逃げ出したっていいんだ。

 海はシンクロには復帰できたけど、中学校のクラスには戻れなかった。
 校長室で、たった一人の卒業式。先生方が、海と一緒に校歌を歌ってくださった。
 笑顔で受け取った卒業証書。海を励まし続けてくれた体育の先生が号泣しながら「よく頑張った」って。私も夫も、もらい泣き。
  
 そんな海に、思ってもみない最高のギフトが届いた。15歳以下のシンクロ日本代表に、選ばれたって!
 夢だった世界大会。4位に入賞することができた。
  
 海は言ってた。
 「たくさんの人が、私のことを祈ってくれた。だから私も、人のことを祈っていきたい」って。
 高校に来られない友達に、小まめに連絡している海。「私って、おせっかいだよね」って笑ってる。
 そんな娘を、私は誇りに思う。

 夫㊧は未入会だけど、私たちの信仰を温かく見守ってくれてる。
 今年、結婚20周年。海㊥が、ペアグラスをプレゼントしてくれた。
 リハビリ中の父も、医師が「奇跡」と驚くくらい回復してて、母のがんも「寛解」と言われた。弟も元気に過ごしてる。
 最悪の苦境を越えて、家族の絆は、ますます強くなった。