ユース特集

〈インタビュー〉 日本一の道の駅「川場田園プラザ」の社長・永井彰一さん 2022年12月12日

〈学生記者が取材するSDGs×SEIKYO〉
働きがいのある環境づくりは
「お客さん」と「働き手」の間に
win-winの関係を築くところから

 「学生記者が取材する『SDGs×SEIKYO』」では、本社所属のスチューデントリポーター(学生記者)が、SDGsに関わる人物にインタビューをしていきます。(この取材は学生記者のまなっちが担当しました)
 

 〈永井彰一さんは2007年、群馬県川場村から、経営が赤字となっていた道の駅「川場田園プラザ」の立て直しを依頼された。以来、永井さんの奮闘により、「川場田園プラザ」は全国各地から多くの人が訪れるように。最新の「全国道の駅グランプリ2022」で、全国約1000カ所ある道の駅の中で、栄えある第1位に輝いた〉
 

今回のテーマは「働きがいも 経済成長も」

 ――村から「道の駅」の立て直し依頼をされた時の、お気持ちや状況などを教えてください。
 
 2006年、07年と立て続けに赤字経営となり、何か変革する必要があるということで、村長から直々に、道の駅の立て直しをしてくれないかと依頼されました。
 
 私は当時、実家の「永井酒造」という酒造会社を経営していました。1999年に両親から受け継ぎ、倒産の危機なども乗り越えながら、ブランドリニューアルにも成功。大学卒業後に留学していたアメリカでも違うビジネスを立ち上げ、多忙を極めていました。
 
 最初は、さすがに三つの事業を掛け持ちすることはできないと頭を抱えました。しかも、当時の道の駅は目を覆うような厳しい経営状況でした。けれど、最終的には、地域に恩返ししたいとの思いが勝ってお受けしました。
 

 ――地域への強い思いは、どこから生まれたのでしょうか。
 
 両親の影響が大きいと感じています。
 
 特に父親は、家業のみならず、村長を務めていました。たとえ、お金がなくても、川場村のためには何でもするという精神で行動する父に、地域の方々も厚い信頼を寄せていました。
 
 そのような姿を間近で見て育ちましたので、“いつか、自分も地域のために恩返ししたい”との思いが芽生えていったのでしょう。
 
 また、幼いながらも、お酒づくりや配達の手伝いを通し、周囲に貢献する楽しさを感じたのも大きかったと思います。
 

 ――具体的には、どのように「道の駅」の経営を立て直していかれたのですか。
 
 私が社長に就任した07年当初、社員にサービス業という考え方が一切なく、周りからも「ゴミをまたぐ田園プラザの社員」「あいさつができない田園プラザの社員」と、辛辣な意見が飛び交っていました。
 
 また、「道の駅」内の他店舗がどんなに忙しそうでも、自分の店は関係ないというような非協力的な雰囲気もありました。
 
 やはり経営は一人ではできません。全員で同じ方向に向かって取り組む必要があります。そのため、社員の皆さんのモチベーションや考え方を変える「意識改革」から始めました。
 
 心がけたのは、現場で社員と共に働き、自身の姿を示すことです。
 
 まずは「本気でやる」と宣言し、朝6時からトイレ掃除を始めました。トイレのきれいさは、施設のイメージを大きく左右します。社員にも「便器はなめられるくらいきれいに」と声をかけ、その他、施設内のゴミ拾いも徹底してやりました。細かいようですが、ホースの置き方一つも指摘しました。
 
 やがて社員は、私に言われなくても自発的に掃除に取り組むようになり、園内は誰が見ても恥ずかしくないくらい、ピカピカに生まれ変わりました。
 
 売り上げ目標は、当時の2倍に当たる10億円と明確に掲げ、誰からも無理だと言われましたが、3年目には達成することができました。13年に、本業の永井酒蔵の経営を弟に引き継ぎ、現在は、道の駅とアメリカの会社の経営に集中しています。私は、今でも土日や祝日にかかわらず、実際に現場に入って皿洗いをするなど、社員と共に働くことを心がけています。
 

 ――「意識改革」だけでなく、売り上げを伸ばせた原動力をお聞かせください。
 
 情報機器を活用した管理体制・分析などの貢献も大きいと思います。
 
 野菜や果物などの在庫に関しては、レジに通した個数をコンピューター管理しています。在庫が少なくなると、出荷してくださっている農家さんに一斉メールを送り、すぐに新鮮な商品を届けてもらう仕組みをつくりました。
 
 他の直売所でも、このような管理をしていることが多いですが、私たちはデータを細かく分析。さらに、農家の方に、マーケティングの手法を教えるといった取り組みもしています。
 
 こうした戦略で一番成功したのが、とうもろこしです。
 
 「川場田園プラザ」では近隣の直売場よりも2割高い価格で販売し、年間4500万円の売り上げを出しています。
 
 これは、月別の野菜の品目と、単価をまとめた表を農家の方に定期的に配布し、いつどの作物が高く売れるのかを分析。また、群馬県内で生産される野菜の生産量も明示し、近隣農家との競合にいかに打ち勝つかを考えてもらった結果です。
 
 マーケティングの手法を、多くの農家が取り入れる中で、市場価格が高い時期に、とうもろこしを出荷できるよう挑戦し、売り上げを伸ばすことができました。
 
 このような工夫が売り上げ向上につながり、農家の方のやりがいも、高めることができました。
 

 ――経営改善により、地域の経済・雇用状況などには、どのような変化がありましたか。
 
 地方創生や地域活性化では、地域内での経済波及効果があることが一番大切です。どんなにきれいごとを言っても、携わってくださる方々の収入が増えなければ、地域は活気づきません。
 
 道の駅の「ファーマーズマーケット」では、周囲の農家が、自分でつくった農産物を直接、売りに出しますが、そこの売り上げは年間約6億円で、過去最高を更新中です。
 
 また、道の駅では、正社員を51人、パートを120人ほど雇用しています。当初に比べ、120~130人ほど雇用は増えました。村を出て銀行や役場などに勤めていた人が、Uターンで実家に戻り、第二の人生として、働き始めるという動きもあります。
 
 ――SDGsの目標8「働きがいも経済成長も」達成の鍵は何だと思いますか。
 
 お客さんと働き手の間で、win-winの関係をつくることができれば、自然と働きがいのある環境へと変化していきます。
 
 アメリカの会社も経営している私に対し、以前、「二足のわらじを履いたものに、道の駅の立て直しができるのか」と不満を漏らす農家の人もいました。しかし、野菜が売れ、お客さんからの評価が高くなるにつれ、「ちょっと食べてみて。社長には元気を出してほしいから」と差し入れをくださるようになりました。
 
 本当に満足して言う「ありがとうございます」と、儀礼で言う「ありがとうございます」の違いは、すぐに分かります。お客さんに心の底から満足してもらえる、商品やサービスを提供する――これが働き手にとってのやりがいと経済成長につながると私は思います。
 

 ――永井さんは、池田先生の小説「人間革命」を読んだことがあると伺いました。
 
 アメリカに滞在していた20代の頃です。現地のSGIの方からの勧めで、小説「人間革命」を読みました。学会の「目の前の一人のために」という精神は、私の地域貢献への思いに通じるものがあると感じました。
 
 今も学会員の皆さんに接する機会が多いのですが、精力的に活動に励む様子には、いつも驚かされますし、元気をもらっています。以前、聖教新聞の地方版に掲載していただいたのですが、学会員の方からの反響が大きく、皆さん、新聞を本当によく読み込んでいるなと感銘を受けました。
 
 特に、これからは女性部、青年部の皆さんが中心となって活躍する時代ですね。期待しています。
 
 ――地域貢献やSDGsに興味・関心のある若者や学生へのメッセージをお願いします。
 
 内向きになるのではなく、外へと目を向け、いろいろなものを吸収してほしいです。
 
 私は、道の駅の立て直しをする上で、海外の商品やサービスなどを徹底的に研究しましたが、発展途上国や先進国には、それぞれの良さがあり、日本にはない良さが、たくさんあることに気がつきました。一方、日本にも良さがあります。
 
 これからの皆さんの役割は、それらを融合させ、新たな価値を生むことだと思います。
 
 まずは、ネット上の情報などに流されずに、ぜひ現場に足を運び、自分の目で見て肌で感じたことを大切にしてください。
 

〈プロフィル〉
 法政大学法学部卒業後、カナダ・バンクーバーに留学。帰国後、永井酒造株式会社に入社。1999年代表取締役社長に就任。こだわりの酒造りを実践し、国内外で高い評価を得る。2007年川場村からの要請により、株式会社田園プラザ川場代表取締役社長に就任。スタッフの意識改革を通し、同プラザを全国屈指の人気を誇る道の駅に導く。現在は、米国法人R&S Kawaba Management LLC CEO、川場村観光協会会長を兼任。
 
 
 
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