増加傾向にある子どもの自殺者数
増加傾向にある子どもの自殺者数
私がライフリンクを設立したのは2004年10月です。この20年のうちに自殺対策は大きく前進しました。ひとことで言えば、自殺が“個人の問題”から“社会の問題”に変わりました。
ライフリンクとしては、設立当初から、誰も自殺に追い込まれることのない「生き心地のよい社会」づくりに取り組んできました。自殺を思いとどまっても、生き地獄であれば根本的な解決にならないからです。日本の自殺者数は03年に過去最多の3万4427人だったのが、近年は2万人強です。ただし、最近は子ども・若者の状況が深刻で、高校生以下の自殺はむしろ増加傾向にあります。
とりわけ子どもの自殺については、これまでとは違ったアプローチが求められています。大人の場合は、失業・生活苦・借金・人間関係・過労・介護疲れなどの悩みが取り除かれれば、自殺を思いとどまるケースが多いのですが、子どもの場合は明確な悩みがあるわけではなく、そもそも本人が生きていこうと思えていないというケースも多い。
高校生以下の自殺が増加しているという現状は、生き心地のよい社会づくりという、より根源的な対策の必要性が高まっている証左だと思います。子どもは大人以上に社会の影響を受けやすい存在だからです。生き心地のよさには、対策や教育ではカバーしきれない価値観や宗教心も関連している気がしています。
子どもの自殺については、これまではその実態が十分に検証されてきませんでした。そこで私が代表理事を務める「いのち支える自殺対策推進センター」は昨年度、こども家庭庁の委託を受けて自殺で亡くなった児童・生徒の実態分析を行いました。
教育委員会等から提供された事例は272人分と、あくまで一部でしたが、分析でわかったのは、亡くなる直前まで普通に学校に通っていた子が全体の44%に及んでいる実態でした。周囲が変化に気づいていなかったのか、本人も自分の生き辛さをうまく言語化できなかったのか。そのあたりの検証は引き続き進めていかなければなりません。
この実態分析は今年度も継続して行っています。子どもの自殺が分析の対象になったことは大きな前進です。
私がライフリンクを設立したのは2004年10月です。この20年のうちに自殺対策は大きく前進しました。ひとことで言えば、自殺が“個人の問題”から“社会の問題”に変わりました。
ライフリンクとしては、設立当初から、誰も自殺に追い込まれることのない「生き心地のよい社会」づくりに取り組んできました。自殺を思いとどまっても、生き地獄であれば根本的な解決にならないからです。日本の自殺者数は03年に過去最多の3万4427人だったのが、近年は2万人強です。ただし、最近は子ども・若者の状況が深刻で、高校生以下の自殺はむしろ増加傾向にあります。
とりわけ子どもの自殺については、これまでとは違ったアプローチが求められています。大人の場合は、失業・生活苦・借金・人間関係・過労・介護疲れなどの悩みが取り除かれれば、自殺を思いとどまるケースが多いのですが、子どもの場合は明確な悩みがあるわけではなく、そもそも本人が生きていこうと思えていないというケースも多い。
高校生以下の自殺が増加しているという現状は、生き心地のよい社会づくりという、より根源的な対策の必要性が高まっている証左だと思います。子どもは大人以上に社会の影響を受けやすい存在だからです。生き心地のよさには、対策や教育ではカバーしきれない価値観や宗教心も関連している気がしています。
子どもの自殺については、これまではその実態が十分に検証されてきませんでした。そこで私が代表理事を務める「いのち支える自殺対策推進センター」は昨年度、こども家庭庁の委託を受けて自殺で亡くなった児童・生徒の実態分析を行いました。
教育委員会等から提供された事例は272人分と、あくまで一部でしたが、分析でわかったのは、亡くなる直前まで普通に学校に通っていた子が全体の44%に及んでいる実態でした。周囲が変化に気づいていなかったのか、本人も自分の生き辛さをうまく言語化できなかったのか。そのあたりの検証は引き続き進めていかなければなりません。
この実態分析は今年度も継続して行っています。子どもの自殺が分析の対象になったことは大きな前進です。
しんどい人のためのWeb空間
しんどい人のためのWeb空間
実は、子どもの自殺は日本だけでなく、韓国やアメリカでも増加傾向にあります。この10月に開催されたWHO(世界保健機関)の「Mental Health Forum」に参加すると、スウェーデンでも増えているという報告がありました。もしかするとSNSやインターネットの影響があるのかもしれませんが、重要なのは大人の視点で安易にわかった気にならない胆力だと思います。
ただし、実態が解明されるまで具体的な対策が何も打てないようでは困ります。ライフリンクは新たな試みとして、生きるのがしんどい人のためのWeb空間「かくれてしまえばいいのです」を本年3月に開設しました。
このWeb空間は匿名・無料で24時間利用でき、辛い思いを抱えながら生きている著名人の体験談や、しんどいときの対処法、辛い現実から目を背けるためのゲームなどが用意されています。「かくれてしまえばいいのです」はこの10月時点でアクセスが1100万回を超えました。これは運営している私どもにも驚きの数字であり、大変な思いをしている人々がいかに多いかをあらためて実感しました。
あくまで私見ですが、「かくれてしまえばいいのです」が、辛い思いをしている人たちに認知されつつある大きな理由は、少なくとも2つあると考えています。
1つは、イラストだけでなく空間のコンセプトも含めて、子どもや若者から絶大な支持を得ている絵本作家・イラストレーターのヨシタケシンスケさんにお願いしたことです。ヨシタケさんも、生き辛さを抱えながら生きる著名人の1人です。
「隠れる」という全体のコンセプトや、この空間で重要な役割を果たす高齢女性の「むかんけいばあちゃん」というネーミングなどはすべて、ヨシタケさん自身の体験からデザインされています。先述の著名人の体験談も含めて、辛い思いをしながら自殺をとどまっている人の経験を共有することには、自殺を抑制する働きがあるといわれています。
もう1つは、ライフリンクが20年かけて積み重ねてきた経験則です。私たちには、子ども・若者にとって相談はハードルが高いということや、対面よりもSNSやネット上のほうが気を許せるといった経験的な知見があります。対策にはエビデンスが必要なことはよく承知したうえで、実務的にはそうした経験則も生かしていく。そして、むしろ実務で得られた結果からエビデンスを抽出していく。そのような方針が今のところは奏功しているのではないかと受け止めています。
実は、子どもの自殺は日本だけでなく、韓国やアメリカでも増加傾向にあります。この10月に開催されたWHO(世界保健機関)の「Mental Health Forum」に参加すると、スウェーデンでも増えているという報告がありました。もしかするとSNSやインターネットの影響があるのかもしれませんが、重要なのは大人の視点で安易にわかった気にならない胆力だと思います。
ただし、実態が解明されるまで具体的な対策が何も打てないようでは困ります。ライフリンクは新たな試みとして、生きるのがしんどい人のためのWeb空間「かくれてしまえばいいのです」を本年3月に開設しました。
このWeb空間は匿名・無料で24時間利用でき、辛い思いを抱えながら生きている著名人の体験談や、しんどいときの対処法、辛い現実から目を背けるためのゲームなどが用意されています。「かくれてしまえばいいのです」はこの10月時点でアクセスが1100万回を超えました。これは運営している私どもにも驚きの数字であり、大変な思いをしている人々がいかに多いかをあらためて実感しました。
あくまで私見ですが、「かくれてしまえばいいのです」が、辛い思いをしている人たちに認知されつつある大きな理由は、少なくとも2つあると考えています。
1つは、イラストだけでなく空間のコンセプトも含めて、子どもや若者から絶大な支持を得ている絵本作家・イラストレーターのヨシタケシンスケさんにお願いしたことです。ヨシタケさんも、生き辛さを抱えながら生きる著名人の1人です。
「隠れる」という全体のコンセプトや、この空間で重要な役割を果たす高齢女性の「むかんけいばあちゃん」というネーミングなどはすべて、ヨシタケさん自身の体験からデザインされています。先述の著名人の体験談も含めて、辛い思いをしながら自殺をとどまっている人の経験を共有することには、自殺を抑制する働きがあるといわれています。
もう1つは、ライフリンクが20年かけて積み重ねてきた経験則です。私たちには、子ども・若者にとって相談はハードルが高いということや、対面よりもSNSやネット上のほうが気を許せるといった経験的な知見があります。対策にはエビデンスが必要なことはよく承知したうえで、実務的にはそうした経験則も生かしていく。そして、むしろ実務で得られた結果からエビデンスを抽出していく。そのような方針が今のところは奏功しているのではないかと受け止めています。
ネットワークによる自殺対策を
ネットワークによる自殺対策を
法律や制度は一朝一夕には変わらない。難しい問題だからこそ、一筋縄では解決できない。しかし、諦めてしまっては、生き心地のよい社会は一向に実現できない――。20年の活動を経て、つくづくそう感じています。
「ライフリンク」という法人名には、「いのち(ライフ)を守るために、みんなでつながろう(リンク)」という意味を込めています。私たちは、他の民間団体や行政、国会議員、メディアなどなくしては何もできません。つながることで社会を動かしていける。法人の設立当初からそうした考え方で活動してきました。
なかでも、超党派の「自殺対策を推進する議員の会」なしには、自殺対策はここまで進展しなかったと思います。公明党のなかで最も尽力してくださっているのは、谷合正明参議院議員です。同議連は、2025年の通常国会で自殺対策基本法を改正し、子どもの自殺対策を法律に位置づける方向で議論を進めてくださっています。公明党の自殺対策に関するスタンスには親和性を感じているので、谷合さんには引き続き大いに期待しています。
公明党に関しては、国会議員と地方議員の強固なネットワークにも期待しています。自殺対策の実効性を高めるために最も重要な役割を担うのが地方自治体であり、自殺対策基本法においてすべての地方自治体は地域自殺対策計画を策定することとされています。
公明党議員の皆さんは勉強熱心で安定感があるので、ぜひ各議会で自殺対策をリードしていただきたいと思います。自殺は個人の問題ではなく、社会の問題です。その認識を多くの人々に持っていただければうれしいです。
法律や制度は一朝一夕には変わらない。難しい問題だからこそ、一筋縄では解決できない。しかし、諦めてしまっては、生き心地のよい社会は一向に実現できない――。20年の活動を経て、つくづくそう感じています。
「ライフリンク」という法人名には、「いのち(ライフ)を守るために、みんなでつながろう(リンク)」という意味を込めています。私たちは、他の民間団体や行政、国会議員、メディアなどなくしては何もできません。つながることで社会を動かしていける。法人の設立当初からそうした考え方で活動してきました。
なかでも、超党派の「自殺対策を推進する議員の会」なしには、自殺対策はここまで進展しなかったと思います。公明党のなかで最も尽力してくださっているのは、谷合正明参議院議員です。同議連は、2025年の通常国会で自殺対策基本法を改正し、子どもの自殺対策を法律に位置づける方向で議論を進めてくださっています。公明党の自殺対策に関するスタンスには親和性を感じているので、谷合さんには引き続き大いに期待しています。
公明党に関しては、国会議員と地方議員の強固なネットワークにも期待しています。自殺対策の実効性を高めるために最も重要な役割を担うのが地方自治体であり、自殺対策基本法においてすべての地方自治体は地域自殺対策計画を策定することとされています。
公明党議員の皆さんは勉強熱心で安定感があるので、ぜひ各議会で自殺対策をリードしていただきたいと思います。自殺は個人の問題ではなく、社会の問題です。その認識を多くの人々に持っていただければうれしいです。