企画・連載

〈大学は何ができるか 創大✕八王子〉 地域の「担い手不足」解消と「つながり」づくり 2026年2月6日

創大生が街の中へ人の中へ

 大学には今、地域と協働して社会課題の解決に取り組む役割が期待されています。東京・八王子市における創価大学の実践を追う企画「大学は何ができるか」。今回は「地域の『担い手不足』解消と『つながり』づくり」です。(取材=大宮将之)

八王子駅北口商店会会長
「若い力で街の“空気”が変わった」
■長年の課題は

 都内に雪の予報が出るたび、なぜかテレビ局のカメラが集まる所があります。JR八王子駅の北口です。
  
 八王子市は都心と比べて気温が低いため、降雪量が多く、映像として絵になりやすいのでしょう。「あの『八』の字のモニュメントが立つデッキがある所ね」と思い起こす都外の人も、少なくないはず。

 ただ、この北口エリアに“皆が集まりたくなる彩り”を春夏秋冬、生み出している人々の存在は、まだ広く知られていないかもしれません。
  
 4月に花のポットを配布する「花と緑のふれあいイベント」。7月の七夕まつり。夏の縁日。春と秋の古本チャリティーに、冬の甘酒大会やイルミネーション・プレゼント企画……これら全てを担うのが、八王子駅北口商店会です。
  
 人口約58万人の中核市とはいえ、少子高齢化で地域活動の「担い手の減少」は人ごとではありません。商店会の役員の平均年齢は、70代後半です。これだけのイベントを行うのは、さぞかし大変では?
  
 「そう、だから『若い力』との継続的な協力体制づくりが、長年の課題でした」と、同商店会の清水栄会長は語ります。
  
 八王子生まれの八王子育ち。行政書士として働く傍ら、20年近く商店会の活動に携わってきました。2017年、八王子初の女性の商店会会長に。腰の低さと気さくな人柄から「さかえちゃん」の愛称で親しまれています。

 清水会長はずっと、商店街を「買い物する場所」から「人がつながる居場所」に進化させたいと考えていたそうです。
  
 「その思いに共感して声をかけてくださったのが、創価大学の西川ハンナ先生(文学部准教授)でした。『私のゼミでは社会福祉を学んでいます。ぜひ、学生が街づくりに継続して関わる仕組みをつくらせていただけませんか。学生たちにとっても“本当の学び”になると思うんです』って」

■「下山しよう」

 ここで疑問に思う人もいるのではないでしょうか。「文学部で福祉?」と。
  
 福祉とは一面、支え合う「つながり」と言えるでしょう。個人や家庭だけでは解決が難しい社会的な困難が拡大する中、地域の「つながり」を再構築することが、今ほど求められている時代はありません。
  
 とはいえ、ただ「つながろう!」と呼びかけるだけでは、実際には難しい。皆が楽しく、自然とつながりたくなるような「伝える力」「表現する力」「物語る力」が必要です。

 西川ゼミが目指すのは、「地域独自の歴史や文化の価値を、現代の人たちにも伝わるように再解釈して、新たな表現を創造し、皆がつながりたくなる物語を紡ぐこと」。それを可能にする力は、机上の学問だけでは培えません。実際に街の中に出て、人々と対話・協働して初めて見えること・気付けることがあり、磨かれる感性もあるからです。
  
 ゆえに西川准教授は学生たちに常々、ユーモアを込めて「下山しよう」と言っているそうです。山とは、創価大学のキャンパスが立つ自然豊かな「丹木の丘」を指しています。
  
 キャンパスでの理論的な学びと、地域での実践的な学びとの往還の中でこそ、社会課題を解決する価値創造の力は育まれる――と。

■三つの発見

 清水栄・商店会会長が就任して間もなく、創大や杏林大学をはじめとした八王子にキャンパスを持つ大学との連携が始まりました。
  
 「学業と連動して活動できる形を」と、西川准教授と共に検討し、2021年に生まれたのが「八王子駅北口商店会サポーターズ」という制度です。就職活動のエントリーシートなどに活動実績として明記できるようになりました。
  
 主な活動は二つ。一つは「ブログ」の作成です。すてきなお店や街のイベントの紹介記事を、商店会のブログで発信します。学生たちは街を歩き、取材することで、暮らしを営む人々の思いや、土地と結びついた歴史・文化を学びます。
  
 もう一つは「イベントの企画・準備・運営」です。一連の流れを通して関わることで、学生たちは街づくりに携わる苦労も喜びも味わいます。ときに生まれる「意見の対立」も、多様な視点から新しいアイデアを生み出す「創造的な対話のチャンス」であることを、実感の上で知るのです。

「七夕」「縁日」「古本チャリティー」「クリスマス」
新たなイベント「桑の日ウェルフェス」まで

 西川ゼミ生の多くは都外の出身。話を聞くと、街づくりに関わる前は見えていなかった“地域資源”を、“発見”できたという事実が共通していました。それは、大きく三つ――
  
 ①八王子市民の郷土愛と温かさ
 ②八王子の歴史と文化の豊かさ
 ③自分の故郷の街づくりに携わってくれていたであろう人々の存在
 
 ――です。

 商店会にも「発見」「感謝」が生まれていると、清水会長は言います。
 「私たち“昔からの住民”にはない、学生の皆さんの斬新な視点や発想には驚かされるばかりです。体力や運動量の面でも、どれほど助かっているか。若い力で街の空気が変わりました」

■桑都の物語から

 昔々……といっても江戸時代のことですが、養蚕が盛んだった八王子は「桑都」と呼ばれていました。魅力ある“桑都文化”を育んできた物語は「日本遺産」に指定されています。

 桑は過去のものではありません。実は今も食品や生活の中に息づいています。西川ゼミは2022年、八王子産の食用桑を青汁やパウダーとして提供する創輝株式会社と共催し、「桑の日ウェルフェス」というイベントを立ち上げました。
 
 「くわ」の語呂合わせで9月8日を「桑の日」と定め、毎年開催しています。

 「多くの人に親しんでもらいたい」と、学生たちが「桑の日」キャラクターの「くわるん」を発案。市内の企業・施設と協働し、オリジナルTシャツのデザインから、3Dプリンターを用いた立体化まで手がけました。

 フェスの参加者は年々、増加。昨年は2000人が来場しました。八王子市に新たな「つながり」をもたらしています。

■創価大学文学部の西川ハンナ准教授に聞く
「八王子で」ではなく
「八王子と」の思いで

 八王子の人々と創大生とが協働する中で感じていることとは? 西川ハンナ准教授に聞きました。
  
 ◆◇◆ 
  
 私自身は長野県諏訪市の出身です。日本ルーテル神学大学を卒業後、社会福祉学を専門とし、地域に関わる実践を記録・言語化してきました。創価大学に赴任したのは2017年です。
  
 八王子は、学生の学びのために「快く胸を貸してくださる場所」であり、かつて甲州街道最大の宿場町として栄えた「豊かな歴史と文化を持つ街」であり、福祉・文化・教育・経済が交差する独自の可能性を宿した「未来都市」であるというのが、私の偽らざる実感です。

 首都圏の私立大学では近年、少子化による学生獲得競争の激化を受け、教育・研究の効率化、産学連携の強化などを目指して、郊外から都心部へキャンパスを移転・集約する「都心回帰」が進んでいます。
  
 しかし私はむしろ、創価大学は「八王子市にキャンパスがあること」に大きな意義があり、それを「強み」にしていくべきだと考えています。 
  
 「地域の人々とつながる」
 「土地の歴史や文化を学ぶ」
 「課題や価値を見つけ、伝える」
 「課題を解決する知恵と新たな価値を共に創り出す」
  
 ――こうした「大学での学びを社会に拓く」サイクルを回し続けることにおいて、八王子ほど魅力的な街は、ないのではないでしょうか。

 その上で、学生たちが地域と協働する心構えとして大切なことは「八王子で」何かをしようというのではなく、「八王子と」共に進んでいこうとする姿勢だと、私は思っています。「八王子に暮らす人々の“顔”が見える関係」「“思い”を共有できるつながり」を築くこととも言えるでしょうか。
  
 ゼミ生の取り組みには八王子駅北口商店会サポーターズや桑の日ウェルフェスのほか、「ASAメール」の学生ライター活動があります。地元の朝日新聞販売店が発行する折り込み情報紙の取材・執筆に携わるものです。
  
 地域の小さな営みや風景に新たな意味を見いだし、それを言葉にして、読者との間に共感の回路をつくり出そうと、学生たちは試行錯誤を重ねています。ある読者は「学級便りのようなあたたかさ」と表現してくださいました。
  
 ゆるやかな「つながり」をつくること、それ自体が、自分にとっても、誰かにとっても、安心と幸せを感じられる「居場所づくり」に通じます。その小さな積み重ねの中に豊かな学びも、社会課題を解決する糸口も、あると信じてやみません。

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