あっという間の1時間――いや、圧倒された1時間と言うべきか。「哲学カフェ」と称するオンラインの集まりで、高校生たちが自分の意見を堂々と、そして楽しげに語り合っていた。
岡山に拠点を置き、全国から生徒を受け入れる「広域通信制高校」が毎週金曜18時から実施しているもので、一般の人々にも公開されている。
あっという間の1時間――いや、圧倒された1時間と言うべきか。「哲学カフェ」と称するオンラインの集まりで、高校生たちが自分の意見を堂々と、そして楽しげに語り合っていた。
岡山に拠点を置き、全国から生徒を受け入れる「広域通信制高校」が毎週金曜18時から実施しているもので、一般の人々にも公開されている。
主宰者は教員の福盛直樹さん(大阪・摂津創価県、支部長)。関西弁の進行が小気味よい。親しみを込めて一人一人の下の名前を呼びつつ問い、意見を丁寧に拾う。「それって、どういう意味やろ?」「ほんまに、それでええか?」。カントやウィトゲンシュタインなど先哲の言葉を自由自在に引用しながら、一緒に探究していく。
これまで約60のテーマを扱ってきた。「いい学校に入ることに意味はある?」「SNSで『いいね!』を求めるのは悪いこと?」「嫌なことから逃げてもいい?」等々。
同校の設立は3年前。「学びの真ん中に『教養』を」と掲げ、「哲学探究」を柱の一つに据える。なぜか。「簡単には答えを一つに絞れない」現代社会を生きる上で、考えの異なる他者との対話を通して「深く考える技術」「価値を創造する力」が欠かせないからだ。福盛さんは開校時から、教養全般の授業の企画・運営に加え、教員指導担当も校長から任されている。全教員必携の参考文献の一冊は、牧口先生の『価値論』だという。
主宰者は教員の福盛直樹さん(大阪・摂津創価県、支部長)。関西弁の進行が小気味よい。親しみを込めて一人一人の下の名前を呼びつつ問い、意見を丁寧に拾う。「それって、どういう意味やろ?」「ほんまに、それでええか?」。カントやウィトゲンシュタインなど先哲の言葉を自由自在に引用しながら、一緒に探究していく。
これまで約60のテーマを扱ってきた。「いい学校に入ることに意味はある?」「SNSで『いいね!』を求めるのは悪いこと?」「嫌なことから逃げてもいい?」等々。
同校の設立は3年前。「学びの真ん中に『教養』を」と掲げ、「哲学探究」を柱の一つに据える。なぜか。「簡単には答えを一つに絞れない」現代社会を生きる上で、考えの異なる他者との対話を通して「深く考える技術」「価値を創造する力」が欠かせないからだ。福盛さんは開校時から、教養全般の授業の企画・運営に加え、教員指導担当も校長から任されている。全教員必携の参考文献の一冊は、牧口先生の『価値論』だという。
今や、全国の高校生の12人に1人が通信制に通う時代。背景には不登校の増加もあるとされる。福盛さんの勤務校にも不登校だった生徒は多い。それが皆、生き生きと学びに向かうようになる。
「“何のために学ぶのか”をとことん哲学する場があり、人とは違う考えや意見を安心して言える居場所があるからだと思います」(福盛さん)
創価大学9期生。今、あらためてかみ締めるのは、「英知を磨くは何のため 君よそれを忘るるな」との創立者・池田先生の指針だ。
今や、全国の高校生の12人に1人が通信制に通う時代。背景には不登校の増加もあるとされる。福盛さんの勤務校にも不登校だった生徒は多い。それが皆、生き生きと学びに向かうようになる。
「“何のために学ぶのか”をとことん哲学する場があり、人とは違う考えや意見を安心して言える居場所があるからだと思います」(福盛さん)
創価大学9期生。今、あらためてかみ締めるのは、「英知を磨くは何のため 君よそれを忘るるな」との創立者・池田先生の指針だ。
先生はかつて、不登校になった子どもたちの心情を代弁するように、こう語った。「自分は『なぜ、生まれたのか』『なぜ、学校に行かなければいけないのか』。成績のためでもない。お金もうけのためでもない。いい大学に行ったり、いい会社に入ることが、どれだけ意味があるのか。学校も親も、この『なぜ』に答えてくれない」
自分の疑問や意見を大人に訴えても、受け止めてもらえない経験を重ねてきた子は少なくない。だからこそ福盛さんは、全身全霊で一人一人と向き合う。オンライン授業を通じて全員の顔と名前を覚えることは大前提。それぞれの特性の理解にも努め、年2回の合宿型スクーリングを迎える。
「一人を大切に。今この時を大切に」。その思いで話に耳を傾け、表情や声からも思いを汲み取ろうとする営みがあってこそ、学びの場に温かな人間の血は通う。
対面での哲学の授業中に、「なぜ自殺をしたらいけないのか」と問うてきた生徒がいた。福盛さんは目を見つめ、凜とした声で答えた。「自殺する権利はあっても、実行する権利が君にないからだ」――本年3月、同校が開校して初めて迎えた卒業式で、その生徒は、ずっと福盛さんのそばを離れようとしなかった。
先生はかつて、不登校になった子どもたちの心情を代弁するように、こう語った。「自分は『なぜ、生まれたのか』『なぜ、学校に行かなければいけないのか』。成績のためでもない。お金もうけのためでもない。いい大学に行ったり、いい会社に入ることが、どれだけ意味があるのか。学校も親も、この『なぜ』に答えてくれない」
自分の疑問や意見を大人に訴えても、受け止めてもらえない経験を重ねてきた子は少なくない。だからこそ福盛さんは、全身全霊で一人一人と向き合う。オンライン授業を通じて全員の顔と名前を覚えることは大前提。それぞれの特性の理解にも努め、年2回の合宿型スクーリングを迎える。
「一人を大切に。今この時を大切に」。その思いで話に耳を傾け、表情や声からも思いを汲み取ろうとする営みがあってこそ、学びの場に温かな人間の血は通う。
対面での哲学の授業中に、「なぜ自殺をしたらいけないのか」と問うてきた生徒がいた。福盛さんは目を見つめ、凜とした声で答えた。「自殺する権利はあっても、実行する権利が君にないからだ」――本年3月、同校が開校して初めて迎えた卒業式で、その生徒は、ずっと福盛さんのそばを離れようとしなかった。
入学時に偏差値30台だったところから難関大学に合格した生徒や、アメリカの大学に進んだ生徒など、全員が第1志望の進路へ。福盛さんの母校の後輩になった卒業生もいる。
「なぜ」「何のため」との問いを、共に真剣に、考え続けてくれる大人と出会える――生徒たちにとって「幸福のための教育」は、そこから始まるのだろう。
※ルポ「つなぐ」では、子どもや保護者と心をつなぎ、地域の人と人とをつなぐ教育本部の友を取材しながら、「子どもの幸福」第一の社会へ私たちに何ができるかを考えます。
入学時に偏差値30台だったところから難関大学に合格した生徒や、アメリカの大学に進んだ生徒など、全員が第1志望の進路へ。福盛さんの母校の後輩になった卒業生もいる。
「なぜ」「何のため」との問いを、共に真剣に、考え続けてくれる大人と出会える――生徒たちにとって「幸福のための教育」は、そこから始まるのだろう。
※ルポ「つなぐ」では、子どもや保護者と心をつなぎ、地域の人と人とをつなぐ教育本部の友を取材しながら、「子どもの幸福」第一の社会へ私たちに何ができるかを考えます。