仏法の教え
〈子どもと学ぶ仏教説話――ミライの冒険〉 雪山の少年とオニ 2025年5月8日
創作童話「子どもと学ぶ仏教説話――ミライの冒険」では、主人公のミライが、仏教説話の世界を巡る冒険に出かけます。座談会の未来部コーナーなどでご活用ください!(イラスト 逸見チエコ)
雪が降りしきる山の中に、ミライはいました。
一人の少年が、歩いてきます。
「ここで何をしているの?」
「幸せになるための教えを見つけるのが夢なんだ。だけど、なかなか見つからなくて……」
「ミライも、いっしょに探すよ!」
二人が雪山をあてもなく歩いていると、どこからか声が聞こえてきました。
「どんな、つらいことがあったとしても……」
「これは、幸せになれる教えにちがいない。続きを聞きたい!」
声のする方へ行ってみると、そこには、恐ろしいオニがいました。
ミライは怖くてブルブルとふるえましたが、少年は、オニに話しかけます。
「いま、あなたが口にしていた教えの続きを聞かせてください」
「いいだろう。けれど、私は腹がへっている。君を食べさせてくれるのなら、続きを教えよう」
「わかりました」と少年が答えると、オニは教えの続きを語り始めました。
少年とミライは、ほかの人に教えを残せるよう、石や木に、その言葉を必死に刻みました。
「さあ、約束だ。君の命をいただこう。約束を守らないなら、もう一人の命もいただいてしまうぞ」
「約束は守ります」
そう言うと、少年は、高い木の上に登りました。
そして、大きく開いたオニの口に飛び込んだのです。
「そんな……!」
ミライは、思わず目をつむりました。
しかし、やけに静かです。目を開けると、オニは優しそうな人のすがたへと変わり、少年を抱きかかえていました。
「君たちを試したのです。夢に向かって突き進む君たちなら、きっと、どんな困難も乗りこえて、みんなも幸せにしていくことができるでしょう」
やがて少年は、この時に学んだ教えを多くの人に語り、幸せを広げていきました。
(つづく。前回は4月10日付)
釈尊の過去世の姿を描いた「雪山童子」の説話が、今回のお話の基になっています。
説話では、雪山で仏道修行に励む童子の求道心を試すために、帝釈天が羅刹(鬼)となって現れ、仏の説いた言葉の半分を聞かせます。童子は羅刹に、続きを教えてくれれば、わが身を与えると約束。続きを聞いた童子が木の上から身を投げると、羅刹は帝釈天の姿に変わって彼を受け止め、その求道の心をたたえ、未来の成仏を説きました。
真実の教えを求め抜く、雪山童子の真剣な生き方が胸に残る説話です。
私たちにとって“身を投げる”とは、命を投げ出すことではなく、“命を使う”ことではないでしょうか。池田先生は「迷うことなく、一心不乱に法を求めて、突き進むなかに、成仏得道がある」と。法を求め続ける使命の人生に幸福は輝くのです。