健康・介護
〈健康PLUS〉 憂鬱以上、うつ未満――それって「半うつ」ですよ 2026年2月21日
平光源さん
仕事や学業、人間関係のストレスなどで憂鬱な気分を抱えたまま頑張り続けると、“脳のエネルギー”が枯渇し、うつ病のリスクが高まります。話題作『半うつ 憂鬱以上、うつ未満』の著者で精神科医の平光源さんに“半うつ”時での気付きや対策について聞きました。
うつ病の診断基準は、次の九つのうち、①または②を含む五つ以上が2週間以上ほぼ毎日続き、日常生活に支障を来している状態としています(アメリカ精神医学会)。
①抑うつ気分(悲しい、むなしい、なぜか涙が出る)②興味・喜びの消失③体重・食欲の変化④睡眠障害⑤精神運動の変化(そわそわして落ち着かない、または動作が鈍くなる)⑥疲労感・気力の低下⑦無価値観・罪悪感⑧思考力・集中力の低下⑨死への思い。
一方で憂鬱とは、一時的な気分の状態です。例えば、パートナーと言い争って憂鬱になったとしても、仲直りすれば、その気分は晴れていきます。
しかし、憂鬱を超えた不快感は、問題が解決しても、気分が晴れないという一面があります。問題の長期化や一度に複数の問題を抱えると、その傾向に陥りやすくなり、うつ病のリスクは高まります。
そして、うつ病を引き起こす原因と考えられているのが、脳の神経伝達機能の乱れです。思考・認知・感覚・運動など人間の機能の多くは、脳内の神経細胞同士が円滑に情報をやりとりすることで働いています。
そのやりとりの際に必要なのが神経伝達物質です。特に重要な物質が「セロトニン」「ノルアドレナリン」「ドーパミン」です。この三つの物質が大幅に不足したり、バランスが崩れたりすることで、不安や憔悴感が強まったり、やる気が低下したりし、うつ病につながります。
私は20万人以上の患者の方と接してきました。多くの方は、日常生活が送れなくなるまで、無理を重ねた状態で来院されます。“もっと早く、適切な対策を取れていれば防げたのに”と思うことばかりです。
だからこそ私は、憂鬱以上、うつ未満の状態を「半うつ」と定義し、この段階で適切な対策や休息を取ることで、発症を防ぐことができると訴えています。
「半うつ」とは、先の三つの神経伝達物質で見た場合、1~2個の物質が不足していたり、バランスが崩れていたりする状態です。半うつチェックリスト(下記)で、自身の状態を確認してみてください。
□頭がモヤモヤしてすっきりしない
□おいしいものを食べたり、うれしいことがあったりしても心から喜べなくなった
□夜になかなか寝られない、または休日に一日中寝てしまう
□食事が面倒になる、または無意識に食べ過ぎる
□朝起きるのがつらく、起きた時点で疲れを感じる
□本や資料を読んでも頭に入らない、仕事に集中できない
□「私はダメだな」「価値のない人間だ」と思うことが増えた
□理由もなく不安になり、心配事が頭から離れない
□原因不明の頭痛、肩凝り、喉のつまり感、胃の不調が続く
□周囲からの誘いを断ることが多くなった
□今日の夕食など小さなことでも決められない
□笑顔や楽しい表情をすることが減った
□自分を責めることが増えた
□話の途中で集中が途切れ、相手の話を聞き逃すようになった
□歩くのが遅くなった、物が重く感じる、動作が鈍くなった
□ささいなことで急に悲しくなる、ソワソワする、怒りっぽくなった
□掃除、洗濯、料理などの作業がおっくうになった
□小さい物音でも音が高く感じる、うるさく感じる
□消えてしまいたいなどの考えが浮かぶことがある
□仕事でケアレスミスが多く、物忘れも目立つ
〇診断基準〇
0~2個
心の状態は安定しています。しかし、誰でも半うつになる可能性があります。紹介した内容を参考にしてください。
3~4個
少し心が疲れ気味かもしれません。「食べる」「寝る」から心の土台を整えてください。
5~9個
半うつの可能性があります。食事や睡眠に気を使い、三つの神経伝達物質を整えるケアを実践してください。
10個以上
心が相当な負担を抱えている状態です。頑張り過ぎず、精神科医やカウンセラーに相談することをおすすめします。
※チェック数に関係なく、「死にたい」「消えたい」という気持ちが続く時は、迷わず専門機関にご相談ください。
そして、半うつから回復するための土台となるのが「食事」と「睡眠」です。
三つの神経伝達物質の原料は「アミノ酸」です。このアミノ酸はタンパク質に多く含まれています。肉、魚、卵や大豆食品、牛乳などからタンパク質を取ることが有用です。仕事が忙しかったり、精神的に落ち込んでいたりする時こそ、バランスの良い食生活を心がけましょう。
そして、睡眠が不足すると、アミノ酸から神経伝達物質を合成するのが阻害されます。質の良い睡眠を心がけ、入浴などを通して副交感神経が優位な状態で床に就くといいでしょう。
食事と睡眠で回復への土台をつくったら、①セロトニンを整える②ノルアドレナリンを整える③ドーパミンを整える、この順番で心の状態を回復させます。それぞれの神経伝達物質の整え方を紹介します(下記)。
セロトニンは心のブレーキの働きがある物質。整うことでイライラが解消されたり、不安が和らいだりして憂鬱が改善されます。血流が悪くなるとセロトニンを作るための材料や酸素が脳に十分に届かなくなってしまいます。血流改善のストレッチを行うといいでしょう。
また、仕事の休憩時間は、ぼーっとしていたり、たわいもない会話をしたりすることが大切です。スマホでメールの返信をしていると、脳にとっては働いているのと同じです。アルコールは、つらさを一時的に麻痺させるだけです。
①利き足を一歩前に出し、前後に足を開く。
②両手それぞれ、水泳のクロールと逆向きに腕を回す(1秒に1回転くらいゆっくり大きく。呼吸は止めずに30秒間腕を回す)。
※足を入れ替えて行う。
ノルアドレナリンは行動力に関わる物質。不足すると、意欲や注意力の低下につながります。一方、ノルアドレナリンを補って消費し続けるような、アクセルを踏み続ける生き方は危険。常に成長を求める生き方ともいえ、成長できないと自分を否定することにつながります。
完璧を求め過ぎない“60点思考”を持つといいでしょう。仕事など、まず60点を目指して始め、徐々に改善していく思考。これが、心のアクセルを適切に踏むコツです。
ドーパミンは心のワクワクを生み出す物質で、心のエンジンといえるでしょう。
他人の評価を追い求めたり、社会の要請に従い続けたりする生き方をしていると、人生に対する喜びやワクワク感が減少し、喪失感に襲われる可能性があります。すると、うつ状態になる危険が高まります。
自分が本当にやりたいことに気付くことが重要です。おすすめが「お葬式ワーク」です(天寿を全うして人生を終えたと想定)。①紙とペンを用意②自分の葬式と仮定して「絶対に言われたくない弔辞」を紙に書く③次に「言われたい弔辞」を紙に書く。
②と③を見比べながら、「言われたい弔辞」に記した生き方を目指すといいでしょう。
たいら・こうげん 精神保健指定医、精神科専門医、日本医師会認定産業医。高校時代、不登校が原因で医学部受験に失敗。3浪してうつになり、回復の経験を生かして約25年にわたって心のケアに携わる。支援学校学校医、老健施設往診医、いのちの電話相談医、傾聴の会顧問など、その活動は多岐にわたる。
近著『半うつ 憂鬱以上、うつ未満』(サンマーク出版)
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