企画・連載

〈教育本部ルポ・つなぐ〉第6回=子どもの居場所① 2024年8月11日

「そのままでOK」な子ども食堂と空間

 「おけまる」という言葉が女子高生の間で流行したのは、数年前のことだった。「OK」と「○」を組み合わせた俗語である。
  
 小林みゆきさん(地区副女性部長)は、郷里の長野県上田市に子ども食堂を立ち上げる際、名称にその語を冠した。「そのままの自分でOK! ◯だよ!」とのメッセージを込めて――。

 どんな子も安心できる“居場所”をつくりたい。それが小林さんの長年の願いだった。長男が小学生の頃に不登校となった経験、たくさんの地域の方々や創価家族に支えられて今、小学校の教員となったわが子と共に「子どもの幸福」に尽くせることへの感謝が、その信念を支えている。
  
 6年前に開いた子ども食堂が軌道に乗ると、昨年1月には、不登校の子も含めて誰もが自由に遊び、無料で学べるジュニアセンターを開所。名称には「おけまーる」と付けた。いずれも地元の高校・大学生が運営に関わっている点が特徴だ。
  
 子ども食堂の開店は木曜17時から。先月、訪ねてみると、高校生たちがキッチンと食卓を往復していた。メニューは夏カレーとスパゲティミートソース、もやし炒めである。テーブルを囲んだ子どもたちから「おかわり!」の声がやまない。高校生たちも、うれしそう。エプロンをまとった一人に話を聞いてみる。「最初は子どもとうまく関われるか心配だったんですけど……今では私もここに来ると元気になれるから、毎週が楽しみで!」
  
 他の女子生徒も「来たくなる理由がある」と話してくれた。大人のスタッフの一人、雫田安子さん(白ゆり長)の存在だという。食材の準備などサポート役を務めている。その生徒は「大好きなんです!」と雫田さんの背中に抱きついた。どんな話も聞いてくれて、いっぱい褒めてくれて……運営側にとっても“居場所”になっているようだ。

 ジュニアセンターも同様である。ボランティアの高校・大学生は、子どもたちと一緒に遊んだり、勉強を教えたりする中で、自らも多くのことを学び、エネルギーをもらっているという。
  
 小林さんは「おけまる」の心を皆に伝える。来所する子どもの中には、学校での勉強や友人関係がうまくいかず、心に傷を負い、ひどく自信を失っている子が少なくない。「必要なのは自分のやりたいことができる場所。何もしなくても安心していられる空間。そして自分の存在そのものに『二重丸』も『三重丸』も付けてくれる大人だよ」
  
 “こんな自分でも、ここにいていいんだ”と思えてこそ、心は充電される。安心して弱みをさらけ出せるようになってこそ、「SOS(助けて)」も言えるようになる。そこで初めて、具体的な支援も始まるのである。

 子どもたちに「おけまる」「そのままでいい」と言っても、大人が何もしないという意味ではない。イライラするとつい手を上げてしまう子のために、子ども用のサンドバッグを設置したり。感覚過敏でパニックを起こしがちな子のためには、“避難用”のテントを用意したり。子どもがそれらを利用して、他者に当たることなく自分で解決できた時には、一段と褒めることを欠かさない。子どもは自信を深め、安心して何かに挑戦していけるようになる。

 高校生の中には、「福祉の勉強をして子どもたちに関わる仕事に就きたい」と進学先を決めた人も。そんな“先輩”の姿に触発され、不登校だった中学生が高校に合格を果たしたケースもある。
  
 居場所づくりは“共同作業”だ。「寄付者の方々や行政の支援、学校関係者の協力にも感謝は尽きません」(小林さん)。「おけまる」の心がつなぐ輪の真ん中に、笑顔の子どもたちがいる。
  

 【ご感想をお寄せください】
 kansou@seikyo-np.jp
  
 ※ルポ「つなぐ」では、子どもや保護者と心をつなぎ、地域の人と人とをつなぐ教育本部の友を取材しながら、「子どもの幸福」第一の社会へ私たちに何ができるかを考えます。