企画・連載

【創価学園NAVI】 「不確実な時代」を生き抜く力養う――関西創価高校「GRIT」 2022年4月23日

 創立者・池田先生が提唱した「世界市民教育」を具現化すべく、関西創価高校がグローバルリーダーの育成を目指して取り組んできた独自の教育プログラム「GRIT」。生徒自身が地球的課題と向き合い、生徒の目線で解決策を検討・提案する探究型の学びの中で、先進的な成果が生まれ、多くの学校関係者らから注目されている。その現場を追った。
  

タフなリーダーに

 ある土曜日の午前、関西創価高校の各教室はひときわにぎわっていた。同校が独自の取り組みとして実施してきた、探究型総合学習プログラム「GRIT」の授業だ。
  
 「GRIT」とは、「Global Research(リサーチ) and Inquiry Time」(地球的課題の調査と探究の時間)の頭文字をとった名称だが、「grit」の単語そのものに、困難に立ち向かう「根性」という意味もある。
  
 「負けじ魂を持ったタフなリーダーを育てることがこのプログラムの目標」だと、担当の辻誠一教諭が教えてくれた。
  
 この日、3年生の教室で行われていたのは「核軍縮交渉シミュレーション」。
  
 ねずみ国、うし国、とら国……など、干支になぞらえた12のチームに分かれ、生徒はその架空の国の「全権大使」となって、核軍縮に向けた二つの条約締結を目指して、各国との交渉に臨む。
  
 一つ目は「核実験禁止条約」で、成立条件は、核兵器保有国2カ国と非保有国6カ国の参加。二つ目は「核兵器拡散防止条約」で、保有国2カ国を含む9カ国以上の参加で成立する。
 

 この架空の国々。核兵器の保有状況、軍事予算、同盟関係や敵対関係など、さまざまな状況が実存する世界の国々と酷似している。生徒たちは架空の国名を使いながら、現実の国際交渉に近い条件のもとで、核軍縮に向けた交渉をしているのだ。
  
 「あの国は核実験をやめることはできないけれど、拡散防止なら合意できるかも」
  
 「この国と協力して共同融資をすれば、あっちの国とも交渉できるのでは?」
  
 「こんな条件あかん! 交渉決裂や!」
  
 時に笑顔で、時に真剣なまなざしで交渉に当たる生徒たち。価値観や立場の異なる相手と、粘り強く対話しながら、自国の目標の実現を目指す。こうして培われたコミュニケーション力、合意形成能力は、社会のあらゆる場面で効果を発揮する。
  
 辻教諭の言葉に熱がこもる。
  
 「社会が大きく変化し、確固たる『正解』がない不確実な時代。だからこそ、情報を集め、他者と力を合わせながら、最後は自ら決断する。今は決められた知識を詰め込むだけではなく、この先どう生きるのか、正しい生き方は何かを『探究』する力が求められています」
  

SGHで最高評価

 関西創価高校では、2014年からGRITを導入し、「探究型」の学びに力を入れてきた。
  
 毎月2回、土曜の登校日をGRITの授業時間に割り当て、3年間かけて「環境」「開発」「人権」「平和」の四つのテーマに関する課題を探究する。
  
 1年生は、主に「インプット」に力を入れ、現代社会の抱える課題を幅広く学ぶ。
  
 2年では「アウトプット」。1年で学んだ知識を生かし、チームをつくって課題の解決案を検討する。フィールドワークや大学教授との意見交換も行い、学年末に予定されている「ポスターセッション」を目指して、それぞれのチームで具体的な解決策を模索していく。
  
 3年には、国連の会議を模して世界の諸課題を討議する「模擬国連」を実施。生徒は、割り当てられた国の「大使」になりきり、各国との交渉や決議案を作成し、「合意形成能力」を養う。こうした学びに、全校生徒だけでなく、全ての教員が関わり、学校を挙げて取り組んできた。
  
 GRIT導入の翌15年、関西創価高校は、文部科学省が国際的なリーダーの育成を支援する教育事業「スーパー・グローバル・ハイスクール」(SGH)に認定され、17年の中間評価では、56の認定校で、上位4校に当たる「最高評価」を獲得。
  
 また、各国の国際会議に多くの生徒が参加し、英語など他言語で自らの考えを発信してきた。
  
 本年度、文科省は高等学校の学習指導要領にあった「総合的な学習の時間」を、「総合的な探究の時間」に改称。今や高校の教育において、大きなテーマとなった「探究型学習」への先駆的な取り組みとして、GRITは注目されており、毎年、他校の教員や教育関係機関のスタッフが数多く見学に訪れる。
  
  

学びの意識変革

 最も大きな成果は、生徒たちの「学びの意識変革」だ。
  
 教育分野に興味があった濵﨑智恵さん(2年)。GRITの学びに触れて、環境問題やAI兵器の問題など、関心の幅が広がった。
  
 「世界の課題を目にした時、私には、世界に訴える力がないと感じたんです」
  
 “もっと力をつけよう”と友達に声を掛け、ともに高校1年生で実用英語技能検定(英検)2級(高校卒業レベル)の合格を勝ち取った。
  
 彼女たちをはじめ、多くの生徒がGRITを通して学習意欲を向上させている。事実、同校の英検取得者数は、GRIT導入直後の2015年度、1級1人、準1級10人、2級175人だったのに対して、翌16年度には、1級4人、準1級46人、2級240人へと大きく増加した。
  
 多分野にわたる学びを経験したことで、改めて社会における教育の重要性を感じた濵﨑さん。
  
 「創立者・池田先生が、『他人の不幸のうえに自分の幸福を築くことはしない』と言われた通り、多くの人の幸福のために、世界で活躍できる実力をつけたい」と意気込む。
  
 田中秀之さん(3年)は昨年、GRITの一環として、4人の仲間と共にフードロス問題の解決に向けてチームを結成。提案を持って、多くの企業や行政に足を運んだが、受け入れられることはなかった。
  
 そこで、足元から取り組もうと学校の食堂に着目。「食品ロス」ゼロを目指して教室でチェックシートを配り、その点数をもとに選ばれた生徒が食堂で「スペシャルデザート選択権」等の特典を得られる「ゼロ・プロジェクト」という企画を、食堂業者の協力を得て立案。これを、高校生が社会貢献事業プランを提案するコンテスト「SAGE JAPAN CUP」で発表したところ、全国3位に当たる「審査員特別賞」を受賞した。
  
 「何があってもあきらめず、挑戦し続けることの大切さを学びました。GRITの強みは、勉強して終わりではなく、実践や経験を通して学べること。失敗もしましたが、その経験が力になっています」
  
 挑戦する生徒たちの胸に、学園伝統の“負けじ魂”が脈打っている。
  
  

〈GRIT 3年間の流れ〉
1年・地球的課題との出あい

 世界における「環境」「開発」「人権」「平和」の4分野についての現状を知ることからGRITのプログラムはスタートする。貿易ゲーム等のワークショップを通して地球が抱える課題を知り、自分自身の問題として捉える意識を育てる。
  

2年・地球的課題の探究

 「環境」「開発」「人権」「平和」の4分野について、より深い知識の習得を目的に、チームでテーマを設定し、理解を深める。フィールドワークや大学教員とのディスカッションを経て、学年末にはポスターセッションを行い、解決策を提案する。
  

3年・世界を一つにする力の育成

 GRITの集大成として、世界が直面する課題をテーマに、「模擬国連」を実施する。自国の主張だけでなく、相手国の側に立ちながら、解決策を模索。その中で「合意形成」を図り、問題解決力をつける。その後、提案を論文にまとめる。
  

〈東西の創価学園でオープンキャンパス〉

 大型連休中に東西の創価学園で、入学希望者のためのイベントが行われる。
 キャンパスツアーや体験授業、クラブ見学、教員・生徒らによる相談コーナーなど、各校で工夫を凝らした企画が準備されている。日程は次の通り。
  
  
〈創価高校・中学校(東京・小平市)〉
◎オープンキャンパス=5月3日(火・祝)
  
〈東京創価小学校(小平市、国分寺市)〉
◎オープンキャンパス=5月3日(火・祝)、4日(水・祝)
  
〈関西創価高校・中学校(大阪・交野市)〉
◎オープンキャンパス=5月1日(日)
  
〈関西創価小学校(大阪・枚方市)〉
◎オープンスクール「関西小であそぼうデー」=4月30日(土)、5月1日(日)
  
  
 ※すべて事前参加申し込みが必要。各行事の詳細の確認、申し込み等は、各校のホームページを参照してください。
  
  
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