世界規模の諸課題に対して、無関係な人は地球上に一人もいないはず。しかし、どこか人ごとに感じてしまっている人が少なくないのも事実であろう。関西創価中学校(大阪・交野市)では昨年度から新たな授業「探究・表現」をスタートさせ、思考力と協働力を養いながら、諸課題を“わがこと”として捉える生徒たちを育んでいる。特に同授業の「合意形成プログラム」では、多様な人々と意見の一致を図るための力を磨いているという。その様子を取材した。
世界規模の諸課題に対して、無関係な人は地球上に一人もいないはず。しかし、どこか人ごとに感じてしまっている人が少なくないのも事実であろう。関西創価中学校(大阪・交野市)では昨年度から新たな授業「探究・表現」をスタートさせ、思考力と協働力を養いながら、諸課題を“わがこと”として捉える生徒たちを育んでいる。特に同授業の「合意形成プログラム」では、多様な人々と意見の一致を図るための力を磨いているという。その様子を取材した。
コンセンサスゲーム
コンセンサスゲーム
先月、広島で開かれた主要7カ国首脳会議(G7広島サミット)。ウクライナ情勢、核問題、食料危機、気候・エネルギー問題、ジェンダー平等など、さまざまな重要課題に対し、各国の首脳が立場の違いを超えて、幅広い合意形成を成し遂げられるのかどうか――世界が注目した。
関西創価中学校の多くの生徒たちも関心を寄せていた。
サミット開催前に同校を訪れると、生徒たちがこんなおしゃべりをしていた。
「サミットが被爆地で行われるのは、すごい意味があるよね!」
「これから核廃絶への関心が、より高まっていくのかな」
「ところでさ、実際のサミットでは、どんなお弁当が出るんだろうね(笑)」
「そうそう! ちょっと気になる。探究の授業で考えたもんね」
この会話の背景には、昨年度からスタートした「探究・表現」の授業内で行われた「合意形成プログラム」がある。
同プログラムでは初めに、国際会議の弁当メニューを考えるコンセンサス(合意形成)ゲームが行われるのだ。
このゲームは、合意形成を図る難しさや大切さを学ぶもの。生徒たちは、国際会議に参加する各国の職員になりきり、会議で食べる弁当のメニューを考える。その際、宗教上の理由から口にできない食材などを考慮しなければならない。さらに生徒たちが演じる各国の職員役には、それぞれのミッションが設けられている。
日本の職員役の生徒には、「日本の食材をアピールできる料理を組み込むこと」などが課せられた。
生徒たちはグループごとに議論を重ね、各国の異なる意見を聞きつつ、考え、妥当な答えを見つけ出す。
ゲームに取り組んだ2年生の河嶋晄雅さんは振り返る。
「メニューが決まった時、自然と拍手が起こり、喜び合いました! 全員が納得できるものを導き出すのは“面倒かな”と思いきや、話し合ってみると、実際はとても楽しかったです。
そして、学びが深まると、生活の意識が変わりました。友達と何をして遊ぶのかと話す時でさえ、誰かの意見を押し通す形ではなく、“お互いの考えを組み合わせていけたら”と考えられるようになりました」
先月、広島で開かれた主要7カ国首脳会議(G7広島サミット)。ウクライナ情勢、核問題、食料危機、気候・エネルギー問題、ジェンダー平等など、さまざまな重要課題に対し、各国の首脳が立場の違いを超えて、幅広い合意形成を成し遂げられるのかどうか――世界が注目した。
関西創価中学校の多くの生徒たちも関心を寄せていた。
サミット開催前に同校を訪れると、生徒たちがこんなおしゃべりをしていた。
「サミットが被爆地で行われるのは、すごい意味があるよね!」
「これから核廃絶への関心が、より高まっていくのかな」
「ところでさ、実際のサミットでは、どんなお弁当が出るんだろうね(笑)」
「そうそう! ちょっと気になる。探究の授業で考えたもんね」
この会話の背景には、昨年度からスタートした「探究・表現」の授業内で行われた「合意形成プログラム」がある。
同プログラムでは初めに、国際会議の弁当メニューを考えるコンセンサス(合意形成)ゲームが行われるのだ。
このゲームは、合意形成を図る難しさや大切さを学ぶもの。生徒たちは、国際会議に参加する各国の職員になりきり、会議で食べる弁当のメニューを考える。その際、宗教上の理由から口にできない食材などを考慮しなければならない。さらに生徒たちが演じる各国の職員役には、それぞれのミッションが設けられている。
日本の職員役の生徒には、「日本の食材をアピールできる料理を組み込むこと」などが課せられた。
生徒たちはグループごとに議論を重ね、各国の異なる意見を聞きつつ、考え、妥当な答えを見つけ出す。
ゲームに取り組んだ2年生の河嶋晄雅さんは振り返る。
「メニューが決まった時、自然と拍手が起こり、喜び合いました! 全員が納得できるものを導き出すのは“面倒かな”と思いきや、話し合ってみると、実際はとても楽しかったです。
そして、学びが深まると、生活の意識が変わりました。友達と何をして遊ぶのかと話す時でさえ、誰かの意見を押し通す形ではなく、“お互いの考えを組み合わせていけたら”と考えられるようになりました」
教員のチャレンジ
教員のチャレンジ
合意形成プログラムを下支えしているのは、約10年前から取り組んできたディベート教育である。
同校では各教科の授業でディベートを取り入れるように進め、年々、授業内容を改良。「肯定」「否定」の立場からリサーチし、明確なエビデンス(証拠)をもとに立論する過程を通して、生徒たちの論理的、批判的な思考力を伸ばしてきた。
3年前には、他地域の教育委員会が同校のディベートを用いた授業の視察に訪れ、“先進的で模範的な教育”と評価。また昨年は同校のディベート部が9度目の全国大会の出場で、初めての“日本一”を勝ち取った。
そんな中、教員たちにはある思いがあった。池田勝利副校長は語る。
「これからの未来を生きる生徒たちには、社会課題について是か非かを考えるだけでなく、さまざまな意見の中から、多くの人が納得できる提案をしていく合意形成の力を身に付け、世界に羽ばたいてもらいたい。私たち教員は、そのために新たなチャレンジが必要ではないか、と考えたのです」
そして教員内でチームをつくり、培ってきたディベート教育を基盤にした合意形成のプログラムの検討を始めた。
そのチームの一人は語る。
「私たちは約1年かけ、生徒たちが活発に話し合える課題や仕組みを考えて、何度も教員間でシミュレーションを行いました。教員自身も、教え合い、学び合って、探究活動を進めていったのです」
そして誕生した合意形成プログラム。
まず、生徒たちは、合意形成とは何かを理解するために、コンセンサスゲームに取り組む。
次に、定められたテーマに対して、班ごとに「肯定」「否定」「審査」に分かれてディベートを実施。どの生徒も、各立場を経験できるよう、同じテーマでのディベートを3回、行った。さらにその後、全員でのディスカッションを設け、肯定でも否定でもない「新たな意見」を見いだし(合意形成)、ポスターにまとめて、研究発表をする。
昨年度は、1年生と3年生が同プログラムを行い、「中学生以下のスマートフォンの使用禁止の是非」「男性の育児休業の義務化の是非」などをテーマに取り組んだ。
また、2年生はキャリア教育も兼ねて、実際の企業でインターンシップを体験し、企業が提示する課題に意見を提案する探究学習プログラム「クエストエデュケーション」(主催=教育と探求社)に取り組み、合意形成の力を育んでいった。
合意形成プログラムを下支えしているのは、約10年前から取り組んできたディベート教育である。
同校では各教科の授業でディベートを取り入れるように進め、年々、授業内容を改良。「肯定」「否定」の立場からリサーチし、明確なエビデンス(証拠)をもとに立論する過程を通して、生徒たちの論理的、批判的な思考力を伸ばしてきた。
3年前には、他地域の教育委員会が同校のディベートを用いた授業の視察に訪れ、“先進的で模範的な教育”と評価。また昨年は同校のディベート部が9度目の全国大会の出場で、初めての“日本一”を勝ち取った。
そんな中、教員たちにはある思いがあった。池田勝利副校長は語る。
「これからの未来を生きる生徒たちには、社会課題について是か非かを考えるだけでなく、さまざまな意見の中から、多くの人が納得できる提案をしていく合意形成の力を身に付け、世界に羽ばたいてもらいたい。私たち教員は、そのために新たなチャレンジが必要ではないか、と考えたのです」
そして教員内でチームをつくり、培ってきたディベート教育を基盤にした合意形成のプログラムの検討を始めた。
そのチームの一人は語る。
「私たちは約1年かけ、生徒たちが活発に話し合える課題や仕組みを考えて、何度も教員間でシミュレーションを行いました。教員自身も、教え合い、学び合って、探究活動を進めていったのです」
そして誕生した合意形成プログラム。
まず、生徒たちは、合意形成とは何かを理解するために、コンセンサスゲームに取り組む。
次に、定められたテーマに対して、班ごとに「肯定」「否定」「審査」に分かれてディベートを実施。どの生徒も、各立場を経験できるよう、同じテーマでのディベートを3回、行った。さらにその後、全員でのディスカッションを設け、肯定でも否定でもない「新たな意見」を見いだし(合意形成)、ポスターにまとめて、研究発表をする。
昨年度は、1年生と3年生が同プログラムを行い、「中学生以下のスマートフォンの使用禁止の是非」「男性の育児休業の義務化の是非」などをテーマに取り組んだ。
また、2年生はキャリア教育も兼ねて、実際の企業でインターンシップを体験し、企業が提示する課題に意見を提案する探究学習プログラム「クエストエデュケーション」(主催=教育と探求社)に取り組み、合意形成の力を育んでいった。
苦手意識が変わる
苦手意識が変わる
さらに関西創価中学では社会や理科、数学など、多くの教科で探究学習を行い、合意形成の力を磨く。探究学習とは社会課題を解決するためにさまざまな情報を収集・分析し、意見を交換したり、協働したりしながら進めるもの。
昨年度の3年生の理科では、身近な社会課題に対して、生徒たちが行政や会社などの立場を演じながら、意見を交わし、合意形成を図る授業を約3カ月にわたって実施した。
課題は「リニア中央新幹線の開通に伴う環境問題」。
リニア中央新幹線の開通は東京・名古屋・大阪間の移動時間を大幅に短縮し、三大都市圏を一つにつなげて巨大な経済圏をつくる国家プロジェクトである。一方で開通のため、静岡の北部にある南アルプスや大井川上流部の地下にトンネルを通す必要があり、工事による環境などへの大きな負荷が危惧されている。
生徒たちは、早期開通を望む「JR東海」「神奈川県」「愛知県」や、開通に反対ではないものの不利益は被りたくない「静岡県」「(同県)菊川市」、また関係省庁である「国土交通省」「環境省」、さらにマスコミとして「静岡新聞」など、全部で12の立場になりきって、それぞれの視点での情報を集め、交渉と議論を重ね、決議を行った。
さらに関西創価中学では社会や理科、数学など、多くの教科で探究学習を行い、合意形成の力を磨く。探究学習とは社会課題を解決するためにさまざまな情報を収集・分析し、意見を交換したり、協働したりしながら進めるもの。
昨年度の3年生の理科では、身近な社会課題に対して、生徒たちが行政や会社などの立場を演じながら、意見を交わし、合意形成を図る授業を約3カ月にわたって実施した。
課題は「リニア中央新幹線の開通に伴う環境問題」。
リニア中央新幹線の開通は東京・名古屋・大阪間の移動時間を大幅に短縮し、三大都市圏を一つにつなげて巨大な経済圏をつくる国家プロジェクトである。一方で開通のため、静岡の北部にある南アルプスや大井川上流部の地下にトンネルを通す必要があり、工事による環境などへの大きな負荷が危惧されている。
生徒たちは、早期開通を望む「JR東海」「神奈川県」「愛知県」や、開通に反対ではないものの不利益は被りたくない「静岡県」「(同県)菊川市」、また関係省庁である「国土交通省」「環境省」、さらにマスコミとして「静岡新聞」など、全部で12の立場になりきって、それぞれの視点での情報を集め、交渉と議論を重ね、決議を行った。
昨年度、この授業を受けた松沢寿林さん(関西創価高校1年)は「こんなにおもしろい授業は、これまでなかった」と目を輝かせた。
彼は環境省の立場から、探究学習を推進。当初、リサーチを行っていると、「これは理科ではなくて、社会の授業なんじゃないか」と感じたという。しかし合意形成を図ろうと学び進めていくと、トンネル建設で排出される土の総量を計算するために「数学」、超電導リニアの仕組みを知るために「物理学」、道を通す場所を考えるために「地質学」などが必要となり、理科の学びに発展していった。
「自分で計算できない数式があっても友達に相談して、教えてもらいながら解くことで、学力の向上につながりました。そして、学んできた知識の点と点がつながるような感覚を得て、苦手意識を持っていた勉強が好きになったんです!」
授業では、環境問題を改善していくための調査や補償、残土運搬の具体案、残土の再利用方法などの7項目を決議。松沢さんは「真剣に調べ、学び、考えた意見が決議案に盛り込まれ、可決された時は、大げさに聞こえるかもしれませんが、味わったことのない達成感と充実感でした。高校でも探究学習に力を入れながら、他教科の勉強にも励んでいます」と語った。
◇◆◇
今年度、生徒たちの探究力を一層育むために、同校では探究推進室が立ち上げられた。同室長を務めるのは寺西翔大教諭である。
「探究学習はさまざまな効果がありますが、調べ方や合意形成の仕方など、生徒たちの基礎が不十分であると、話し合いがなかなか進まなかったり、学びの完成度が低くなったりして、生徒自身の学ぶ意欲をそいでしまう場合もあるんです。だからこそ中学時代に、身近な課題に対してのグループ学習を行い、合意形成を図るという“素振り”を何度も繰り返すことが大切だと考えています」
その“素振り”が具体的に何をもたらすのか?――寺西教諭は言葉を継いだ。
「探究活動を進める“型”が身に付き、議論を深めていく思考の“力”を鍛えることができます。より複雑な国際課題の探究を進める高校生活では、この土台があるかないかで、大きく変わるでしょう。私たちは切磋琢磨しながら、さらに生徒たちの可能性を開くカリキュラムの向上を目指していきます!」
※ご感想をお寄せください。
kansou@seikyo-np.jp
※創価学園NAVIのバックナンバーが無料で読めます(会員登録は不要です)
https://www.seikyoonline.com/rensaimatome/gakuennavi.html
昨年度、この授業を受けた松沢寿林さん(関西創価高校1年)は「こんなにおもしろい授業は、これまでなかった」と目を輝かせた。
彼は環境省の立場から、探究学習を推進。当初、リサーチを行っていると、「これは理科ではなくて、社会の授業なんじゃないか」と感じたという。しかし合意形成を図ろうと学び進めていくと、トンネル建設で排出される土の総量を計算するために「数学」、超電導リニアの仕組みを知るために「物理学」、道を通す場所を考えるために「地質学」などが必要となり、理科の学びに発展していった。
「自分で計算できない数式があっても友達に相談して、教えてもらいながら解くことで、学力の向上につながりました。そして、学んできた知識の点と点がつながるような感覚を得て、苦手意識を持っていた勉強が好きになったんです!」
授業では、環境問題を改善していくための調査や補償、残土運搬の具体案、残土の再利用方法などの7項目を決議。松沢さんは「真剣に調べ、学び、考えた意見が決議案に盛り込まれ、可決された時は、大げさに聞こえるかもしれませんが、味わったことのない達成感と充実感でした。高校でも探究学習に力を入れながら、他教科の勉強にも励んでいます」と語った。
◇◆◇
今年度、生徒たちの探究力を一層育むために、同校では探究推進室が立ち上げられた。同室長を務めるのは寺西翔大教諭である。
「探究学習はさまざまな効果がありますが、調べ方や合意形成の仕方など、生徒たちの基礎が不十分であると、話し合いがなかなか進まなかったり、学びの完成度が低くなったりして、生徒自身の学ぶ意欲をそいでしまう場合もあるんです。だからこそ中学時代に、身近な課題に対してのグループ学習を行い、合意形成を図るという“素振り”を何度も繰り返すことが大切だと考えています」
その“素振り”が具体的に何をもたらすのか?――寺西教諭は言葉を継いだ。
「探究活動を進める“型”が身に付き、議論を深めていく思考の“力”を鍛えることができます。より複雑な国際課題の探究を進める高校生活では、この土台があるかないかで、大きく変わるでしょう。私たちは切磋琢磨しながら、さらに生徒たちの可能性を開くカリキュラムの向上を目指していきます!」
※ご感想をお寄せください。
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