くらし・教育
〈教育〉 子どもを成長させる夫婦の会話 2025年6月26日
家庭内の会話は、子どもの安心感や自己肯定感に影響を与えるといわれています。夫婦のコミュニケーションで心がけたいことや気を付けたいポイントについて、5万人以上から育児の相談を受けてきたNPO法人「親子コミュニケーションラボ」代表理事の天野ひかりさんに聞きました。
天野ひかりさん
子どもは、親の何げない会話をよく聞いています。夫婦の会話だけでなく、ママ(パパ)が学校などの先生、ママ友(パパ友)、祖父母や上の子など、さまざまな人と話す言葉の一つ一つに、子どもは耳を傾けています。
親が直接子どもに話しかける“直接的な会話”よりも、子どもが親の会話を耳にする“間接的な会話”の方が、子どもに与える影響は大きいともいわれます。なぜなら、間接的に聞く方が真実味を帯びて聞こえるからです。
私たち大人も同じではないでしょうか。「今回の企画、とても良かったよ」と上司から直接褒められるよりも、「○○さんの企画は素晴らしい」と同僚に話しているのを聞く方が、心に響くものがあります。子どももまた、「本当のことを話しているのではないか」という心理が働くのです。
子どもがいる場所では、パートナーに対して「今日、宿題を頑張っていたよ」「お手伝いをしてくれて助かった」など、夫婦で子どもの行動を認める会話を心がけていただきたいと思います。その会話を聞いた子どもは「自分はここにいていいんだ」「ちゃんと認められているんだ」という気持ちが生まれ、自己肯定感が育まれていきます。
逆に、パートナーに情報共有するつもりで「今日〇〇がこんなことをして、本当に大変だった」と、子どもがいる前でネガティブな話をするのは避けましょう。子どもはショックを受け、内容によっては親子の信頼関係が崩れてしまう恐れもあります。
子どもは、親の会話を聞きながら、言葉を使うタイミングや、言い方、表情などのコミュニケーションを学習しています。
例えば、親が「“ありがとう”は?」と子どもに促すよりも、家庭内で日常的に「すごく助かったよ。ありがとう」といった会話が自然に交わされていれば、自然と「ありがとう」が言える子に育ちます。親が一番身近なお手本になっているのです。
「どちらの方が大変か、言い合いになってしまう」というケースも耳にします。もし、子どもの前で、どちらがお迎えに行くかで言い争っていたら、子どもは「誰も自分のことをお迎えに来たくないんだ」と感じてしまいます。
そんな時は、言葉の最初に「本当は子どものことを大切に思っている」という気持ちを、あえて付け加えてみましょう。例えば、「本当は大事な〇〇のためにお迎えに行きたいんだけど、会議があって行けないからお願いできるかな」。たった一言付け加えるだけで、聞く側の印象は変わります。
LINEなどでやりとりする時も同じです。子どもが聞いているわけではありませんが、自分が発した言葉は自身の意識や行動に影響を与えるため、注意しましょう。
特に気を付けたいのは、子どもの前で夫婦げんかをした時です。理想を言えば、仲直りまで見せたいところです。けんかの後に冷静に話し合い、解決に向けて努力する親の姿は、子どもに安心感を与えるだけでなく、人と議論するための良いお手本にもなります。
感情的になることも、決して悪いことばかりではありません。子どもは、感情の処理の仕方も見ているからです。家庭によって仲直りの形は違います。その過程を見せることが大切なのです。
これからの時代、会話においては「エンパシー」が重要です。エンパシーとは、相手の立場に立って、その人が感じていることや考えていることを理解できる能力のことです。エンパシーを心がけると、相手の気持ちに寄り添った会話ができるようになります。
例えば、ソファで休んでいる家族に「ゴロゴロしてないで、部屋を片付けて」と言うより、「今日一日、大変だったんだね。自分も疲れているから、一緒に休憩してから部屋を片付けよう」と伝えてみましょう。お互いに気持ちよく過ごせると思います。
毎日の「夫婦の会話」には、子どもを成長させる力があります。慌ただしい日々の中で、少しでも意識して会話していただけたらと思います。
Q パートナーと楽しく話せない
夫婦の会話がなかったり、ぎくしゃくしたりしていたら、子どもは敏感に感じ取ります。楽しく会話したいのにできない時は、夫婦で仲良く取り組めることを探しましょう。おすすめは一緒に家事をすることです。実際に、夫が積極的に家事を行う夫婦は、しない夫よりも夫婦仲がいいという報告もあります。
また、「子どもの話しかしない」と言う人がいますが、それも立派な会話だと思います。子育て期間中は、ぜひ、お子さんをそのまま認める会話を存分にしていただけたらと思います。
Q 育児についての考え方が合わない
同じである必要はありません。考え方をすり合わせる過程を子どもに見せることが大切です。中には、「自分が我慢すればいい」と考える人もいますが、その関係は長続きしません。自分のためではなく子どもの価値観や多様性を育むため、と思えば、パートナーと話し合う勇気が少し湧いてきませんか。まずは、パパとママの考え方が違うという事実を、話し合いのテーブルにのせましょう。
Q 子どもが小さい時の方が、夫婦の会話の影響は大きい?
子どもの年齢にかかわらず影響します。同じような会話をしていても、子どもは成長するにつれて、受け取る内容が変わっていきます。
例えば、小さいうちは親の表情を受け止め、成長するにつれて、パパとママの考え方が違うことを受け止めるようになります。さらに成長すれば、社会とパパとママの価値観の違いもわかるようになります。
子どもの成長に合わせて、夫婦の会話を変える必要はありません。