東京大学大学院客員教授
松尾一郎さん
東京大学大学院客員教授
松尾一郎さん
近年は記録的な大雨が毎年のように発生し、被害が激甚化しています。命を守るために何が大切か。水害対策の第一人者である東京大学大学院客員教授の松尾一郎さんに聞きました。
近年は記録的な大雨が毎年のように発生し、被害が激甚化しています。命を守るために何が大切か。水害対策の第一人者である東京大学大学院客員教授の松尾一郎さんに聞きました。
想定超える雨に警戒
想定超える雨に警戒
日本の降水量は世界的に見ても非常に多く、6~9月を中心とした梅雨期や台風シーズンに集中しています。
特に近年は雨の降り方が激しさを増しており、気象研究所の調査によれば、集中豪雨の発生頻度は過去45年間で2倍以上、梅雨期だけでは約4倍に増えていることが分かっています。
降水量が増加している背景には地球温暖化の影響などが指摘されています。本年も私たちの想定を超えるような大雨に見舞われる可能性が十分にあり、警戒が必要です。
水害は予報から発生までの時間が比較的あり、的確な避難行動を起こせる時間は残されています。しかし、避難意識が低いことで避難行動が遅れ、人的被害が出てしまっている実態があります。
「西日本豪雨」(2018年)や「九州北部豪雨」(17年)では、犠牲者の約9割が避難行動を起こしていなかったことが分かっています。この二つの災害以外でも、同じ傾向があります。昨年7月には、山形の大雨によって、警察官が逃げ遅れた住民をパトカーで救助に向かう途中に流されてしまう痛ましいこともありました。
そして、大規模水害が頻発する原因の一つになっているのが「線状降水帯」の発生です。
気象研究所の調査によれば1995年~2009年に発生した台風以外の豪雨の約6割が線状降水帯に起因したものでした。さらに線状降水帯は夜間から朝にかけて発生しやすい傾向があります。
激しい雨が降る夜に避難行動を起こすことは困難です。明るいうちからの早めの避難行動が、自分自身や周囲の人の命を守る鍵となります。
日本の降水量は世界的に見ても非常に多く、6~9月を中心とした梅雨期や台風シーズンに集中しています。
特に近年は雨の降り方が激しさを増しており、気象研究所の調査によれば、集中豪雨の発生頻度は過去45年間で2倍以上、梅雨期だけでは約4倍に増えていることが分かっています。
降水量が増加している背景には地球温暖化の影響などが指摘されています。本年も私たちの想定を超えるような大雨に見舞われる可能性が十分にあり、警戒が必要です。
水害は予報から発生までの時間が比較的あり、的確な避難行動を起こせる時間は残されています。しかし、避難意識が低いことで避難行動が遅れ、人的被害が出てしまっている実態があります。
「西日本豪雨」(2018年)や「九州北部豪雨」(17年)では、犠牲者の約9割が避難行動を起こしていなかったことが分かっています。この二つの災害以外でも、同じ傾向があります。昨年7月には、山形の大雨によって、警察官が逃げ遅れた住民をパトカーで救助に向かう途中に流されてしまう痛ましいこともありました。
そして、大規模水害が頻発する原因の一つになっているのが「線状降水帯」の発生です。
気象研究所の調査によれば1995年~2009年に発生した台風以外の豪雨の約6割が線状降水帯に起因したものでした。さらに線状降水帯は夜間から朝にかけて発生しやすい傾向があります。
激しい雨が降る夜に避難行動を起こすことは困難です。明るいうちからの早めの避難行動が、自分自身や周囲の人の命を守る鍵となります。
いつ・誰が・何をする
いつ・誰が・何をする
災害から命を守るには、各組織や個人が、それぞれの役割を全うすることが大切です。
災害発生時では、気象庁や国土交通省は的確な防災情報を発表し、報道機関はその情報を広く国民に周知する役目があります。そして、市町村などの自治体は地域組織と連携を取りながら、避難所を開設したり、住民に避難行動を呼びかけたりすることが求められ、住民は早く逃げる必要があります。
その役割を明確にするため、14年にアメリカから持ち込んだのが事前防災行動計画「タイムライン」です。「いつ・誰が・何をする」を定めるものです。
日本では現在、主に4種類が活用されています。
国交省や気象台が中心となって、流域に関わる各自治体、公共交通機関などが参加する「流域タイムライン」、各市町村の「自治体タイムライン」、町会・自治会を中心に、地域の特性に合わせた避難計画を定める「コミュニティー・タイムライン」、家族や個人の「マイ・タイムライン」です。
日本に導入されてから11年。22年には、有用性が認められ、タイムライン作成に努めることが国の「防災基本計画」に盛り込まれました。現在、1級水系の「流域タイムライン」に参加している自治体は対象の75%を超えています。
タイムラインを作成することは、役割を明確にすることに加え、防災情報の理解が進むという利点もあります。大雨情報や避難警戒レベルなど、防災情報が分かっているようで分かっていないという方もいるでしょう。作成の過程で、おのずとそれぞれの情報の意味を学ぶこともできます。
災害から命を守るには、各組織や個人が、それぞれの役割を全うすることが大切です。
災害発生時では、気象庁や国土交通省は的確な防災情報を発表し、報道機関はその情報を広く国民に周知する役目があります。そして、市町村などの自治体は地域組織と連携を取りながら、避難所を開設したり、住民に避難行動を呼びかけたりすることが求められ、住民は早く逃げる必要があります。
その役割を明確にするため、14年にアメリカから持ち込んだのが事前防災行動計画「タイムライン」です。「いつ・誰が・何をする」を定めるものです。
日本では現在、主に4種類が活用されています。
国交省や気象台が中心となって、流域に関わる各自治体、公共交通機関などが参加する「流域タイムライン」、各市町村の「自治体タイムライン」、町会・自治会を中心に、地域の特性に合わせた避難計画を定める「コミュニティー・タイムライン」、家族や個人の「マイ・タイムライン」です。
日本に導入されてから11年。22年には、有用性が認められ、タイムライン作成に努めることが国の「防災基本計画」に盛り込まれました。現在、1級水系の「流域タイムライン」に参加している自治体は対象の75%を超えています。
タイムラインを作成することは、役割を明確にすることに加え、防災情報の理解が進むという利点もあります。大雨情報や避難警戒レベルなど、防災情報が分かっているようで分かっていないという方もいるでしょう。作成の過程で、おのずとそれぞれの情報の意味を学ぶこともできます。
振り返りの重要性
振り返りの重要性
タイムラインの精度を上げるために欠かせないのが、計画・実行・評価・改善を行う「PDCAサイクル」です。
アメリカでは災害対応で同じ失敗を繰り返さないための「振り返り・改善制度(AAR/IP)」があります。被災した州の地方自治体や州政府機関が、災害発生後90日以内に、当事者として災害対応の振り返りと改善を行い、州政府に報告するものです。カリフォルニア州では、AARの実施が法律で義務化されているなど、アメリカでは災害対応の「PDCAサイクル」が定着しています。
注目すべきはリポート様式が連邦政府で統一され、データベース化もされており、各州からのアクセスも可能なことです。
それぞれの地域で起きた災害の教訓が共有されるシステムで、各州の対策に生かされています。
AARは被災自治体など当事者間で行うものですが、責任を追及するものではなく、あくまでも同じ失敗を繰り返さないための改善策を話し合う場です。
日本でも検証委員会などが行われていますが、有識者ら第三者による検証がほとんどで、当事者による検証の場はほぼありません。被災自治体など当事者間で振り返ることで、主体的な改善策は生み出されます。
また日本の現在の対応では、検証委員会などで抽出した課題や改善策がその地域だけにとどまってしまう傾向があります。
近年の水害を見ても分かるように、災害は場所を変えて次々と発生しています。過去の教訓が、各自治体に共有されるシステムを整備することが同じ失敗を繰り返さないことにつながるでしょう。
現在、防災庁の構想などの議論が進んでいますが、ぜひとも“日本版AAR”についても議論を進めてほしいと思っています。
家族や個人でマイ・タイムラインを作成してみてください。作成手順を紹介します(下記)。
タイムラインの精度を上げるために欠かせないのが、計画・実行・評価・改善を行う「PDCAサイクル」です。
アメリカでは災害対応で同じ失敗を繰り返さないための「振り返り・改善制度(AAR/IP)」があります。被災した州の地方自治体や州政府機関が、災害発生後90日以内に、当事者として災害対応の振り返りと改善を行い、州政府に報告するものです。カリフォルニア州では、AARの実施が法律で義務化されているなど、アメリカでは災害対応の「PDCAサイクル」が定着しています。
注目すべきはリポート様式が連邦政府で統一され、データベース化もされており、各州からのアクセスも可能なことです。
それぞれの地域で起きた災害の教訓が共有されるシステムで、各州の対策に生かされています。
AARは被災自治体など当事者間で行うものですが、責任を追及するものではなく、あくまでも同じ失敗を繰り返さないための改善策を話し合う場です。
日本でも検証委員会などが行われていますが、有識者ら第三者による検証がほとんどで、当事者による検証の場はほぼありません。被災自治体など当事者間で振り返ることで、主体的な改善策は生み出されます。
また日本の現在の対応では、検証委員会などで抽出した課題や改善策がその地域だけにとどまってしまう傾向があります。
近年の水害を見ても分かるように、災害は場所を変えて次々と発生しています。過去の教訓が、各自治体に共有されるシステムを整備することが同じ失敗を繰り返さないことにつながるでしょう。
現在、防災庁の構想などの議論が進んでいますが、ぜひとも“日本版AAR”についても議論を進めてほしいと思っています。
家族や個人でマイ・タイムラインを作成してみてください。作成手順を紹介します(下記)。
家族と私のタイムラインを作ろう
家族と私のタイムラインを作ろう
①リスクを知る
①リスクを知る
タイムライン作成の第一歩は、自分たちが住む地域の災害リスクを正確に把握すること。家族で作成する場合、全員でリスクを認識することが大切です。具体的には、自治体が作成しているハザードマップを確認し、洪水時の想定浸水深や浸水継続時間などを認識しましょう。
国土交通省の「重ねるハザードマップ」(ウェブサイト)の活用もおすすめです。住所を入力すると、洪水や土砂災害の想定が重ねて表示され、地域別のリスクが確認できます。
重ねるハザードマップ↓
https://disaportal.gsi.go.jp/maps/?ll=34.786739,136.609497&z=11&base=pale&vs=c1j0l0u0t0h0z0
タイムライン作成の第一歩は、自分たちが住む地域の災害リスクを正確に把握すること。家族で作成する場合、全員でリスクを認識することが大切です。具体的には、自治体が作成しているハザードマップを確認し、洪水時の想定浸水深や浸水継続時間などを認識しましょう。
国土交通省の「重ねるハザードマップ」(ウェブサイト)の活用もおすすめです。住所を入力すると、洪水や土砂災害の想定が重ねて表示され、地域別のリスクが確認できます。
重ねるハザードマップ↓
https://disaportal.gsi.go.jp/maps/?ll=34.786739,136.609497&z=11&base=pale&vs=c1j0l0u0t0h0z0
②被害を知る
②被害を知る
次は、実際に災害が発生した際の被害を想定していきます。まずは過去の災害から被害を確認しましょう。
災害の進行過程の理解も欠かせません。水害のリスクが高まる際に発信される避難警戒レベルの情報の意味について正確に把握しましょう。
実際の大雨時には気象庁のウェブサイト「キキクル」の活用が有用です。大雨警報、洪水警報、土砂災害警戒情報等が発表された際、危険度が高まっているエリアを知ることができます。川の水位については国土交通省の「川の水位情報」で確認することもできます。
キキクル↓
https://www.jma.go.jp/bosai/risk/#lat:34.034453/lon:135.000000/zoom:5/colordepth:normal/elements:land
川の水位情報↓
https://k.river.go.jp/?zm=5&clat=35.687088&clon=138.45645728125004&t=0&dobs=1&drvr=1&dtv=1&dtmobs=1&dtmtv=1
次は、実際に災害が発生した際の被害を想定していきます。まずは過去の災害から被害を確認しましょう。
災害の進行過程の理解も欠かせません。水害のリスクが高まる際に発信される避難警戒レベルの情報の意味について正確に把握しましょう。
実際の大雨時には気象庁のウェブサイト「キキクル」の活用が有用です。大雨警報、洪水警報、土砂災害警戒情報等が発表された際、危険度が高まっているエリアを知ることができます。川の水位については国土交通省の「川の水位情報」で確認することもできます。
キキクル↓
https://www.jma.go.jp/bosai/risk/#lat:34.034453/lon:135.000000/zoom:5/colordepth:normal/elements:land
川の水位情報↓
https://k.river.go.jp/?zm=5&clat=35.687088&clon=138.45645728125004&t=0&dobs=1&drvr=1&dtv=1&dtmobs=1&dtmtv=1
③行動を考える
③行動を考える
最後にリスクと被害想定を踏まえ、防災行動を時系列で整理します(上図参考)。非常時持ち出し品の準備や避難経路の確認、家族間での連絡方法などに始まり、警戒レベルごとの行動、避難のタイミングなどを明確にします。家族のそれぞれの役割も決めましょう。
また、ペットや要配慮者がいる家庭など、それぞれの家族の特性に合わせた計画を話し合うことが大切です。重要なのは早めの避難行動を取る計画。警戒レベルに従うだけでなく、明るいうちに主体的な行動を起こす意識を確認してください。作成したタイムラインは家の中ですぐに確認できる場所に張ります。定期的に確認し、必要に応じて更新しましょう。
最後にリスクと被害想定を踏まえ、防災行動を時系列で整理します(上図参考)。非常時持ち出し品の準備や避難経路の確認、家族間での連絡方法などに始まり、警戒レベルごとの行動、避難のタイミングなどを明確にします。家族のそれぞれの役割も決めましょう。
また、ペットや要配慮者がいる家庭など、それぞれの家族の特性に合わせた計画を話し合うことが大切です。重要なのは早めの避難行動を取る計画。警戒レベルに従うだけでなく、明るいうちに主体的な行動を起こす意識を確認してください。作成したタイムラインは家の中ですぐに確認できる場所に張ります。定期的に確認し、必要に応じて更新しましょう。