名字の言(紙面)

〈名字の言〉 2025年8月4日

 ある壮年部員は「学生時代に寄席で落語を聞いた時の衝撃が忘れられない」と述懐する。高座に上がった落語家が座布団に座って噺を始めた。途中、小道具の扇子と手拭いを使い、噺を進める。彼は“もっといろんな道具があれば、表現に不自由しないだろうに”と思った▼だが実際は逆だった。落語家の高い話芸によって、扇子は本当の筆、手拭いは帳面のように見えたという。「制限や不自由の中に『無限の自由』があると学びました」▼彼は美術系学校を卒業後、小さなアトリエを開いた。ただ資金に乏しく、限られた色の絵の具しか買えないことが悩みの種だった。しかし、それが功を奏した。数少ない色を混ぜ合わせて作った色が味わい深く、作品を引き立てた▼彼を悩ませた“制限された不自由な環境”が絵画への情熱と実力を鍛え上げたのだ。その後、地域の絵画教室の講師に招かれた▼池田先生は語っている。たとえ不自由な環境の中でも、わが一念で人生を開きゆく力と智慧に満ち、真の「自由」を実現していけるのが妙法である、と。大事なのは環境ではない。自分自身だ。心に信心の炎が燃えている限り、どんな環境も成長への糧となり、“こんな意味があったのか”と必ず分かる日が来る。(城)