企画・連載

〈SDGs✕SEIKYO〉 私が世界を変えていく 2022年3月28日

池田先生の思想と行動に学ぶ勇気の一歩

 企画「SDGs×SEIKYO」の連載「私が世界を変えていく」では、SDGs(持続可能な開発目標)を前進させる方途を、池田先生の思想と行動を通して考えます。今回のテーマは「レジリエンス(困難を乗り越える力)」です。

自助、共助、公助を支える
「地域社会のレジリエンス」を
SDGsに不可欠な力

 SDGsが掲げる17の目標と169のターゲットの中に、繰り返し登場する言葉がある。「レジリエンス」「レジリエント」だ。日本語では「強靱性」「強靱」と訳される。
  
 レジリエンスは目標1「貧困をなくそう」、目標11「住み続けられるまちづくりを」、目標13「気候変動に具体的な対策を」、目標14「海の豊かさを守ろう」の中で、レジリエントは目標2「飢餓をゼロに」、目標9「産業と技術革新の基盤をつくろう」、そして前述の目標11の中で、それぞれ使われている。
  
 「持続可能な社会の実現」には、「レジリエンス」が不可欠だという。レジリエンスはもともと、心理学の用語で「弾性」「復元力」という意味がある。日本では東日本大震災以降に注目されるようになり、「困難を乗り越える力」と訳されることが多い。
  
 SDGsに求められるレジリエンスとは「鋼のように、びくともしない強さ」というよりも、「柳のようなしなやかさで、変化に対応できる強さ」「危機から回復する力」と言ってよい。
  
 感染症のパンデミック(世界的流行)や、過去に例を見ない自然災害など、誰も予想できないような変化や危機が地球規模で次々と起きる時代だ。ひとたびそうした事態が発生した際、真っ先に危機的状況に陥ってしまうのは、経済的に困窮している人々や「障がい者」「子ども」「女性」などの“社会的弱者”といわれる人たちである。
  
 コロナ禍が本格化した2年前、男性と比べて女性の雇用環境がより厳しい実態が明らかになったり、「親の経済格差」による「子どもたちの教育格差」が露呈したりしたことは記憶に新しい。周囲の支えが乏しく、自力で対応できる余裕もない場合、“危機からの回復”もまた困難を極める。だからこそ「持続可能で、誰も置き去りにしない世界」を築くには、地域社会全体に「レジリエンス」が必要なのである。
  
 池田先生は「レジリエンス」を巡り、平和学者ケビン・クレメンツ博士(戸田記念国際平和研究所所長)と語り合ったことがある。国際平和研究学会の事務局長等を歴任した世界的な学者である。
  
 東日本大震災が発生した2011年、博士の母国ニュージーランドでも「クライストチャーチ地震」が発生した。母国の大震災を経験した両者の対談は、2013年から月刊誌「潮」で連載がスタートし、16年に対談集『平和の世紀へ 民衆の挑戦』に結実する。
  
 21世紀の人類の課題とは何か。博士は「支配の論理」から脱却し、「慈悲の論理」に基づく新たな世界を築くことだと訴える。
  

平和学者クレメンツ博士との対談集から
人々の意志と生命力こそ

 「支配の論理」――それを、クレメンツ博士は「他者のニーズを犠牲にして自己の安全と幸福を追求する論理」だと定義した。これが「不平等と戦争と飢餓を生み出す背景となっています」と。
 一方の「慈悲の論理」とは、「互いの存在を尊重し、全人類のために、平和で持続可能な世界を、ともに築くことを目指すもの」だという。
 全13章からなる池田先生と博士の対談では、紛争解決、難民問題、災害からの復興など、幅広いテーマが取り上げられる中、レジリエンスの重要性が随所で触れられている。
 「共存の社会を築く“心の変革”」と題した第4章の冒頭、池田先生は、21世紀の重要な課題は「紛争や内戦の防止はもとより、民族や宗教の違いを超えて、人々が平和的に共存し、互いの尊厳を大切にし合う社会を築くこと――まさに、『人間』に焦点を当てていくこと」にあると述べる。
 博士は、対立や摩擦が発生する可能性は常に存在するものの、本来、人間は平穏な暮らしを望んでいるとし、こう主張する。「大切なのは、人間生活の一部として常に起こりうるものである『争い』が生じたとしても、暴力的な方法ではなく非暴力的な方法で問題解決を図れるような、『レジリエンス(困難な状況に直面しても、たくましく柔軟に立て直していく力)』を、いかに社会と政治制度に確立していくかです」
 地域社会におけるレジリエンスを高めるためには、防波堤や貯水池等の防災施設の充実や、制度や法律の整備などの準備は必須だ。しかし先生は「それだけでは十分ではない」と断言する。
 「あくまでその核となるのは、苦しんでいる人と手を携えて前に進もうとする『心と心の絆』です。そして、何があっても諦めない『未来への確かな希望』であり、自分たちの運命は自分たちで切り開くという『たくましき楽観主義』ではないでしょうか。つまり、目には見えない“社会を根底で支える人々の意志と生命力”こそが、最終的にはカギを握ると思えてならないのです」と。
 では、その「絆」「希望」「楽観主義」を育む主体者は、誰なのか。先生は語った。
 「たとえ現在は深刻な危機に直面していない国や地域であっても、『戦争の文化』ではなく『平和の文化』に基づく生き方を望む“心の変化”が、人々の中に日頃から育まれていなければ、何かのきっかけで、小さな摩擦が抜き差しならない暴力的な衝突へと発展することがある。さらには、深刻な軍事的対立を招き、ブレーキをかけることが難しくなってしまう場合もあります。
 ゆえに私どもSGIは、民衆一人一人が主役となり、『平和の文化』を創造し広げながら、幅広い分野で、人々の心の変革を促す取り組みに力を入れてきました」

Action 何ができるか――「つながり」を広げよう

 レジリエンスを強めるのか、弱めるのか――SDGsの目標達成に向けて、どんな施策や行動を今から開始しようかと考えた時、この見極めは大切な視点となる。
  
 とりわけ災害において、「防災から減災へ。そしてレジリエンスへ」ともいえる動きが見られる。
  
 かつて京都大学防災研究所の林春男教授は、災害への地域や組織のレジリエンスを強めるポイントとして次の3点を挙げている。
  
 ①地震や津波、感染症などさまざまな脅威に対して、今、何が自分にとって最も備えなければならないリスクなのか分析する「リスク評価」②想定した脅威による被害を予防するための対策を講じる「被害の予防」③予想したもの以外の脅威が顕在化、あるいは予想した脅威が想定した以上の被害をもたらした際の「被害を受けた時の対応」だ(枝廣淳子著『レジリエンスとは何か 何があっても折れないこころ、地域、社会をつくる』東洋経済新報社刊、参照)。
  
 これらを可能にするために、地域社会においては、池田先生が指摘した「絆」「希望」「楽観主義」が、日常的に育まれていることが求められよう。
  

 11年前の東日本大震災の折にも、自ら被災したにもかかわらず、周囲の救援活動や励ましに奔走するメンバーの姿があった。そして、復興への努力が続く今も、被災者に寄り添い続けている。
  
 災害への備え、そして災害直後から復興へ、日常の中で「つながり」を広げる一人一人の行動が、「自助・共助・公助」を支える「地域社会のレジリエンス」を強めていくに違いない。
  
  
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