エンターテインメント
〈インタビュー〉 「デビュー60周年記念 五木ひろし特別公演 坂本冬美特別出演」 2025年6月5日
「僕の相手役は彼女しかいない」。日本歌謡界の大御所である五木ひろしさんがそう言い切るのは、長年、舞台を共にしてきた坂本冬美さんに対して。7月5日(土)から明治座で始まる「五木ひろし特別公演 坂本冬美特別出演」では、芸能生活60周年を迎えた五木さんが豪快な立ち回りで、第1部の時代劇「花のお江戸の快男児 喧嘩安兵衛」に坂本さんと登場。続く第2部では、二人の歌声が響くスペシャルショーを送る。芝居と歌の魅力を余すところなく届けるステージの幕開けを前に、二人の思いを聞いた。
昨年、“喧嘩安兵衛”の演出を担当した三木のり平先生の生誕100年を迎えたこともあって、今の世の中に向けて“明るくて派手な時代物”をやりたいと思いました。初演は30代の時。喜寿となった今回は6度目の挑戦になりますが、年齢に関係なく、前回より磨きをかけて演じていきたい。再演とは「常に前進し続けること」だと思っています。
安兵衛は、情に厚くて、けんかの仲裁を買って出るような男。“生きざま”や“義理と人情”など、今ではなかなか見えにくくなっているものを描いている。僕は、そうした作品が好きなんですよ。
舞台となる江戸時代というのは、実はとても平和な世の中だったと思っています。武士も商人も農民も、それぞれが自分の役割を果たして、社会全体がうまく回っていた。そんな時代を、今改めて見つめ直すことって大事だと思うんです。
今回で“最後の舞台になるかもしれない”との集大成の思いをもって、お江戸の本場である明治座で気持ちを込めて披露させていただきます。
また、僕は歌手として、歌というものの価値、その当時を彩った人やもの、そんな背景をいつも考えてきました。すると全てが、歌の歴史に対するリスペクトにつながっていきます。だからこそ、先輩方がつくってきた歴史に自分も連なりたいと、新しい「挑戦」で次なる道を切り開こうとしてきました。
デビューからの60年は、いろんな経験と学びを積み重ねた充実の日々でした。これからも一人の歌手として、命が尽きるまで音楽を追求していきたいし、それを誰かが引き継いでくれたらいいなと思います。このつながりこそが人間の歴史ですから。
でも今の時代は、(“喧嘩安兵衛”からつながっていく)赤穂浪士を知らない人がいる。日本の歌謡曲の礎を築いた一人である、作曲家の古賀政男さんを知らない人も多い。それを聞いた時、大きな衝撃を受けました。新しくなることは良いことだけれど、忘れてはいけないこともある。だから舞台でも、“喧嘩安兵衛”のような名作を取り上げています。
日本の誇るべき文化を「継承」してもらうためにも、まだまだ奮闘していきたいと思っています。
私が舞台で演じる堀部幸は、じゃじゃ馬娘で、気丈で男勝り。安兵衛さんにも食ってかかるような勢いがあります。でも、あることから安兵衛さんの情の深さに引かれていって、途中から急にかわいい乙女に変わります(笑)。
江戸という時代は、義理人情や見た目の華やかさもありながら、道端にひっそりと咲く花を愛するような“ささやかな幸せ”を感じる心を、今の時代よりも持っていた気がします。だからこれまで、お芝居として語り継がれているんだろうと思います。
実は、今回のお話を受けた初めは、不安でいっぱいでしたが、五木先輩が70代になられてこの役を再演しようとされている。そのチャレンジ精神に応えなければと思ったんです。以前の舞台では、五木先輩から頂いた三味線を一生懸命に稽古して臨んだこともありました。自分の公演ではできないことを挑戦させていただけるのが五木先輩の舞台なんです。今回は10代の役ですので、気持ちは10代に戻って凜として演じたい。
五木先輩は、ある意味プロデューサーのような立ち位置で、ご自分のことよりも周りに気を使ってくださいます。お稽古中は笑い声も聞こえてきて、お芝居が始まっても、とてもいい雰囲気に包まれています。いろいろと教えてくださっている五木先輩の“背中”を、若い後輩にもっと見てもらいたいというのが私の思いです。
坂本 五木先輩の60周年の記念公演にご指名を頂いた、ということが本当に光栄です。華やかに、にぎやかにお届けできるよう、心を燃やして最後まで務めたいと思いますので、どうぞよろしくお願いします。
五木 歌手・坂本冬美として今、一番輝いている時です。芝居も面白いですけど、歌のステージもあります。30公演を、とにかく元気で最後まで一緒に務め上げていきたいという思いでいっぱいですね。何かあったら、僕に言ってくれれば、何でもフォローしますから。
【記事】鈴木将大 【写真】吉橋正勝
いつき・ひろし 1948年3月14日生まれ、福井県出身。64年にデビュー。71年に「五木ひろし」として「よこはま・たそがれ」を発表し、ブレーク。これまでに行ったコンサートは7000公演以上、劇場公演は5000を数える。海外でも多数の公演を行う。2007年に紫綬褒章、18年に旭日小綬章を受ける。
さかもと・ふゆみ 1967年3月30日生まれ、和歌山県出身。87年、「あばれ太鼓」でデビュー。NHK紅白歌合戦に36回出場。「また君に恋してる」(2009年)では、第52回日本レコード大賞特別賞に選ばれる。20年には、桑田佳祐が楽曲提供した「ブッダのように私は死んだ」をリリースした。
元禄7年、将軍・徳川綱吉が治める時代、商業・文化の花が開き、江戸は幕府始まって以来の繁盛を誇っていた。しかし、その半面、武道は軽んじられ、刀より金が物を言う世の中。その上、幕府の大名取りつぶし政策と相まって、仕官の道を閉ざされた浪人たちが町にあふれていた。
そんな中、中山安兵衛(五木)と清水一学(太川陽介)の運命の歯車が回り始める……。
二人それぞれの代表曲に加え、ともに3月にリリースした五木さんの「母の顔」、坂本さんの「浪花魂」も披露されるという。
「母の顔」は、昭和という激動の時代に自身を育ててくれた母親への感謝をつづった一曲だ。
「浪花魂」は“近道はない、辛抱の時期もあって幸せがある”という坂本さんのメッセージがにじむ、人生の応援歌となっている。
そのほか、歌と琴、太鼓とのジョイント(連携)などが花を添える予定だ。
【日時・会場】7月5日(土)~27日(日) 東京・明治座 ※9日(水)、16日(水)、22日(火)は休演。日により公演回数は異なる。
【料金】S席1万4500円、A席7500円(税込み)
【問い合わせ】明治座チケットセンター 03(3666)6666
五木さんと坂本さんの直筆サイン入り色紙を、それぞれ3人の読者にプレゼントします。応募方法は紙面でご確認ください。
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