企画・連載

〈SDGs×SEIKYO〉 本屋は町の“文化インフラ” ブックスキューブリック店主・大井実さん 2026年7月11日

今回のテーマは「住み続けられるまちづくりを」

  
 町から、どんどん書店がなくなっています。全盛期の1998年(平成10年)には全国に約2万4000店舗以上だったのが、2025年度末には9993店舗に(一般社団法人日本出版インフラセンター)。そんな中で、“やっぱり紙の本って良いな”と再発見できる場所が福岡にあります。店主が自分の考えで本を選んで運営する「独立系書店」ブックスキューブリック(福岡市中央区)。本を通じて人と町を結ぶ店主の大井実さんに聞きました。

居場所づくり

 ――ずっといたくなるすてきなお店ですね。どんな思いが詰まっているんですか?
  
 ありがとうございます。私は、小さい頃から転校ばかりで、まるで流れ者のような人生を送ってきました。そのせいか、30歳を過ぎた頃から、自分が住む町に根差した仕事をしたいと思うようになったんです。それが本屋だった。ただ、「自分の居場所をつくりたい」――その一心で店をつくりました。
  
 お客の“像”として思い浮かべたのは、他の誰かでなく自分自身。学生の頃から本屋が大好きで、社会人になっても、しょっちゅう通っていました。そんな自分のような活字が大好きな人をメインターゲットにした「小さな総合書店」にしようと、置きたい作品や作家をリストアップしました。
  
 大型店ではない15坪という“狭さ”もかえってメリット。読みたい本を見つけやすいからです。
 インテリアデザイナーの妻の力を借りて、店内のデザインにもこだわりました。
  
 長時間滞在してもらえるよう、書斎のような空間づくりを意識しました。働くスタッフの疲労軽減を考えて、床は木の板に、照明は目が疲れにくい白熱灯を採用しました。窓際には大きな窓ガラス越しに外から見えるように棚を設け、雑誌をディスプレー。かつて暮らしていたイタリアで見た、個人商店のショーウインドーのイメージです。町の雰囲気づくりにもなると思って。そうやって、心地よい店づくりに努めてきました。
  

旅のはじまり

 ――開業から今日まで、いろんなご苦労があったかと思います。
  
 私は、本屋の跡取りでもなければ、本屋で働いた経験もない。全くの素人。それなのに、周りの反対も聞かずに、強引に本屋を始めました。わがままに付き合ってくれる妻や娘、店のスタッフなど、多くの皆さんのおかげで続けられています。
  
 当初、「本屋を開きたい」と書店や出版社の人たちに相談すると、誰もが否定的でした。それもそのはず。当時は「天神書店戦争」といった言葉が飛び交い、福岡の市街地に大型書店が次々と出店し、町の小さな書店は廃業に追い込まれていました。
  
 それでも「本屋をつくる」との思いは揺らぎませんでした。
  
 それはなぜか――。
  
 私の父は転勤族で、幼い頃から大阪、千葉、福岡と転々としました。入学した高校は“国公立大学の予備校”みたいな雰囲気の進学校。そこに馴染めなかった私の救いが、本の世界でした。本屋に行って、お気に入りの小説や詩と出合うと、心が軽くなった。
  
 この本屋の魅力をいろんな人に知ってほしい。心が豊かになる場所を提供したい――その思いの方が強かったんです。
  
 2001年にけやき通り店(福岡市中央区)、08年には箱崎店(同東区)をオープンしました。
  
 小さな書店の経営は大変です。大型書店には、毎日のように訪れてくる問屋(出版取次)が、うちには年1回しか来ないし、大型書店に山のように積んである人気の新刊本もなかなか入ってこない。挙げればキリがありません。
  

人を結ぶ場所に

 ――大井さんが主催している福岡の本の祭典「ブックオカ」は昨年、20回を迎えました。
  
 このイベントをきっかけに交友関係が広がった人がたくさんいます。本屋には人と人を結ぶ効力があると、改めて実感しました。
  
 始まりは2006年。地元の出版社に勤める友人やネット古書店を主宰する友人と語り合う中で、“一箱古本市”をやろうと盛り上がったのがきっかけでした。
  
 スローガンは「福岡を本の街に」。書店や出版社、本好きの市民、みんなでつくり上げる本の祭典です。
  
 うちの店がある「けやき通り」では、商店二十数店舗の軒先に、公募で集まった参加者が古本を持ち寄って並べ、フリーマーケットのように販売します。毎年6000人近い人でにぎわう恒例の催しになりました。掘り出し本を目当てに来る人もいれば、散歩の途中でたまたま立ち寄った人も。本を介して自然にコミュニケーションが生まれる……素晴らしい光景です。
  
 それを見て、イベント好きの血がさわぎ始めました(笑)。
  
 2店舗目の箱崎店では、トークイベントを開催するようになりました。本で得た情報が何倍にも膨らむ「体感」の場です。イベント後の懇親会では、初対面同士でも本を話題に盛り上がる。自然発生的に輪が広がるんです。それで「これは社会のためになるぞ」と自信を持ちました。
  
 私にとって「まちづくり」とは、本を通して「文化的な縁」を広げることでしょうか。“本との出合い”によって、新たな発見や発想が広がる場所として、本屋は町に欠かせない“文化のインフラ”です。文化の魅力を伝えていくことを誇りにしながら、本を手渡す日々の商いを続けていきたいです。
  

 おおい・みのる 1961年、福岡市生まれ。2001年、福岡市中央区・赤坂駅近くのけやき通りに書店ブックスキューブリックを開業。06年、イベント「ブックオカ」を有志らと立ち上げる。08年に、カフェとギャラリーを併設する箱崎店をオープン。本を媒介に町と人をつなぐコミュニティーづくりへと活動を広げる。25年9月、第47回「サントリー地域文化賞」を受賞。NPO法人「本の学校」理事。福岡県文化賞選考委員。

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