企画・連載
〈教育本部ルポ・つなぐ〉第10回=より良い児童館を「子ども会議」でつくろう 2024年9月25日
テーブルの上には付箋がずらり。子どもたちが一枚一枚、自分の意見を書いては貼り、書いては貼りを繰り返す。ここは神戸市の児童館。館長補佐を務める瀬戸口隆生さん(副本部長)は、その様子を見守りながら言った。「いいアイデアがいっぱい出てきたね!」
昨秋から始まった「子ども会議」である。イベントの企画やルールづくりを行う場という。会議を貫くコンセプトは「より良い児童館を、自分たちでつくろう!」。
4、5人ずつ幾つかのグループに分かれた子どもたちが、付箋に書いた内容を発表し合う。「もっと楽しいイベントを増やしたい」「お祭りみたいなのは、どうかな」。各グループには職員の大人が一人ずつ付く。もちろん“口を挟む”ためではない。子どもたちがふと漏らす“つぶやき”を“拾う”ためである。
どんな小さな声も意見も、聞いてもらえて、尊重される。「子どもたちにそう感じてもらえてこそ心はつながるし、居心地の良さも生まれると思うんです」(瀬戸口さん)
小学校長を定年退職した9年前、再任用で児童館に。“第三の人生”をスタートした。少子化の流れと反比例して、増え続ける在籍数。背景には共働き・ひとり親家庭の増加に伴い、“放課後の居場所”の必要性も増している事実がある。
児童館の立つ場所は、閑静な住宅街の中。外遊びのできるスペースがない。館内は次第に過密状態に。時にストレスを感じて、居づらさを覚える子も少なくない。
どうすれば誰もが「過ごしやすく」「落ち着いて」「楽しめる」児童館をつくれるか。瀬戸口さんには、小学校教員の時代を通じて培った確信があった。「課題を解決する力は子どもたちの中にある」。その力を引き出す鍵こそ、大人側の「耳を傾けよう」とする姿勢と工夫にほかならない。
子ども会議の参加者が一体感と誇らしさを持てるよう、共通のオリジナルTシャツを制作した。開催頻度は月2回。まず「児童館の良い所」「そうでない所」を率直に語り合った。付箋の活用は、全ての意見を可視化するため。どんな内容も絶対に否定しない。話し合いをスムーズに進められるよう、順序立ててアイデアをまとめられるワークシートも準備した。
児童館のルールにも、子どもたちの“ホンネ”が反映された。「『走らない』とか『騒がない』とか、そういう言葉が多いよね」。そこで「◯◯しない」という否定形ではなく、「◯◯しよう!」というポジティブな言葉でルールを改正。自分たちで決めたルールは、自然と大切にできるものだ。
室内遊びの充実も図った。さらに発想はふくらみ、「地域の大人も子どもも楽しめるお祭りをやろう!」ということに。ネーミングも出し物も、子どもたちで立案・準備した催しは大盛況!
一連の取り組みを通して、自信と自己肯定感を育めたからだろうか。年下の子の面倒を優しく見られるようになった子、“困り感”を抱えている児童を自らサポートするようになった子などが増え、児童館の雰囲気も変わっていった。瀬戸口さんは一つ一つの変化を見逃さず、「すごいなあ!」「ありがとう!」と励ましの一言も欠かさない。
子どもたちの成長する姿と笑顔に、手応えを感じる日々。職員たちの間にも、活気と充実感が満ちていくのが分かる。
「こどもまんなか社会」「教育のための社会」とは、「子どもの声が届く社会」に違いない。子どもの幸せはもちろん、大人の喜びと生きがいにもつながっていく。「そんな社会の縮図を、この児童館に」――瀬戸口さんが第三の人生において定めた、“総仕上げの事業”の一つである。
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※ルポ「つなぐ」では、子どもや保護者と心をつなぎ、地域の人と人とをつなぐ教育本部の友を取材しながら、「子どもの幸福」第一の社会へ私たちに何ができるかを考えます。