ユース特集
【言語化特集】言葉と歩む若者たち〈3〉――等身大のシンガー・ソングライター 2025年5月12日
シンガー・ソングライターとして活動する窪穂乃香さん=奈良県御所市、圏池田華陽会サブキャップ=は、もともと、自分の気持ちを言葉にすることが苦手。悩みがあっても、一人でため込むことが多いタイプだった。
「自分に自信が持てなかった。そんな私に、表現する楽しさを教えてくれたのが、歌でした」
高校1年の冬、学校に通うことがおっくうになり、家のベッドの上で一日を過ごすことが多くなった。理由は、自分でも分からない。
「いじめがあったわけでも、人間関係や勉強で悩みがあったわけでもない。ただ、自分の中のエネルギーが切れてしまったみたいで……」
学期末テストの日。父・和弘さん=本部長=が車で送ってくれた。二人きりの車中。穂乃香さんは、何げなく父に打ち明けた。
「ギターに興味があるんだけど、やってみたい」
その日の学校帰り。父は、楽器店に寄り、ギターを買ってくれた。インターネットで弾き方を調べ、時間を忘れて練習し、初めて覚えた曲は、Kiroroの「未来へ」。
頼まれて、創価学会の地区座談会で発表した。心を込めて歌った。参加者の中には、涙を流して喜んでくれる人もいた。
「とても不思議な感覚でした。自分の思いが相手に届く。その日から、“歌手になりたい”という夢ができました」
高校卒業後、アルバイトをしながら音楽活動を続けた。周りの友達が大学や専門学校に進む中、不安と孤独にさいなまれる時もあった。その頃、女子部(当時)の会合に参加するようになった。いつも笑顔がキラキラしている先輩。“どうせ、私とは違うんだ”。そう思っていた、ある日、先輩から悩みを打ち明けられた。
「だけどね、穂乃香ちゃん、悩みも全て意味あるものにしていけるのが信心なんだと私は思っているの」
“不安や苦しみ。ありのままの自分をそのまま歌にしてもいいんだ。歌う自分と聴いてくれる人、両方が「生きよう」と思える楽曲をつくろう”と、日々の創作に励んだ。
一番自分らしさを込められた曲のタイトルは「wimp(弱虫)」。
〽ねえ、泣いていい?
君の前だけは 素直でいたいの
この弱さも認められたなら
また進めるよ
誰かに何かを伝えたくても、いつも相手の反応ばかりが気になった。伝えた後も後悔ばかりしていた。それでも、ありのままの自分を歌にしたい。自分の思いを言葉にすることで、誰かが一歩踏み出してくれたら、それでいい。――ライブハウスやイベント、路上で歌い続けて8年。これまで作った楽曲は20曲を超える。
一昨年には、初の単独ライブも開催。「奈良」と「私“なら”ではの音」をかけてライブ名は「ならのね」に。100人の観客の前で、自分の全てを込めて歌った。終了後、観客からたくさんの声をかけてもらった。「歌声が心地よかった」「頑張っている姿に勇気づけられた」――歌で救われた自分が、歌で恩返しすることができた。
昨年には、奈良県・平群町の結婚子育て応援PRに、穂乃香さんが作詞・作曲した「むすんでひらいて」が採用された。楽曲制作を何年も続けてきても、自分の気持ちを言葉にするのは難しい。それでも言語化することで、今は自分と素直に向き合えるようになれた。
これから音楽活動を続けるかは、正直決めていない。単独ライブで“燃え尽きた”感覚もあるし、他の仕事をしてみたい気持ちもある。
「でも、思いを言葉にし、歌で届けた経験は私の宝物です。どんな選択をしても、言葉にするって大切なことだから」
自分らしく、輝ける未来を信じて、これからも言葉と歩んでいく。